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第39話【我慢出来ないルミィール】
ラフェルとセリファの関係が王宮にまで伝わり調香師のルミィールの耳にまで届き始めた頃。ルミィールにも新たな悩みが生まれていた。
(ほんと面倒くさい!!エゼキエルの奴なに考えてんだ・・・)
貴重な存在である【シルビー】が立て続けに三人も発見された事を知らぬ者は今やこの王宮では誰一人いない。その相手の【シルビー】が皆、同性である事も既に知れ渡っている。
そう、三人目。
ルミィールはその話をエゼキエルから聞いた。
「はぁ?確かリューイ・ハイゼンバードって王宮医療院に属してるアバランチェ の長だろ?なんでそんな人が同じ王宮勤めの【シルビー】に気が付かなかったんだよ?」
「さぁな?奴等と俺らは殆ど関わり合う事がねぇからだろ?自分の【シルビー】かどうかなんて触らねぇと分かんねぇしな」
確かにそうだが、ルミィールは釈然としなかった。
思わず考え事に没頭していると、不意に後ろから強く腰を抱き寄せられる。
「おい、集中しろ。お前の方が魔力操作が得意なんだからよ。早く済ませてぇんならもっとヤル気出せ」
「はぁああああ!?なんで僕が頑張らないといけないわけ?お前が頑張れよど下手くそ!!それにサッサと終わらせたいならキスすればいいだろ!この間から一体なんなんだよ!」
ルミィールは現在、過去最高に苛々している。
その原因はもちろん他でもないエゼキエルである。
「色々面倒だろぅが。その後が」
エゼキエルの言いたい事はルミィールにも分かっている。魔力交差の為の粘膜交換は性的欲求を急速に高めてしまう。魔力のコントロールが上手いルミィールは帰るまでに鎮める事が出来るが魔人の血が濃いエゼキエルはそれがどうも難しいらしいのだ。
それが理由でここ暫く、二人は全くキスしていない。
ルミィールは、ご機嫌斜めだった。
(んぎぃーーーーーーーっ!!なんで僕が苛々しなきゃなんないんだ!魔力をちゃんと調整すればいいだろうが不器用か!っていうか下半身おっ勃てるのが恥ずかしいならパパッとどっかで抜いて来いよ!!め・ん・ど・く・せぇ!!)
心の中で止めどなく出てくる悪態であるが分かりやすく要約すると、つまりルミィールはエゼキエルとキスがしたいのだ。
なんならもっと先までしたいのである。
文句を言いつつエゼキエルとキスするのが楽しみになっていたルミィールは突然キスしてくれなくなったエゼキエルにご立腹だ。
何気に欲求不満なルミィールは、ある日とうとう我慢の限界を迎えた。
「キスしないなら帰る、もう来ない!」
「ぁあ"!?」
いつものように抱きかかえようと立ち上がったエゼキエルから距離をとったルミィールはドアノブに手を掛けそう宣言した。エゼキエルは眉を寄せてはいるが怒っているというよりも驚いている様子である。
彼はルミィールがエゼキエルとの魔力交差を未だに嫌がっていると思っているので、ルミィールが本当はもっとエゼキエルに触れて欲しいことなど知るよしもない。
「あのなぁ?マジで自制が効かねぇんだよ。襲われてぇか?」
「痛いのは嫌だ」
ルミィールは自分が握っていたドアの鍵を掛けた。
その音を聞き逃さなかったエゼキエルの両眼が僅かに開かれる。彼はルミィールの行動の意味をまだ読み取れずにいた。まぁルミィールが態度に出さないようにしていたので無理もない。
「や、優しくしてくれるなら。かっ、考えても、いい」
ルミィールは自分で言ってて恥ずかしくなった。
あれだけエゼキエルを拒否しておきながら結局のところ触れ合いを求めているのはルミィールの方なのである。
「・・・・お前いまだに俺の事誤解してねぇか?無理矢理するつもりはねぇぞ」
エゼキエルはなんだか微妙な表情でルミィールの側までやって来た。そして、顔を逸らしている彼の耳が赤くなっているのを確認すると床に膝をつき下からルミィールを覗き込んだ。
「無理矢理は僕も嫌に決まってるだろ」
子供の様に拗ねた声を出したルミィールにエゼキエルは溜息を吐いた。めんどくさそうな彼の反応にルミィールは柄にもなく泣きたい気分になる。
(だから嫌だったんだ・・・。振り回されるのが分かりきってたから・・・)
エゼキエルが求めているのは自分の身体を癒してくれる【シルビー】だ。同性の恋人ではない。
それでもルミィールは当初エゼキエルは自分の目的の為ならばすぐ手を出して来ると踏んでいた。しかしエゼキエルは意外にもキス以上の行為を求めて来なかった。
「・・・ふぅん?で?どこまでならいいんだよ?」
気がつくと下から掬い上げられるように両脇を持ち上げられ抱き抱えられていた。そして抱えたルミィールの前髪をエゼキエルが徐にかきあげる。
「・・・・・・・・・ぃぃ・・・で・・」
「あん?」
決して目を合わせようとしないルミィールの声が小さい。聞き取れなかったエゼキエルは彼の顎を掴むと少し強引に自分に向き直させる。
そこには真っ赤な顔で眉間に皺を寄せつつ目を潤ませ口をへの字に曲げ、悔しそうにエゼキエルを睨むルミィールの顔があった。
「気持ちいいとこまで!!」
そしてこの一言。
エゼキエルは、思わず素で返した。
「じゃあお前今日はもう帰れねぇぞ?」
「はぁ!?なんでだよ!!」
照れ隠しで問い返せば、そこには最高にルミィール好みの獣じみた荒々しい色香を放つエゼキエルの笑みがあった。
「そんなの、ずっと気持ちいいからに決まってんだろ?」
ルミィールはその後、抱えられたままマゼンタ邸行きの馬車に乗せられ、エゼキエルの宣言通り、家に帰してもらえなかった。
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