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第51話【エゼキエルの遠征】
第51話【エゼキエルの遠征】
「っつー訳で俺は暫くの間、王都を離れる」
「・・・・・・・あ?」
ルミィールはその言葉に眉を寄せた。
本日、ルミィールは魔力交差の為にエゼキエルの屋敷に訪れている。つい先程までいつも以上に執拗に身体を求められ、ドロドロの4回戦に突入。体力の限界で意識を失い、目が覚めたルミィールがエゼキエルに抗議をしようと身体を起こすと唐突にそんな言葉を被せて来た。
正直意味不明である。
「いや、どういう訳だよ。意味わかんねーよ」
本当は叫びたい心境だが、そんな元気など残されていない彼はエゼキエルを睨みつけるに止めた。
そんなルミィールの怒りに構う事なくエゼキエルはうつ伏せになっているルミィールの身体を持ち上げ自分の腕の中に抱き寄せる。
力では到底敵わないルミィールはされるがまま、恨めしげにエゼキエルを見上げた。
「どうやら山岳地帯に魔物が現れたらしいぜ。ちと数が多いから各領地から王都に救援要請があった。それで暫くここを離れる」
「・・・それは・・・エゼキエルが動かないといけない事態ってことか?」
エゼキエルは王国にある五つの軍の内、三つを動かせる立場にある。しかしそれらの軍隊を自ら率いる事態は滅多にない。彼が動くとしたら余程大きな戦が起こるか、または厄災が降りかかる危険があるかに限られる。
「ま、そういうこったな。ルミィール、俺がいねぇ間はラフェルの屋敷にいろ」
「・・・なに勝手に決めてんだよ・・・・」
勝手に話を進めるエゼキエルにルミィールは首を縦に振らない。そんなルミィールの態度にエゼキエルは軽く舌打ちした。どうも苛立っているというよりは、どう言えば納得させられるか考えるのが面倒な様子である。
ルミィールは皆を怯えさせる威力のあるエゼキエルの顰めっ面を確認して溜息をついた。
「ラフェルには、ちゃんと伝えてあるのかよ?」
「そのラフェルが提案してきたんだよ。今あいつの所にはアルティニアもいるからな。セリファが困ってるらしいぞ?奴はバカ真面目だからお前も行ってセリファの負担を減らしてやれよ」
「ふ〜ん?まぁそういう事なら・・・でも、アンタが帰って来るまでだからな?あの二人のイチャイチャを見せつけられるのは鬱陶しい」
渋々了承しながらルミィールはエゼキエルにもたれかかった。そうしながら次に何を言えばいいのか考えるているとエゼキエルの方が先に口を開いた。
「新しく見つかったリューイの【シルビー】は元王宮騎士だ。俺やラフェルには劣るが、それでも強ぇ」
だから安全だと言いたいのだろうか?
ルミィールは意味が分からず首を傾げる。
しかしエゼキエルが伝えたい事は別にあるようだ。
「それでもリューイはアルティニアをわざわざラフェルへ預けた。詳しい理由は知らねぇ。奴が話さなかったからな」
「・・・どういうことだよ?」
一応聞き返したがルミィールは彼が言いたい事がなんとなく分かった。リューイ・ハイゼンバードが何を警戒しているのかを。
「ラフェルとセリファが番のに成功したのを良く思わねぇ輩がいるらしい。理由はわからねぇが・・・これ以上成功例を増やしたくない連中が動き出したみてぇだな」
「なんだよそれ。それじゃあ、もしかして・・・」
狙われているのはまだ印を一つに出来ていないルミィールとアルティニア。エゼキエル達は誰かに罠を仕掛けられている可能性がある、という事だろうか。
ルミィールは思わずエゼキエルに飛びついた。
「罠かも知れないって分かってて行くのか?なんで!」
「いや?まだ分かんねぇよ。可能性があるってだけだ。それに、敵がいるなら見つけねぇと何も出来ねぇだろうが。【シルビー】はこの国では保護対象だ。相手も表立って何か仕掛けて来る事はねぇだろうしな」
至って軽いエゼキエルの調子にルミィールは苛立った。
そんなルミィールを宥める様にエゼキエルの手が彼の頭を優しく撫でる。最初に出会った頃に比べてエゼキエルのルミィールの触れ方は随分と丁寧になった。
「大丈夫なのか?僕が側に居なくて身体の調子がおかしくなったりしないのかよ?」
「どうだかな。まぁ前みたいになったとしても魔力が抑えきれなくなるだけだからな?魔物ごと山を吹っ飛ばせばすぐに帰って来れるぜ?」
適当な返しにルミィールの目が半眼になる。
冗談だと思えない。
笑い飛ばせないルミィールがそこにいる。
「まぁ只でさえ俺達の【シルビー】だと知れた時点でお前達は狙われてんだよ。俺達を良く思わねぇ連中からな。これはもう自分達の運が悪かったと思って諦めろ」
「他人事だと思って。本当自分勝手だなアンタ」
エゼキエルに見つかった時から厄介事に巻き込まれる事は分かっていた。それでも結局、今まで逃げずにエゼキエルの側にいる事を選んだのはルミィール本人だ。そう思っていてもルミィールが素直にそれを伝える訳もなく。
「そんなに怒んなよ。お前いつも怒ってねぇか?」
「エゼキエルが僕を怒らす事ばっかするからだろうが!怒らせたくないならさっさと帰って来い!」
"エゼキエルの側を離れたくない"
ルミィールはまだ、その言葉を口にする事が出来ないでいた。
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