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第27話【迷惑な友人】

「俺の【シルビー】に会いに行くなぁ?てめぇ、何ふざけたことぬかしやがる!!」 「ふざけていない。あと勘違いをするな。会いに行くなら自前に相手の許可をとれと言った。そして断られたなら諦めろ」 ここは王宮のラフェルの執務室。 ラフェルは現在、自分よりも一回り大きな図体の男の前に立ち塞がり行く手を阻んでいる。 「ふざけんな!!お前の【シルビー】ならともかく、【シルビー】だ!口出しすんじゃねぇ!!」 全く余裕がない目の前の男にラフェルは呆れよりも同情した。何故ならラフェルは彼の気持ちが痛いほど理解できてしまうのだ。 「エゼキエル。少し前にその短慮さで私を本気で怒らせたのを忘れたのか?あと、これは私にも関係ある話だ。今、私の【シルビー】はルミィールの所で働いている。あんな事があったのに、冷静でない状態のお前をセリファがいる場所に行かせるわけがないだろう」 「お前の【シルビー】に用はねぇ!俺は俺の【シルビー】に・・・」 「・・・エゼキエル。彼の名はだ」 張り詰めた空気が執務室を支配する。 二人のやり取りをずっと見ていたラフェルの部下や女官達は彼等が言い争い始めてからその場から動く事が出来ず隅で震えてる。 ことの起こりは休暇を終え、久々に出勤したラフェルの執務室にエゼキエルが飛び込んで来たところから始まった。 彼は三日前、廊下の角ですれ違いざまにぶつかった青年がラフェルの知り合いである事を知り、彼の居場所を聞き出す為に飛び込んで来た。 それに対し、出勤早々国王に呼ばれ事情を説明されたラフェルはエゼキエルにルミィールの情報を渡さなかった。 その結果二人は現在、ドアの前で睨み合う状態になっている。 「お前、ルミィールを見つけたその日無理矢理襲おうとしたらしいな?」 「馬鹿言うんじゃねぇ。あんなチビ襲うか!話を聞けっつったのに逃げ回るから、逃げねぇように捕まえて部屋に押し込んだだけだ!」 「・・・お前にそのつもりがなくとも、ルミィールやそれを目撃した者は襲われたと思っている。しかもお前には前科がある。身体の限界が近いとはいえ何をしてもいいというわけではない。嫌がるルミィールを説得し、お前の下へ通う手筈を整えて下さった陛下に恥をかかせるつもりなのか」 エゼキエルの身体は現在、深刻な魔力障害を起こしている状態であった。自分に合う魔力交差の相手を探してはいたもののエゼキエルもまたラフェルと同じく魔力が異常に多く濃度が高い為、相手がエゼキエルに合わせられず上手く魔力を体内に収める事が出来なかったのだ。そうなると体内で絡み合った魔力は宿主の意思を無視し暴走を引き起こす事になる。 以前セリファを見つけ、無理矢理魔力交差を試みたのは、そんな事情が絡んでいた。ラフェルの魔力を鎮めるセリファならばエゼキエルの魔力も鎮められるのではと彼は単純に考えた。 「ーーーっそんなつもりはねぇよ。ただ、待つのは無理だ。取り敢えず今すぐアイツが必要だ!」 ラフェルは目の前の男から漏れ出る魔力にチラリと目をやった。確かに、本当に限界が近そうだった。 これは放っておけば凄まじい魔力暴走が起こる前兆に違いない。 「・・・お前は動くな。私がルミィールをここへ連れてくる。お前は今すぐ王宮の地下へ・・・」 コンコン その時、執務室のドアがノックられた。 その音に、その場にいた者は全員訝しげな目を其方に向ける。この執務室で起こっている騒ぎを知らない者は近くにいない筈だ。本来なら今はこの場所に客人が通されることはないはずである。 つまり、断れない相手がここに来たという事だ。 最悪なタイミングの来客にラフェルは苛つきを隠せなかった。 「誰だ。今は取り込み中だと・・・・・え?」 「・・・・・・ぁ、ごめんラフェル様」 ドアがゆっくりと開き来客者が現れると、先程までの重たい空気が、あっという間に消えていった。 隅で震えていた兵士は最高のタイミングで現れた来客者に両手を合わせて感謝した。 「ぇっと、ルミィールに一緒に来て欲しいって言われて、え?ーーっあ!」 「よ!ラフェル!って、げぇ!?」 セリファがラフェルの背後の人物に気付いて固まったのと、エゼキエルが動いたのは同時だった。 隣にいた筈のルミィールの姿が消え、代わりにエゼキエルの巨体がセリファの目に飛び込んで来る。 セリファは慌ててルミィールの姿を探した。 「エゼキエル様!?ルミィール!!」 「来るのがおせぇよ!今すぐ魔力交差させやがれ!」 「だぁあああああ!!うぜぇええええええ!!」 ルミィールを目にしたエゼキエルは瞬時に彼を捕まえ、抱き上げた。セリファはルミィールが高く持ち上げられたと気付き慌ててルミィールに手を伸ばす。 そしてラフェルも一拍遅れエゼキエルを怒鳴った。 「エゼキエル止めろ!!ルミィールの身体が折れたらどうするつもりだ阿保が!!」 「っおいこら!何勝手にこんな場所で魔力交差始めてんだ!!くそっ!やっぱ来るんじゃなかった!!」 「うるせぇ!とにかく今は好きにさせろ!!苦情は後で聞いてやる!」 そんなやり取りの中、ルミィールに触れたエゼキエルの魔力漏れがピタリッと止まったのを確認したラフェルは、深い溜息を吐くと部屋にいた兵士と女官に部屋から出るよう指示し、セリファとエゼキエル達を部屋に招き入れた。そして、目でソファーに座れと指示をする。 「なんだぁ?お前達も出ていけよ」 少し落ち着いたエゼキエルが不服そうな顔で不満を言うが、ラフェルは一蹴した。 「聞けないな。そんな状態でルミィールと二人きりにはさせられない。相手が怯えているのが分からないか?」 そう諭されエゼキエルは自分が抱えているルミィールに目をやった。目元は前髪で隠れ表情は分からないが顔色は悪く、身体に力が入りガチガチになっている。 そんなルミィールを、あの事件以来再会したセリファが心配そうに見つめていた。 エゼキエルは舌打ちすると、ルミィールが苦しくならない様に自分の膝の上に乗せ直した。しかし、逃げないように腰には腕がしっかり巻きついている。 「なんの苦行だよ。やっぱほっときゃ良かった」 「・・・もしかして、来ない方が良かった?」 申し訳なさそうにラフェルの隣に座ったセリファにラフェルは複雑な心境で微笑んだ。 来てくれて助かった、しかし少しばかり面倒になった事も確かだった。

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