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第57話【リューイの帰還】

「ラフェル」 王族が暮らす王宮殿でラフェルは予想通りの人物に呼び止められた。自分よりも背の高い、しかしエゼキエルほど大柄ではない見知った人物が回廊を歩いてラフェルに近付いて来る。 「父様。お久しぶりですね」 「あまりに連絡がないからお前の顔を忘れかけたぞ。セリファに夢中なのはいいが偶には顔を見せないか。マリアンヌの機嫌が悪くてかなわないぞ」 そんな父マクベスも滅多にラフェルに近況を報せては来ない。ラフェルを溺愛するマリアンヌとは対照的にマクベスは放任主義である。だが実はラフェルはなんだかんだと口煩い母親より、偶に会うこの父親の方がどちらかといえば苦手だった。 「母様は父様がどうにかして下さい。それよりもリューイ・ハイゼンバードが調査から戻って来たと聞きました」 「長年苦しんでいた問題から解放されたというのに、お前は全く変わらんな?まぁ彼は動けぬお前の代わりに調査に駆り出されたのだから、気にもなるか」 現在ラフェルは国王からこの国を離れる事を許されていない。厳密にいえば【シルビー】のセリファから離れるなと命じられている。 数ヶ月前グルタニアと隣国の境界に謎の魔原体が確認された。生命ではない物体が強力な魔力を帯びた状態。 それが"魔原体"だ。ラフェルは魔術師団長を努めながら魔力の研究も行っている。今回の様に自然に出来た魔原体を回収し、調べるのは本来ラフェルの管轄だった。しかし国王はその任務にリューイ・ハイゼンバードを指名したのだ。 難しい顔をする息子の肩を叩きマクベスは彼の耳元へ顔を寄せる。 「いま陛下はお忙しい。お呼びが掛かるまで謁見は難しいぞ。あと、お前が動くのはまだ難しいだろう」 「そうですか。では今日はもうここにいる必要がなくなったので私はこれで失礼します」 あくまで王宮官吏として対応する息子にマクベスは頭をかいた。そして息子が抱えたであろう新たな問題に向け彼も思考を巡らせていた。 必要な仕事を持ち帰り屋敷に戻るとすぐにラフェルは異変に気が付いた。 「ラフェル様お客様が皆様とお待ちです」 彼を待っていた執事が急ぐようにラフェルを促す。 ラフェルも彼が迎えに来るのは予測していたが、まさか真っ直ぐここに来るとは思っていなかった。 「・・・いや、それはそうか。自分の【シルビー】を放っておけるわけもない」 面倒だとなと思いつつラフェルは仕方なく来客用の部屋に入り、思わず固まった。 「すっげぇ!!リューイ様、魔力凝固できんの?本当に?本当に?」 「コツを掴めば簡単さ。それに、ルミィールが普段している仕事も実は同じなんだよ?いやぁ〜それにしても驚いたよ。ルミィールもセリファも感覚派なんだねぇ?この国には理論構築派が多いから話が合わなくてつまらなかったんだ。仲間が増えて喜ばしいよ」 「魔力使うのってこんなに面白いんだ。知らなかった」 その部屋には調査から帰って来たばかりのリューイ・ハイゼンバードと楽しそうに会話するルミィールとセリファそして彼の【シルビー】であるアルティニアが肩身の狭そうな様子でソファーに座っていた。 子供の様なセリファの無邪気な笑顔にラフェルは釘付けになる。可愛い。驚く程セリファが可愛かった。 「固体に出来るなら、そこから液状化させられるんじゃね?僕は液体からしか作ったことないけど液体を魔力凝固させられたらいいなってずっと思ってたんだー!リューイ様是非僕の友達になってよ!」 「え!ルミィール?流石に唐突過ぎない?リューイ様とても偉い人なんだろ?不敬なんじゃ?」 「あはは!構わないよ。君はエゼキエルのお気に入りだし君の店の商品は貴族達の評判もいい。なにより君の意見は研究の参考になる事が話して分かったからね。こんな事ならもっと早く君に関心を向けるべきだったかな」 ラフェルはその言葉に悪寒を感じた。 ここにエゼキエルがいなかった事を心底安堵した。 もしやその友達にセリファも含まれるのだろうか? 絶対に阻止せねばならないが言える雰囲気でもない。 これは、まずいかもしれない。 「セリファ」 なによりも先にその名を呼ぶ。 するとセリファは直ぐに振り向いた。 「あ!ラフェルお帰り!」 ラフェルの帰宅を喜ぶセリファの表情を確認してラフェルは安堵の吐息をもらす。近くまで来たセリファをそっと自分に引き寄せるとセリファが不思議そうにラフェルを見た。 「・・・リューイ・ハイゼンバード。何度も言うが来るなら事前に連絡を寄越してくれ。こちらにも色々と準備があるんだ」 「いやいや。そんな仰々しく迎えてくれなくても構わないし、もてなしも必要ない。私はそういう堅苦しいのがなによりも苦手なのだよ。それより私が不在中面倒をかけてすまなかったね。まぁ君の自業自得とはいえ、私の都合を押し付けたのも確かだ。感謝しているよ?」 相変わらず礼儀も何もないリューイの態度に頭を痛めたラフェルは眉間を押さえた。そんなラフェルを心配そうにセリファが見ている。 微妙な空気の中、それでも話を聞かなければとラフェルが動くとリューイを纏う空気が変化した。 「申し訳ありません、ラフェル様」 ここまでずっと黙っていたリューイの【シルビー】アルティニアがやっと口を開いたのだ。 「私は退室しても宜しいですか?先程から、少し気分が優れないのです」 そう発言した彼の顔色は本当に悪かった。 そして、そんなアルティニアの様子に誰よりも反応を見せたのは先程まで楽しげに話していたリューイ・ハイゼンバードだった。

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