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第46話【シルビーの番③】

神殿の奥、儀式の間に通されたラフェルとセリファは大神官と共に床に大きく描かれた魔法陣の上に立たされた。ここからは話すより見た方が早いと、部屋に連れて来られたのだ。 「心配しなくとも場所を移動するだけですので。楽にして下さい」 不安そうなセリファを安心させるようにラフェルも頷いてセリファの背に手を回し軽く撫でた。魔力の多いセリファだが、彼は魔法を使った事がない。初めての魔法に緊張してしまったのだろう。ラフェルは背中に回した手を下ろしそのままセリファの腰に回し自分に引き寄せると優しく微笑んだ。 「今度セリファにも魔法の使い方を教えてあげよう」 「え、いいの?」 明らかに期待に目を輝かせたセリファがラフェルを見つめたと同時に、三人が立っていた魔法陣が光りを放ち彼等の身体を包み込んだ。そして気がつくとラフェル達は光り輝く石造りの祭壇の前にいた。 「ここは?」 中はとても明るく壁や柱に施されている彫刻は繊細で美しかったが、壁には窓が見当たらない。その事から、どうやらここは地下に造られた部屋だと推測出来た。 「ここは導きの間です。この世界に生まれる者の魂は必ずこの神殿の道を通らなければなりません。あの一番奥にあるものが見えますか?」 その視線の先には真っ白に発光する柱のような物がある。 建物の柱の一部かと思ったがどうやら違うらしい。 「・・・あの柱は、もしかして何かの木?」 セリファの問いに神官は満足気に頷いた。 しかし、ラフェルは白く発光する樹木など見た事も聞いた事もない。それに、ただ白く光っているだけではなさそうだ。よく見ると木の柱の中心部をおびただしい数の光の束が通り抜けている。 「・・・まさか、これが魂の通り道か?」 「やはりラフェル様も見えるのですね?実はこの木を目視出来る者は限られております。それも【シルビー】と繋がったという証になります。神殿での私達の役割は此処を通過出来ない魂を導く事。ここでいう通過出来ない魂とはあなた方を指します」 二人はその説明でまた一つ謎が解けた。 「もしかして【シルビー】は、この道を通れない?」 「そうです。正確には・・・魂の印を持った運命の相手と共にでないと、ここを通り抜けられません。そして、人から生まれる事ができても印を持つ者と繋がる事が出来なければその【シルビー】は人の寿命を終えた後、そのまま魂が消滅し生まれ変わる事が出来ません」 衝撃的な事実にセリファよりもラフェルの方が血相を変えた。つまり、もし今回ラフェルがセリファと出会わなければ、ラフェルは知らぬ間に自分の【シルビー】を永遠に失った可能性があったのだ。 「例えばそのまま【シルビー】が減り続けたとして何か問題が?」 魔力暴走で苦しむ者達からすれば【シルビー】は希望であり絶対に手に入れたい存在ではある。しかし、それはあくまで人側の事情だ。それを理由に大神官が【シルビー】を守るとは考え難い。 だとすれば【シルビー】が減る事で生じる問題が他にもある筈なのである。 「この世界が元々は精霊が存在する事で成り立つ地である事はもうご存知かと思います」 「精霊や妖精がいなくなった事が問題になっていると?」 確かに大神官はラフェル達に、この世界は精霊の棲む世界だったと説明した。だが今現在不自由なく暮らしている彼等には何が問題になるのか分からない。 「その通りです。私達は【シルビー】を可能な限り長くこの地に繋ぎ止めたい。実は【シルビー】がこの地に存在する事が一番重要なのです。例え記憶になく姿が違えど、【シルビー】の先祖は精霊です。この地は彼等の為に造られました。【シルビー】までこの世界から消えてしまえば美しい大地は神の加護を失い、人が生きられる場所ではなくなってしまう。現に、この世界は緩やかに壊れ始めています」 ラフェルは自分の予測の範疇を超える事情を説明され頭を痛めた。王宮で働く彼は大神官の言葉を笑い飛ばすことは出来ないのだ。この国ではまだ何も起こっていないが、実は他国で不可解な天変地異が起こっている事実をラフェルは知っていた。 「・・・それが事実だとして、何故私達にその話を?セリファがこの地に存在していればいいのであれば、わざわざこんな所まで連れて来る必要はなかっただろう?」 ラフェルの疑問には、意外にも大神官ではなく彼の【シルビー】が答えた。 「もしかして俺も大神官様みたいに【シルビー】を見つける事ができるとか?」 セリファが輝きを放つ木の幹に近づきそっと撫でると手のひらに吸い寄せられるように光が集まって来た。 大神官は柔和な微笑みでそれに答えた。 「ええ、しかしそれ以外にもお二人にしか成しえない事があります」 「待て、一体なにを・・・」 大神官の手がセリファに向けられた瞬間ラフェルは反射的にセリファを守ろうと手を伸ばした。しかし、そのすぐ後、放たれた言葉にラフェルは固まった。 「子作りです。セリファ様どうか。ラフェル様と共に、この世界をお救い下さい」 今日一番の衝撃発言に二人はしばしの間、何の言葉も発する事が出来なかった。

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