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第50話【妖精族と番】

ラフェルとセリファが両想いになり半ば強引にアルティニアがセリファの護衛になって数日。 新たな変化が訪れた。 「・・・セリファ、見えているか?」 「・・・うん。ラフェルにも見えてるんだ?」 二人は今朝から屋敷の庭で魔法の訓練をするはずだった。しかし先程から痛い程感じる視線を無視できなくなっている。 最初にその視線に気がついたラフェルは屋敷に侵入者が現れたのではと警戒した。しかし直ぐにその警戒を解き次に自分の目を疑った。 何故かというと、その視線の主が人間ではなかったのである。 「大神官様が言ってたのは本当だったんだ・・・」 「妖精の種子を目覚めさせるなんて、俄に信じ難かったが・・・本当に私達の魔力から産まれるとは」 二人は驚く事すら億劫になり溜息を吐いた。 今起こっている現象については予め大神官から説明を受けている。その為二人は、実際にソレを見ても然程動揺はしなかった。 「大昔に絶滅した妖精が目の前にいるなんて。実物を目にしても、正直信じられないんだけど・・・」 大神官の口から出た『子作り』という言葉。アレにはしっかりと意味があった。 人に生まれ変わる為に人間と繋がった妖精達は仲間を生み出す事が出来なくなったといわれている。そして【シルビー】として生まれ変わった彼等は印を付けた相手と再び繋がる事が出来なければ二度と生まれ変わる事が出来ず、この世界から消えてしまうのだ。 妖精や精霊の消失はこの世界の終わりを意味する。 この事実を知る者は皆頭を悩ませているに違いなかった。 「妖精族が妖精を復活させる唯一の手段だとは。【シルビー】が神殿から厳重に保護されるわけだ」 ラフェルは重い溜息をついた。 頭が痛いのはラフェルも同様である。 「やっぱり俺達の周りから光の塊が増えていってる気がする。冗談じゃなくて本当だったんだ・・・その・・・【シルビー】と【シルビー】の番が妖精を誕生させるって・・・」 増える小さな光を数えながらセリファは言いずらそうに口をモゴモゴさせている。それを見たラフェルは頭が痛かった事も忘れてセリファを背後から抱き寄せた。 「正確には【シルビー】が満たされると、だ」 「・・・・・本当に仲良くしてるだけでいいのかな?そんなに難しい事でもないのに心配なんだけど」 【シルビー】と繋がり晴れて両想いになったラフェル達に大神官は出来るだけ長くその状態を維持して欲しいと願った。その期間が長くなればなるほど必要な妖精が増えるからだ。 ラフェル達からしたら簡単に思えるのだが、実際それが一番難しいらしい。 「実際私達の様に繋がって関係を維持するとなると難しいのだろうな。多くの者がこうなる前に関係が壊れると言っていただろう?そして無事に【シルビー】を変化させても妖精を生み出すにはその二人が必要になる。どちらが欠けてもいけないんだ」 「そっか・・・。先にどっちかが死んじゃう可能性もあるし、気持ちが変わってもいけないんだもんな」 「心変わりに関しては心配してないが?私の想いは生涯変わる事はない」 背後から抱きしめているセリファの首筋がほんのり色付いていく。耳に関してはすでに真っ赤である。 「・・・お、俺も変わらない、から。だいじょうぶ」 大丈夫じゃない。 ラフェルは今すぐセリファを可愛がりたい。 震える頸に唇を当てお腹に回している腕に少し力を入れる。 そんなラフェルが気になってセリファがチラリと背後にいる彼を見上げてくる。 「セリファ。なんだかさっきより光の数が増えたと思わないか?もしかしたら私達が仲良くすればするだけ彼等が生み出される数が増えるのかも知れないね?」 「え!?ぁ、そうかな?確かにさっきより多いような?」 正直、この事実が世に知れ渡れば二人は今以上に面倒な立場に置かれる事になる。その中でも一番の問題は現在妖精を復活させる者がラフェル達しかいないというものだ。 妖精を手に入れたいが為、手段を選ばず二人を手に入れようとする者が現れるだろう。また誤った知識でセリファに害を与える者も現れるかもしれない。 「少し試してみないか?もっと愛し合えば数が増えるかも知れないよ?」 「ーーーーーーッ!?で、でもまだ日が高いし、お、俺この後ルミィールと約束して、るんだけど?・・・って、ラフェル!?」 ラフェルの誘いに戸惑いながら真っ赤になっているセリファが愛おし過ぎて思わず笑ってしまう。それを見たセリファは少しむくれながら非難めいた視線を向けて来た。 勿論本気で嫌がってはいない。 そんな彼に口だけの謝罪をしながらラフェルは思う。 (問題は山積みだが、今はセリファとの時間を大切にしよう) 「ラフェル様、大変です!!」 数日後ラフェルは王宮の廊下で緊急の報告を受けた。 それはグルタニアの南東部山岳地帯に本来ならいるはずのない大量の魔物が突如出現し近隣の村や町を襲い始めたという信じられないものだった。

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