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第33話【セリファの買い物】

「街に行く?」 暑さが和らぎ肌寒くなり始めたある朝、セリファは街へ出かける準備をしていた。今まで必要な物全てはラフェルが揃えていたのでセリファは買い物にいく必要がなかった。しかし、今日は自分で買いたい物がある。 「うん。この前ルミィールに教えてもらった店に気になる物があるんだ。帰りは遅くならないから」 心なしかセリファの表情がいつもより明るい気がする。そんな彼を見てラフェルの胸中は複雑であった。 ラフェルもセリファと一緒にお出かけしたい。 そして、思いっきり甘やかして可愛がりたい。 そんな彼の煩悩を、セリファは知る由もない。 「・・・ルミィールと出かけるのか?」 「ルミィールは今日も宮廷に行ってる。俺は一人で・・・」 「それならリィディスを連れて行くように。私の【シルビー】に危害を加えようとする者がいないとも限らないから」 リィディスはラフェルに雇われている護衛の一人である。普段はラフェルと共に行動するのでセリファは彼と二人きりで話をした事がない。 チラリとリィディスに目をやると、彼は礼儀正しく頭を下げた。 「・・・でも、彼はラフェルの・・・」 「心配しなくても私は自分の身は自分で守れる。彼も私の側にいては暇を持て余すだけだ。リィディス、任せたよ」 「かしこまりました」 本当は一人で出かけたかったのだが、セリファは諦めた。剣の鍛錬は行っているものの、それは到底実戦で役立つものではない。実際襲われたら、大して役に立たないのも事実である。 セリファはラフェルに従い護衛を連れ街に降りた。 街の手前で止まった馬車から降りたセリファは迷う事なく目的地に向かい歩き出した。 その後を護衛のリィディスが黙って付き従う。 護衛されることに慣れないセリファは、困り顔で後ろを振り返った。リィディスは、そんなセリファを黙って見返している。 実に、気まずい。 「・・・背後に立たれると落ち着かないから、出来れば並んで歩いてもらいたいんだけど」 恐る恐るお願いすると、リィディスは少し眉を下げ彼も困った表情になったが、断る事はせずにセリファの隣に立ってくれる。 セリファはホッと息を吐いて再び歩き出した。 「本当にラフェルの側から離れてよかったの?リィディスさんはラフェルの護衛なのに」 「私の雇い主はラフェル様です。その雇い主のご命令ですから」 何でもない様に返されセリファはそれ以上何も言えなくなってしまう。本当は、一人で店に入りたいのだがこの様子だと難しそうだ。 セリファは、隠すのを諦めた。 (やっぱりルミィールといた時に買っておけばよかった) 少し前ルミィールの付き添いで宮廷に行った帰りに通りかかった装飾店に立ち寄ったセリファはそこである物を見つけた。 (揶揄われそうだったからあの時は買わなかったけど・・・ルミィールだったら秘密は守ってくれるからなぁ。失敗した) 店のドアを開け入って行くとリィディスは意外そうにセリファをチラリと見た。彼は今までラフェルに物を強請った事がない。しかし、ラフェルが何度もセリファに欲しい物がないかと尋ねていたのをリィディスは知っている。 「・・・セリファ様。もし欲しい物があるのでしたら、ご自分でご購入されるのではなくラフェル様に仰って下さい」 自分の主人の望みを知るリィディスは出過ぎた事だと分かっていても言わずにはおれなかった。 しかし、それを聞いたセリファはとても言いにくそうに口をモゴモゴさせた。 「・・・それはちょっと無理。俺のじゃないし」 「・・・・・・ご友人へ、差し上げる物でしたか」 確かに人への贈り物をラフェルに買ってもらうのは気が引けるだろう。リィディスは余計な事を口にした事を反省した。しかし、すぐにその友人が誰であるかを確認せねばとセリファの様子を伺った。 もし相手が良からぬ者であればラフェルに知らせなければならない。そのための護衛でもある。 「いらっしゃいませ。本日はどのような商品をお求めでしょうか?」 「あの、この間ここに置いてあったループタイが欲しいのですが」 「ああ!この前ルミィール様といらっしゃったお客様でしょうか?ございますよ。少々お待ち下さい」 裏へ下がった店主を見て二人は首を傾げた。 「セリファ様、取置きを頼んでいたのですか?」 護衛の疑問にセリファは首を振る。 そして、直ぐに顔を赤らめた。 「・・・多分ルミィールだ。完全に先を読まれてた」 何故か恥ずかしそうに眉を顰めたセリファの様子に只ならぬ何かを察知したが、ただの護衛がセリファを問いただすわけにもいかず、目的の商品も既に包装された状態だった為、どんな物であるか確認出来なかったリィディスは少々困った。 「あの、俺がここでプレゼントを買ったことラフェル様には言わないで欲しいんだけど・・・」 「・・・申し訳ありません。ラフェル様に隠し事をするわけにはまいりません」 当然の返答にセリファは溜息をついた。 リィディスは思い切って踏み込んだ。 「あの、ラフェル様に知られると都合が悪い相手に差し上げるのでしょうか?」 「・・・別に知られてもいいんだろうけど、どうせなら驚かせたいと思って。無理ならいいんだけど」 リィディスは己の考えの足りなさに思わず目を閉じた。 何故、そんな当たり前の事に気付けなかったのか。 「・・・・・・申し訳ありません。贈る相手に買ってもらえなどと・・・無神経な事を・・・。この事は、その日まで決して口外いたしませんので!」 「いや、俺も最初に言えばよかったんだけど、なんか言いづらくて。俺もジルベールに聞いて知ったのは最近だったし・・・」 まぁ言わなくてともラフェルなら気付いていそうではあるがとリィディスはそっと息を吐いた。 実はあと数日もすればラフェルの誕生日なのである。

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