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第45話【シルビーの番②】

二人が大神官から知らされた【シルビー】の真実。 それは俄かに信じがたいものであった。 「貴方達がこの世界ペディエナに生み出されるよりも遥昔。ペディエナは多くの精霊が暮らす大地でした。彼等は実体はありませんが彼等は確かに生きていて、この世界になくてはならない存在でした。彼等はペディエナの一部であり私達人間が生きる為に必要な物を与えてくれるのです。その内の一つが生み出される魔力です。この世界の魔力は元々は精霊が生み出したものです」 かつて世界が精霊達が暮らす楽園であったという御伽噺は誰もが聞いた事があるものだった。ラフェルとセリファは出会ったことはないが精霊や妖精が実在すると説明された事には驚きはしなかった。 「まだ精霊と人が共存していた頃、人は精霊達から力を借りて生活していました。徐々に人の数が増えると精霊達はやがて魔力を人へ与える為に妖精を生み出し、多くの生き物にその力を与えました。妖精が人に与えた魔力は与えた相手がその生涯を終えても消えることなく、彼等の子孫へ受け継がれて行きました。それが現在も受け継がれ今があります」 その話の中で二人を驚かせたのは人に魔力を与えた妖精達の目的だった。 「彼等が人間達に力を与えた理由。それは人と同じ血肉の通う身体を手に入れたいという欲が生まれたからでした」 「・・・待ってくれ。つまり妖精達は魔力を分け与えることでその相手の身体を奪う事が出来たという事か?しかし、そうなると・・・」 「違います。彼等が魔力と同時に人の体の中に潜り込んだのは間違いないのでしょうが、潜り込んだ相手を乗っ取るのではなく、その者の子孫として生まれ変わろうとしたようでした」 セリファの喉が微かに鳴る。 つまりその結果誕生したのが【シルビー】と呼ばれるセリファ達なのだろう。人ではない者達は、人の理を超え、この世界に生み出されたらしい。 「・・・存在しない生き物を世の理に逆らい創造するのは禁忌だ。聖典にもそう記されている。人の行いでないから許されるのか?」 この世界には様々な魔法や魔術が存在するがその中にも禁忌とされるものが数多く存在する。その一つに『人を創るべからず』がある。つまり人の腹から産まれる以外の手段で人を生み出してはならないという神様からの誓約が存在するのだ。 大神官はラフェルの問いに、にっこりと笑みを作った。 「形としては人の子として産まれるのですから完全に理に触れた訳ではないようです。しかし全く問題なかったかといえばそう言い切れません。その証拠に、現在精霊や妖精の存在は確認されておりません。彼等と同じような力を持つ【覚醒したシルビー】以外は」 なんだか嫌な予感がする。 大神官から事情を聞いてしまった二人はどうやら自分達は面倒事に巻き込まれていると察し始めていた。 「この世界に生きる人間の魔力が不安定な原因も、体内に本来あるはずのない魔力が血と年月を重ね引き継がれ、それらが絡み合い身体を蝕んでいるからでしょう。そうして貴方達の身体は血を重ねる毎に不安定になり、やがて子孫を残す事すら難しくなりました。同種族同士では子を授からず多種族婚が増えたという歴史的背景をラフェル様はご存知でしょう?」 ラフェルは渋い顔で頷く。 大神官の言葉は事実だった。 多くの種族が存在しているにも関わらず、この世界で純血種を探すのは困難だ。もし見つける事が出来たとしても【シルビー】を発見するのと同等に確率が低い。 ほぼ混血種しかいないと言っても過言ではない。 「【シルビー】がどんな存在かは理解した、ではその番とはなんなんだ?私は【シルビー】とは純粋に魔力の相性が合致する相手だと思い込んでいたが、そうではないんだろ?」 「そうですね。かつて彼等の姿を捉え彼等を愛し彼等から寵愛の証を与えられた存在としか。古の精霊との約束を引き継いたのが貴方達です。失えば替が効かない【シルビー】と違い、精霊から与えられた"目印"は人の子に引き継がれて行きますから」 「・・・待ってくれ、ではもし私がセリファと出会わず私の子供と出会っていたらセリファは私ではなく、その子の【シルビー】になるということか?」 単純に精霊の"印"といわれるものが存在しラフェルがセリファを見つけなかった場合、子孫に継承される番の証を受け継いでいれば有り得る話である。 しかしこれには大神官は首を横に振った。 「残念ながら、この世に生み出される【シルビー】の相手は唯一と定められております。血で受け継がれる"印"だけでは足りないのです。身体に宿る魂にも同じ"印"が刻み込まれていなければならない。そしてその魂は【シルビー】が人として生まれる前に運んで来ると伝えられております。人が引き継げるのはあくまで"印"を持った者が【シルビー】と出会うまで」 「・・・え〜と、つまり俺は全く覚えてないけど、セリファとして生まれる前ラフェルの魂をマリアンヌ様の元に届けた後、人としては不完全な【シルビー】として誕生して、元々の目的は新しい種族として生まれ変わることで、それには"印"と魂を持ったラフェルが必要だった。その約束を果たしたからラフェルは正常な状態で魔力を手に入れて、俺も変化を遂げたってこと?でも、俺はどうやってラフェルの魂を運んで来たんだ?俺何も覚えてないけど」 話を聞きながらラフェルは自分の疑問の答えに確信を持ち始めていた。そんなラフェルに気付いた大神官も応える様に笑みを向ける。 「・・・ここからが、本題か?」 神殿は【シルビー】を守るために存在するものだと教えられて来た。それならば彼の推測に間違いはない筈だ。 「生まれる前の記憶がないのは当然です。そしてセリファとラフェル様を導いたのは私達神官です。それが世界を守る為私達に与えられた使命ですから」

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