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第35話【ラフェルの誕生日】

「お久しぶりねセリファ!健やかにお過ごしかしら?」 「はい。お陰様で元気に過ごさせて頂いてます」 その日セリファはラフェルと共に彼の両親の屋敷に招待された。 今日はラフェルの誕生日。 そのパーティーをマリアンヌ達は毎年、自分達の屋敷で開いている。 「母様、父様。お久しぶりです。変わりありませんか?」 今にもセリファに詰め寄りそうなマリアンヌを阻むようにラフェルが行手を遮ると彼女は呆れた顔で口元を扇で隠しチラリとラフェルを覗き見た。 セリファは状況がよく分からず目をパチパチさせラフェルの背後に控えている。 そんなセリファにラフェルの父マクベスは黙ったまま笑を向けた。セリファもそれに気付きそっと頭を下げ挨拶を返している。 ラフェルはそんな二人のやり取りを見て思わずセリファを自分の側へ引き寄せた。 「ラフェル?」 そのまま腰に手を回されセリファは少々困惑した。 今いる広間にはラフェルの家族以外にもマリアンヌ達が招いた招待客もいるのだ。 いくらラフェルの【シルビー】と認知されていたとしても人前で密着するのは抵抗があるセリファである。 「・・・ラフェル、大人気ないぞ。久々に会ったのだから少しくらい私達にセリファを貸してくれてもいいだろう?」 「セリファは物ではありません。そう容易くお貸しする事はできませんね」 「ほほほほ!ラフェル。少し目を離した隙になんだか物凄く面白い状況になっている予感がするのですけれど?この母に隠し立てしようとしても無駄ですわよ?」 相変わらず仲が良いな? セリファはこの三人に見当違いの感想を抱いた。 ラフェルの纏う空気は明らかに刺々しさをはらんでいるのだが、その原因が自分である事にセリファは全く気付いていない。寧ろラフェルを気にかけ、なにかと世話を焼こうとするマリアンヌ達はきっと息子が心配なのだろうなと思う。 「ハッハッハ!相変わらず冗談が通じない奴め!セリファ、このパーティーは私達から君への成人祝いも兼ねている。存分に楽しむといいぞ!」 その事を知らされていなかったセリファはラフェルの様子を伺うと彼は苦い笑みを溢している。 本来マリアンヌ達も招待して行われる予定だったセリファの成人祝いは当日行われることなくセリファが回復した後、屋敷内の者だけでささやかに済まされたのだ。 ラフェルとセリファの間にあった出来事を知られない為の配慮だったのだが恐らくこの両親は察しているであろう。その証拠に明らかにラフェルを揶揄ってくる。 なんだか微妙な空気が流れ出したその時、その場の空気を変える一声がかけられた。 「団欒中に水をさして申し訳ありません。マクベス侯御子息にご挨拶申し上げても?」 「ああ!話し込んでしまってすまないな。ラフェル、お前も久々の社交場だろう?ご挨拶に行って来なさい」 一瞬ラフェルは何か言いた気に口を開きかけたが直ぐに口を閉じた。そして隣のセリファに見たこともないような甘い微笑みを向けとんでもない事を口にした。 「すまないセリファ。少し君の側を離れるけれど私が帰って来るまで絶対に父の側を離れないでくれ。どんなに可憐な花が寄って来ても決してついて行かないように」 「・・・・・・・・・へ?」 耳元で囁かれそのまま軽く頬に口付けされたセリファは、思わず頭が真っ白になり間抜けな声が出てしまった。近くにいたマクベスやマリアンヌ、そして側にいた貴族の男はラフェルの意外な行動に思わず動きを止める。 「・・・返事は?セリファ」 「・・・ぅっ!は、はぃ」 戸惑うセリファ達を置き去りにラフェルは呆然としている男性を連れホールの奥へ歩いて行ってしまう。 暫く固まっていたセリファだったが、近くにマクベス達がいる事を思い出し、なんとか平常心を取り戻そうと顔を上げた。 「・・・ぶっ!ぶぷぷぷっ!!」 「・・・マリアンヌ。我慢しないか、セリファが困惑しているぞ」 「〜〜〜〜〜〜っだってあなた・・・ラフェルったら、まさかこんな場所であんなに堂々と・・・ぶっふ!!」 あれ? もしかして自分達はこの人達に遊ばれているのでは? セリファはやっと、自分が今置かれている状況を理解し始めた。 「すまないセリファ気分を悪くしないでくれ。アレは今まで何に対しても基本無関心でな。これ程の執着心を表に出したのは初めてなんだ。それに私達は安堵しているんだよ」 セリファの知るラフェルがセリファな対して無関心だった事など一度たりともない。 彼はセリファの事をよく見ている。 それはセリファにも隠せない程に。 「それは俺が【シルビー】だから」 「「う〜ん?」」 リンドール夫妻は同時に首を傾げた。 この夫婦本当に息ピッタリである。 セリファは堪え切れず笑ってしまった。 「・・・確かに自分の【シルビー】は特別なのだと思うけれど皆が皆、同じ思いを抱くわけではないでしょう?現に運良く【シルビー】を見つけても上手くいかなかった例は数え切れない程あったのだし。いくら魔力の相性が良くとも、気持ちが備わらなければ続かないでしょう?」 彼女の言葉にセリファは両眼を見開いた。 「・・・そうなんですか?てっきり相性がいいのだから問題はそうそう起こらないのかと・・・」 上手くいかない例があるのはセリファも知っていたが彼女の説明だとまるで【シルビー】と良い関係でいられるのが稀のような言い方である。 「あら?【シルビー】が貴重な存在だと散々説明されたのではなくて?存在事態珍しい【シルビー】を手元に留め続ける事が難しいのだからでしょうね」 「・・・番相手に大事にされているのに?」 無意識に呟いたセリファにマクベスが何か口にしようとした時、甘い花の香りと共に柔らかな声が割り込んできた。 「侯爵様、奥方様お久しぶりでございます」 「あら?ルルアンナ!来てくれたのね?」 柔らかく波打つ美しい髪と少女の様な可憐さを残しているにも関わらず完璧なまでに美しい所作は彼女が大人の女性であるという事をしっかりとその場に示している。 その女性の美しい瞳がマクベス夫妻からセリファの方へと移された。 「お初にお目にかかりますセリファ様。わたくし、ルルアンナ・ベトリーチェと申します」

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