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第31話【ルミィールとエゼキエル】
それは、本当に偶然の遭遇だった。
(・・・やべぇなクソッ!制御が効かねぇ)
王国軍師団長エゼキエル・マゼンタは未だに増え続ける自分の魔力により、ここ数年不自由な生活を強いられていた。
魔人の血が濃く類稀な戦闘能力を持つ彼は、現在ラフェルと同じく、この国で必要とされている存在である。そんな彼はとうとうその日、国王から謹慎を言い渡された。
(・・・クソッ!いっそ魔力なんぞ消えちまえばいいのによ!役に立たねぇ力なんぞ必要ねぇんだ)
エゼキエルは自分の中で暴れ回る魔力が外へ放出されないよう常に神経を集中させなければならなかったが彼はラフェルとは違い細やかな魔力操作が得意なタイプではなく、少しでも感情が昂ると魔力が暴走し、外に被害が出てしまうのだ。
その威力は防護壁で守られている王宮内であっても甚大な被害を出す程強力な力だった。
エゼキエルは焦っていた。
(とにかく今は気休めでも適当な奴等と魔力交差するしかねぇ・・・気は進ねぇが・・・)
鬱々としながらエゼキエルは廊下の角を曲がろうとして、死角から飛び出してきた何かと勢いよくぶつかった。しかし、エゼキエルの鍛えられた身体は全く動じる事なく寧ろぶつかって来た相手が、反動で反対側に倒れるのが目に入った。
「んぎゃ!?」
「ぁあ?・・・・は?」
エゼキエルはその時、反射的に倒れる相手の腕を掴み自分の方へ引き寄せた。
そして・・・想定外の出来事に、そのまま硬直した。
「げぇ!?」
エゼキエルが掴んだ相手が、こちらを見上げ悲鳴を上げる。シルバーピンクの整えられた長い前髪で相手の目元はハッキリとは見えない。しかし、エゼキエルは目の前の青年を何度か王宮で見かけた事がある。確か彼は腕の良い調香師で魔術師団長ラフェル・リンドールの友人だった筈だ。
「・・・お前・・・まさか・・・俺の【シルビー】か?」
疑問を口にしながらもエゼキエルは確信していた。
触れた瞬間、その衝撃がエゼキエルを襲ったのだ。
それに相手の青年も気付いた様子である。
触れた瞬間お互いの波長がピッタリと合わさり、ついさっきまで暴れ回っていたエゼキエルの魔力がピタリと止まり信じられない程、安定し始めた。
「チョット僕貴方ガ何言ッテルノカ分カラナイデスネ?急イデルノデ離シテ下サイ」
それなのに青年は明らかに誤魔化そうとしている。
エゼキエルは衝動的に逃げられる事を恐れ、掴んでいる手に力を入れた。
「っい!?った!」
「何もないなら、なんで逃げようとすんだよ?お前俺の【シルビー】なんだろ?」
「ちょっと!?痛い!!離せよ!!」
触れた場所から移動する魔力が不安定になった事に気付き手の力を緩めると、青年は慌ててエゼキエルから離れようとした。しかし、当然エゼキエルの方が動くのが早かった。
「逃げるな!!細かい話は後だ!今すぐ俺と魔力交差しろ!」
「ぎゃーーーー!!抱きつくなーーー!!離せ!はなせぇぇええええ!!」
それが、エゼキエルと彼の【シルビー】ルミィールの出会いだった。
「はぁ・・・なんで僕がこんな事・・・」
そして現在、エゼキエルは毎回不満気にやって来る自分の【シルビー】を、なんとか自分の膝に留める事に成功していた。しかし、エゼキエルも不満だった。
「なんでラフェルの【シルビー】はラフェルに懐いてんのにお前は嫌がるんだよ。報酬はやるって言ってんだろ?」
あれからラフェルの【シルビー】同伴でエゼキエルの下に通うようになったルミィールは毎回不機嫌である。最初そんなルミィールの態度を然程気にしていなかったエゼキエルだったが、魔力が安定したのもあり最近はルミィール自身の事が気になり始めていた。
「・・・別に僕、報酬なんて貰わなくても充分満ち足りた生活送ってるし。つーかアンタの所為で仕事が出来ないからお金もらってんだけど?」
貴族でしかも軍師官であるエゼキエルよりも遥かに身分が低い立場であるにも関わらず、これ程不敬な態度をとるのは恐らくルミィールだけである。
しかし、エゼキエルは不思議とそれを不快には感じなかった。彼が気に入らないのはただ一つ。
「さっさとキスして解放してよ。僕、これでも忙しいんだよね」
ルミィールが、エゼキエルを嫌っているという態度がどうにもエゼキエルの癪に障るのだ。
それが表情に出ていたのだろう。
ルミィールがエゼキエルから目を逸らした。
微かに震えているのを見てエゼキエルは更に苛々が募っていく。
そして、色々面倒になった。
「俺はラフェルみたいに器用じゃねぇから、ちぃとキツいぞ」
「・・・は?ぇーーっちょっ?っっぅん!?」
早く済ませて欲しいというなら、そうしてやろう。
エゼキエルはルミィールの顎を上向かせ、何かを言いかけた彼の唇を塞ぎ、その半開きの口の中へ自分の舌を強引にねじ込んむと、そのまま彼の舌を絡めとった。
(ーーーーーーッ!???っんだこれ・・・すげぇ)
「ッンーーーーーー!?」
すると、予想していた以上の魔力が二人の間を行き来し、経験したことのない心地良さが二人の全身に広がった。そして同時に二人が触れている場所から甘く痺れるような快感がもたらされていく。
その抗い難い誘惑にエゼキエルは目眩を起こした。
「っぁ!だ、め・・・エゼ、キエル!もう少し魔力、おさ、え・・・ろ」
キスの息継ぎの合間にルミィールが文句を挟む。
エゼキエルは仕方なく少し唇を離すと、抱き抱えているルミィールの頭を撫でた。
すると、それまで波長はピッタリと合わさるのに、どこかぎこちなかった二人の魔力交差がスムーズに流れ始めた。
そしてエゼキエルはルミィールの異変に気が付いた。何も言わず軽く唇を合わせているルミィールが大人しく気持ち良さそうに撫でられている事に。
(なんだよコイツ。思ってたより・・・)
"可愛いな"
その言葉をエゼキエルは飲み込んだ。
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