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第48話【シルビーの護衛】
微かな小鳥の囀りでラフェルは目を覚ました。彼はいつもの寝衣は身に付けていない。しかし身体は冷えることなく、とても温かかった。
「・・・夢、ではないよな?」
すぐ隣で自分と同じく生まれたままの姿の青年が寝返りをうつ。昨晩二人は本当の意味で両想いになった。
セリファは【シルビー】ではなく、恋人としてラフェルを受け入れた。セリファの狭い最奥にラフェルが入り込むたび、声にならない悲鳴を上げながら耐えるセリファの顔を思い出したラフェルは再びベッドに顔を沈め呻いた。
「ーーーーーーッぐぅ!」
そしてそのまま歓喜で身体を震わせた。
普段セリファの前では極力表情に出さないようにしている彼への想いが感動のあまりダダ漏れになっている。
(〜〜〜っなんってーーっ可愛いんだ!彼は前からこんなに可愛かったか?いや、確かに子供だと知ってからは可愛らしいと思った事もあったが・・・あんなに必死に私に縋りついてくるなんて・・・いや、初めて魔力交差なしで抱かれたのだから戸惑いがあるのは当然だが、それにしても!)
あどけない表情で眠っているセリファをそっと抱きしめながらラフェルは一人喜びを噛み締める。そもそもこんな風に激しく感情が動くのはセリファが初めてで、ラフェルも心落ち着かせるのに必死なのだ。
彼はセリファに出会うまで自分がこれ程人間に執着出来るとは思っていなかった。
「んっ・・・ラフェル?・・・おはよう」
「おはようセリファ。すまない、起こしたか?」
目覚めたセリファはまだ眠そうに瞬きをしながらゆっくりと首をふりラフェルの背中に手を回し抱きついてくる。
少し癖っ毛のセリファの髪が柔らかく少しこそばゆい。
「前から思ってたんだけど・・・ラフェルからいい匂いがする・・・俺、この匂い、好き・・・」
普段ならこんな風に甘えて来ないセリファにくっつかれたラフェルはまだ少し寝ぼけている恋人の愛しい姿に箍 が外れそうである。
「じゃあ好きなだけくっついていればいい。どこか痛む所はないか?こことか、ここも」
「ーーーっんぅ!ぃ、痛くはなぃ、から、触ったら、ダメだ」
ラフェルの手がセリファの肌の曲線を優しく撫で鮮やかに残された赤を辿っていくと、昨晩触れられた感触を思い出したのか、セリファが身じろぎした。どうやらしっかり目も覚めたようである。顔が赤い。そろそろ夢から覚め朝の支度をしなければならないのだが、恥ずかしそうに目を潤ませる恋人を前に、なんとラフェルの熱が再燃した。
「痛くない?じゃあ気持ちいい?セリファ細いのに体力があるから、もう少し頑張ろうか?」
「え?ちょっ!ラフェル!?」
抱き合った状態のままクルリと身体を回転させたラフェルは慌てて手を離したセリファの上に覆い被さった。そして、何か言おうと口を開いたセリファの口を素早く塞いでしまう。
「んっ!?ふっ〜〜んぅっ!」
いつもなら強引に事を進めないラフェルのらしからぬ行動にセリファは驚いたが、長いキスから解放されると抵抗しなくなった。かわりに、少し困った顔でラフェルを見ている。
「・・・そういう意味で言った訳じゃ・・・」
「分かってる。でも、セリファに好きだと言われたら私は我慢出来なくなってしまうから気をつけた方がいい」
なんとかキスで気持ちを収めラフェルが身体を起こすとセリファも恥ずかしそうに笑いながら起き上がった。
そして再びお互いの唇が自然と引き寄せられそうになった時、突然部屋の外が騒がしくなった。
「主人はまだお休み中です!客室でお待ち下さい!!」
確認する間もなく突然二人がいる寝室の扉が開かれる。
その間ほんの数十秒。
「失礼するよ!ラフェル!君に急ぎ頼みたいことがある!」
突然の来訪者にラフェルは瞬時に動いた。
近くのシーツを手繰り寄せ、セリファの肌が見えない様素早く羽織らせ招かざる客を鋭く睨みつける。
許可なく開け放たれた部屋の入り口にはラフェルの知る男の姿があった。
「研究所を吹き飛ばされたくなければ即刻この部屋から出て行け。貴様を招いた覚えはない」
明らかに不機嫌になったラフェルを無視し、来訪者はにこやかに首を傾げ肩をすくめる。突然の招かざる客にラフェルは嫌な予感しかしない。
「ごめんごめん!まさかお楽しみの最中だったとは。でもねぇ?私はちゃんと忠告しただろう?身辺には注意を払えと」
来訪者は一見愉しげにラフェルを見下ろし次に隣でシーツに包まるセリファに視線をうつした。セリファは訳が分からず目をパチパチさせている。
「おめでとうラフェル。【シルビー】とひとつになったらしいじゃないか。数百年振りの快挙に多くの者が君達を祝福しているみたいだよ」
「・・・その話を、どうやって知った?リューイ、分かるように説明しろ」
こんな朝早く許可もなく突然ラフェルの屋敷を訪れた男。
それはラフェルと同じく王宮で働く魔力管理室長官リューイ・ハイゼンバードだ。因みに彼は王宮内で変人と名高い人物である。
「ゆっくり説明したい所なんだけれど今はその暇がなくてね。だから代わりに彼を預けに来たんだよ」
そして確か、彼も見つけていたことも思い出す。
リューイの背後から一人の男が前に進み出た。
「暫くの間、彼をここに置いて欲しい。君の【シルビー】の護衛として」
「・・・本日から師団長様の【シルビー】の護衛騎士として配置されました。アルティニィア・メイデンと申します。以後お見知り置きを」
【シルビー】が【シルビー】を護衛する。
前代未聞の展開にラフェルは自分の耳を疑った。
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