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第44話【シルビーの番①】
セリファとラフェルに変化が起こって数日、二人は大神官の下を訪れた。
「おめでとうございますラフェル様。膨大な魔力を制御出来る変化を成し遂げたという事、それが【シルビー】の番として認められたという証。そして、セリファが真に【シルビー】の力に目覚めたという証でもあります」
「・・・ルミィールも言ってたけど、お互い番の印が付いて身体に変化が起こると魔力交差をしなくてもよくなるって・・・本当だったんだ」
ラフェルは誕生日のあの日以来、体の不調を感じる事がなくなった。いつもならば日が経つにつれ不安定になる魔力が全くその兆しをみせなかったのだ。
今回ラフェルの身体の変化について大神官の意見を求める目的で二人は神殿にやって来た。
「ええ、その事実は口止めしていたのですが、セリファもルミィールと同じ立場ですから、黙っていられなかったのでしょう。そうです。【シルビー】を覚醒させた番の身体は【シルビー】によって体質が変化し強化されます。ラフェル様はセリファの能力の覚醒に成功しました。もう無理に魔力交差をしなくとも身体は問題ないでしょう」
「じゃあ俺、ちゃんとラフェルの役に立ったって事?」
「そうです。セリファはラフェル様の体質を変化させる事に成功しました。進化させたとも言えますが。【シルビー】の役目を成し遂げたのです」
大神官の言葉にセリファは喜びを抑えきれず笑みを浮かべラフェルを見上げた。しかし、ラフェルの表情は優れないない。その理由が分からずセルファは首を傾げている。
「・・・つまり今後、私達は魔力交差する必要がないという事か?」
呆然と口から吐き出されたラフェルの声は情けないほど掠れていた。そしてそれを聞いたセリファも考えが至り大神官に目を向ける。
問われた彼は穏やかな表情のまま二人に微笑んだ。
「その通りです。恐らくそれが【シルビー】を覚醒させたラフェル様に与えられた加護なのでしょう」
そこから始まった大神官の話は恐らく彼等以外知り得ることが出来ない【シルビー】の秘匿された内容だった。
「能力に目覚めた【シルビー】は"精霊族"そう呼ばれます」
「「は?」」
「精霊ではありません。あくまで"精霊族"という種族です。実は【シルビー】は人の腹から産み出されても、その親から血を受け継がないのです。絡み合った血の呪いから抜け出し、この地に産み出された新しい種を我々は【シルビー】と名付け、そして本来の力を覚醒させた【シルビー】を"精霊族"と呼んでおります。ラフェル様は疑問に思いませんでしたか?ラフェル様の魔力に耐え得るほど膨大な魔力を保持するセリファが魔力障害にならないのは不自然だったはず」
確かにそうだ。
この世界では魔力が桁外れに多い者ほど重い魔力障害を引き起こす。他種族婚が増えた結果、元々違う種族だった彼等の血は毒となり彼等の体を蝕んでしまう。しかし多くの魔力を持って生まれても問題なく育つ者が稀にいるという事実も彼等は学んで知っている。そもそも【シルビー】そのものが希少価値が高く異質な存在だ。
それもありラフェルやエゼキエルは彼等が魔力障害を起こさないものだと勝手に思い込んでいた。
「我々が【シルビー】を見分けられる理由がそれです。例え魔人の子として生を受けたとしても【シルビー】にはその血が引き継がれません。彼等は貴方達とは全く別の生き物なのですよ」
「・・・そんな事、ありえるのか?」
未だに信じられないのかセリファは困惑したままラフェルの腕の裾を掴んでいる。そんな彼の手をラフェルはそっと握り返した。
「ええ、驚くべきことに。そして【シルビー】を完全な地上人に変化させられるのは【シルビー】に印をつけられた番のみ。ラフェル様が継承した"血の印"と"精霊の印"を持つセリファの魔力が違えず合わさる事で起こる奇跡でもあります。人の血が今の様に混じり合わない時代。純血種は精霊の姿を容易く目で捉える事が出来たとか。はるか昔に妖精と約束を交わした者の血を引く者が【シルビー】の番に選ばれると伝え聞いております」
「・・・それを最初に告げなかったのは、私にはセリファの覚醒は不可能だと考えたからか?」
なんだか終始大神官の手の上で踊らされている様でラフェルは気分は良くない。しかし、大神官はそれが当然の様に頷いた。
「そもそもこの世界に誕生する【シルビー】はごく僅かです。嘆かわしい事に彼等が選んだ相手が"適合者"になる確率は極めて低い。それを踏まえて私から大切なお話があるのです」
大神官の言葉に偽りがないのであればラフェルは何百年振りに奇跡を起こした【シルビー】の番である。
それにより予期せぬ問題が起こる可能性も視野に入れ
彼等は自分達がどうなってしまったのかを正しく知らなければならなくなった。
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