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第59話【意外と知らない友人のこと】

ラフェルは屋敷の執務室で渡された報告書に僅かに眉を寄せていた。 それは南東部へ魔物討伐に向かっていたエゼキエル達が討伐を終え帰還するという内容だった。 (想像していた以上に被害が大きい・・・。何故今まで王都に情報が流れて来なかった?強い魔物に襲われたなら自警団だけでは手に余る。仮に村が襲われ村人が全滅だったとしても、外部との関わりを遮断していない限り数日のうちに気が付く筈なんだが) 魔物が発見されてから討伐隊が組まれるまで然程時間はかからなかったが目的地の南東部は馬でも五日はかかる距離だった。その間に近くの村や町は次々に襲われ小さな村は壊滅した。死傷者も多く、向かった討伐隊も無事では済まなかったようだった。 ドアを叩く音にラフェルは意識を切り替える。 もう足音だけで相手が誰なのか彼には分かるようになっていた。 「どうぞ」 「ラフェル、いま少し話してもいい?」 ブライトグリーンの癖のある髪が真っ先に視界に入って来る。遠慮がちに顔を出したセリファは相変わらずラフェルの邪魔にならないよう気を使っている。そんな愛しいセリファの態度にふと間もなく帰還する男の【シルビー】を思い浮かべる。 「今日はルミィールの相手はいいのか?彼がここに来てからずっと一緒にいただろう?」 少しばかり棘があるのは許して欲しいとラフェルは思う。 頬が赤くなったセリファには気付かぬふりで彼を近くに呼ぶ。セリファはラフェルの膝の上に腰掛けて、そっと両腕をラフェルの背中に回した。 「ごめんラフェル。でも、ルミィールもエゼキエル様がいなくて寂しいんじゃないかと思って。口は悪いけどルミィール、エゼキエル様のこと嫌いじゃないから」 それはラフェルも同意見だ。実のところエゼキエルとルミィールは上手くいかないと思っていたので以外だった。 しかしなによりも一番驚いたのはエゼキエルがルミィールとの出会いで変わった事だった。 「そうだな。ルミィールは好き嫌いは激しいが、一度自分の懐にいれた者は簡単に見放したりしない。エゼキエルの奔放な性格も度が過ぎなければルミィールとの相性は悪くないのかもしれないな」 ラフェルの言葉にセリファは曖昧な相槌をうつ。ラフェルはルミィールとの付き合いは長いが、あくまで商売人とお客様という関係で成り立っている。 長い付き合いで互いにある程度信頼があり表面上は友人の様な態度で接しているがセリファはルミィールがしっかりラフェルと適度な距離を保っている事に気が付いていた。 実のところラフェルはルミィールという男の事をよく知らないのだ。彼等はお互いに干渉したりしない。恐らくそこまでお互いに興味がなかったのだろうという印象をセリファは抱いている。 ルミィールはセリファ相手だと何でもない事でも興味を持ち色々と詮索してくる。それに普段言わないような本音や弱音も二人きりになると口にしたりする。そんなルミィールを知るセリファは複雑な心境なのだ。 (ラフェル様ってこんなに鈍かったかな?いや、逆に付き合いが長いから気付けないのかも) 思えばラフェルはセリファとの関係も結構拗らせた。 完璧に見えても実は抜けている部分があるのかもしれない。 こと恋愛に関しては。 (あんなに分かりやすいのに・・・) 少し前の自分達も周りから見たら分かりやすかったのだろうか?そんな思いがセリファを微妙な表情にさせた。 セリファの複雑な心境など知らないラフェルは自分の余計な一言で顔色を変えたセリファに気付き早々に話を終わらせる事にした。 「エゼキエルといえば討伐を終えて数日中に帰って来る予定らしい。そうなったら暫くルミィールはエゼキエルの屋敷に行く事になるだろう。今のうちにルミィールとやりたい事をやっておくといい」 「え!?エゼキエル様のお屋敷にルミィール住むの?」 「暫くはそうなるだろう。ルミィールの身の安全がある程度保障されるまでは一人には出来ないから」 【シルビー】に認められお互いの"印"を持つラフェル達はお互いの魔力と居場所を感知出来る様になった。しかし他の二組はそれがない。おまけに彼等は自分達の【シルビー】の素性を隠しきれなかった。 そもそも、どんなに隠しても【シルビー】の意思を尊重するならば隠し通すことは不可能であると分かっていたのでラフェルは極力セリファから目を離さないよう気をつけていた。同じ屋敷に住んでいても気が気ではなかったのだ。別々で暮らしているエゼキエルの心境を思えば寧ろ今までよく耐えたとラフェルは思う。 「そっか。よかった」 ラフェルはその返答に若干違和感を覚えた。 しかしこの時、彼はセリファの笑顔が戻った事に気を取られて聞き流してしまう。 後に、ちゃんとセリファに確認しておけばよかったと後悔するとも知らずに。

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