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第28話【ルミィールの条件】
「セリファ、嫌なら断ってもよかったんだよ?」
「・・・いや、ルミィールにはお世話になってるし。付き添いくらい、なんともない」
どうしてこんな事になったのだろう?
セリファは少し前のやり取りを振り返る。
国王陛下にエゼキエルの魔力を管理して欲しいと頼まれたルミィールは渋々ではあるが、その役目を請け負った。
王はルミィールが許せる範囲の協力で構わないと約束した。そしてルミィールにその報酬として調香に必要な高価な材料を無償で提供してくれる事になったのだ。彼が扱う香草の中には入手が困難な物が含まれておりルミィールはそれらを手に入れる為、毎回危険な森へ取りに行かなければならなかったが、それらを簡単に手に入ると言われ二つ返事で了承したらしい。
ルミィールは根っからの香草オタクなのだ。
が、しかし。
いざエゼキエルに会うとなると、やはり気が乗らなかったルミィールはセリファついて来て欲しいとお願いしてきたのである。
そして到着直後の執務室でのこの騒動。
当然ルミィールは、エゼキエルと二人きりになる事を頑なに拒否した。
「セリファが付き添ってくれないなら僕はもう来ないからな!エゼキエルにも二度と会わない!」
いつまで経ってもルミィールを離そうとしないエゼキエルにルミィールがキレたのである。そして彼のその発言にラフェルは眉間を押さえ、エゼキエルの顔色は明らかに悪くなった。
しかし、セリファは意外だった。
ルミィールの発言を聞いたエゼキエルが怒り出す事なく、まるで初めて叱られた子供の様な顔で狼狽えていたからだ。あと、それなら来いとセリファに命令すると思いきや、その様子もない。
セリファが思っていたエゼキエルのイメージと違う。
隣に座るラフェルを伺い見ると彼も複雑そうな表情をしていた。何故関係のないラフェルまでそんな顔をしているのか、セリファは不思議でならなかった。
(・・・もしかして、俺やルミィールが【シルビー】だから?何か関係あるのか?)
セリファが再び正面を向くと物凄い目つきで此方を睨むエゼキエルと目が合った。流石の迫力である。
思わず隣にいるラフェルの服の裾を掴むと、それに気付いたラフェルがエゼキエルを睨み返した。
「おい、そんな顔でセリファを見るな。お前はまず【シルビー】について今よりも正確な知識を得ろ。あとルミィール、君の気持ちはよく分かる。だがエゼキエルも本来はここまで無礼な男ではないんだ。極限まで追い詰められていた状況で君を発見して正常な判断が出来ないだけだ」
エゼキエルを睨みながらも彼を擁護するラフェルを見て、なんとなくラフェル自身にも心当たりがあるのかも知れないとセリファは思う。彼も時折、余裕のない態度をセリファの前で見せる事があるからだ。
「・・・そりゃあそうかもしれないけどさぁ?毎回襲い掛かられる僕の身になれよ。コイツが本気になったら僕なんて片手で捻り潰されちゃうんだからな!」
「っ!?馬鹿か!んなことするわけねぇだろが!一体俺をなんだと思ってやがる!」
余りの極論にエゼキエルが反論すれば怒鳴り声が部屋中に鳴り響いた。やはり凄い迫力である。そのつもりがないと分かっていてもすくみ上がってしまう。
怯えているセリファとルミィールに気付いたのかエゼキエルは益々渋面になり口を閉じた。
これでは埒があかない。
セリファは、仕方なくルミィールの希望を聞き入れる事にした。
「分かったよルミィール。俺が付き添えばいいんだろ?付き合う」
詳しいことはセリファには分からないがエゼキエルは国王軍の中枢を任される男だと聞いている。
今この国にとって、エゼキエルはラフェルと同じくらい必要な人材なのだ。だからこそ国王陛下自らルミィールに接触したのだろう。
そして、ラフェルもそれを望んでいる。
エゼキエルはラフェルとは違い自己中心的で人に合わせる事が出来ない性格なのだと思う。明らかに、エゼキエル一人ではルミィールを説得する事は出来ないと判断し、周りが動いたのだとセリファにも理解出来た。
ここでセリファが了承しなければ、そのお膳立てが全て無駄になってしまう。それに、なによりも危険な状態のエゼキエルが手に入らないルミィールによからぬ事をする可能性も拭いきれない。
それならば早い段階でエゼキエルに落ち着いてもらい、少しずつでも二人が歩み寄れるチャンスを作った方が安心できる。
セリファも被害者なのでルミィールの気持ちが痛いほど理解出来た。あの大男と二人きりにされたら怖いに決まっている。
「しばらく様子をみて、エゼキエル様が魔力交差で落ち着くまで付き添う。その代わり、その時間も仕事としてお給料はもらうからな」
「払う払う!流石セリファ!すげぇ好き!!」
「「は?」」
「あん?」
こうして、セリファはまた別の【シルビー】の騒動に巻き込まれる事となったのである。
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