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第60話【ルミィールは有名人】

エゼキエルは辟易していた。 「おい、なんだこりゃ。もうここら一帯手遅れじゃねぇのか?」 エゼキエル達は当初南東部の大きな街シュミテンプルフを目指していた。しかし南東部に近づくに連れ報告通り魔物が姿をみせるようになった。 このまま街に向かうと被害を増やしかねないと判断したエゼキエルは魔物を討伐しながら近隣の村や集落を調べる事にした。その結果が予測を上回る最悪な状況だったのだ。 「・・・あれだけの魔物の数ですから。村が同時に襲われたのであれば、異変に気が付かなかったのも頷けます。領主からの報せでは今のところ街は被害を受けていないとありましたが、疑わしいかと」 まず驚いたのは本来なら生息していない種類の危険な魔物が一体だけではなく数種類も存在した事。おまけに数も多い。その上エゼキエルが認める部下と鍛えられている兵士達でやっと倒せるレベルなのである。 これはもう南東部の領地内で収まる問題ではない。 「なるほどなぁ?あの陛下が俺を外に出すわけだ。こりゃ俺かラフェルじゃなけりゃどうにもなんねぇだろうからな」 "下手すると国が滅びる"皆がごくりと息を呑んだ。 エゼキエルは潰された家屋の柱に寄りかかると腕を組み目を閉じる。すると彼の身体から白い靄が滲み出しそれはゆっくりと地面に吸い込まれた。兵士達はそんなエゼキエルの邪魔をしない様にその場から離れ周りを警戒しながら兵士達を順番に休ませ始めた。 一通りやる事を終えたエゼキエルの部下がふと顔を上げるとエゼキエルが瞼を開いた。 「三つ・・・いや、四つか。ある筈がねぇ不自然な魔源がありやがる。おい!地図を貸せ」 受け取った地図に印を付けたエゼキエルは平然と指示を出した。 「時間がねぇ。俺達は片っ端から潰してくぞ!他の部隊は予定通り街に向かわせろ。生存者は保護して連れてけ。さっさと終わらせて王都に帰るぞ!」 「え〜・・・エゼキエル様?俺達だけで魔物を討伐するんですかぁ?ちょっと無理があるのでは?たまたま遭遇するだけでもあの数ですよ?きっと魔源近くは魔物で埋めつくされてますよ?」 若干引き気味の副団長の抗議をエゼキエルは無視した。 「今ある魔源と魔物をぶっ潰したら第二騎士団をシュミテンプルフに配置しろ。あと全部潰し終えるまで詳しい事は王宮には知らせるなよ」 エゼキエルの言葉の意図に気付き副団長は苦笑いでそれに応えた。王はエゼキエルを南東部に向かわせたが事態がここまで悪化している事をまだ知らない。もし王の耳に入ればエゼキエルは王都に連れ戻されてしまうだろう。 その前に一番厄介な魔源をエゼキエルは片付けておきたいのだ。 「・・・もう、魔力は安定したのでは?」 「今のところはなぁ?だが、魔力が安定してからアイツの側を離れるのは今回が初めてだからな。また暴走する可能性がある」 「・・・・・・どうして連れて来なかったのですか?」 彼等は今まで一度もエゼキエルの【シルビー】について口を出さなかった。それは、エゼキエルが非常に不安定な状態だった事もあるが、聞いてはいけないような空気を感じ取っていたからだ。 だが、副団長は試してみた。 彼の知っているエゼキエルならば利用価値がある者はとことん利用する。今回もエゼキエルの体調面を考えるなら【シルビー】を連れて来なかったのは不自然だったのだが・・・。 彼は納得した。 「こんな危険な場所にアイツを連れて来れるかアホが!あんなチビ、魔物の鼻息で一瞬で消し飛ぶからな?あり得ねぇ」 本気で顔を顰めたエゼキエルに副団長は心底驚いた。 どうやら本気で自分の【シルビー】を大切にしているらしい。それが彼には意外だった。 彼等は調香師の青年がエゼキエルの【シルビー】だと既に知っている。そもそもルミィールは貴族の間である程度名が知られた調香師だったので知らない者はほぼいない。寧ろ彼を気にいっていた者達はルミィールがエゼキエルの【シルビー】である事を嘆いていた。 エゼキエルがルミィールを独占する為ルミィールに近づけなくなった為である。エゼキエルは知らないがルミィールは彼等にとても重宝されていた。あと彼が同性の【シルビー】である事も心配される理由の一つだった。 ルミィールと付き合いがある者達は彼の身をずっと案じていた。エゼキエルに無碍な扱いをされていないかと。 なぜならエゼキエルは本来、弱い存在を好まない。 面倒だからだ。 すり寄って来る者は適当に相手をし、すぐに切り捨てていた。彼等はエゼキエルが誰かに執着する姿を見たことがなかった。 だが、今目の前にいる男は明らかにルミィールを失う事を恐れている。 「確かに、彼は小さいですからね。魔物相手でなくても簡単に死んでしまうでしょうねぇ」 「・・・・・・・・・ぁん?」 副団長は無意識に思った事を口にして失敗した。 思わず口を手で塞いだが手遅れだった。 「おい、お前。まるで俺の【シルビー】を知ってるみてぇな物言いじゃねぇか?会ったことあんのか?」 ここで彼はもう一つ、皆が口を閉ざしていた理由を思い出した。そして開き直った。 「そりゃ知ってますよ!彼は貴方の【シルビー】になる前から贔屓にしてる調香師ですからね!知らなかったのは貴方だけですからね!!」 「はぁああああ!?お前そんな事今まで一言も言わなかったじゃねぇか!なんで隠してやがった!」 「【シルビー】の素性については秘匿されていたでしょうが!!それにルミィールさんが伝えてないのに俺達が勝手に言えるわけないでしょう!!」 副団長の言葉に頷いた者が数名いた。 それを見てエゼキエルは頷いた者の数の多さに固まっている。 (((あれ?))) 本気でショックを受けているらしいエゼキエルに皆首を傾げる。次の瞬間エゼキエルが吠えた。 「っっだぁああああ!めんどくせぇええええ!!!」 余計な事を口にした副団長は、この後不機嫌になったエゼキエルに散々振り回されこき使われ疲労困憊で王都に帰還した兵士達に滅茶苦茶怒られた。

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