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第69話【予想外の待ち人】

 セリファは父親の間の悪さに頭を痛めていた。  ルミィール達との一件でラフェルはここ数ヶ月の間ずっと自分達の周りの警戒を強めている。正直ルミィールと会えないのは寂しいがラフェルの気持ちを考えるとそれを言い出すのも憚れたので黙っていた。  ラフェルと番になって分かった事がある。  彼はセリファと繋がり魔力障害を起こさなくなったが、未だにセリファが絡むと不安定になるのだ。  それは体質が原因というよりラフェル本来が持つ性格なのだと思う。彼は自身は無自覚だが実はとても嫉妬深く独占欲が強い。一件、理性的で寛容な大人の男に見えるのに内面は想像していた以上に精神的余裕がない。  セリファが思うに、その原因はラフェルが心を傾ける相手がセリファだからではないかと考えている。決して自惚ではなくラフェルは今まで他人に心を許した事がないのではないかと考えていた。  自分の前でだけ見せる不安定なラフェルの姿、それが本当のラフェルではないかとセリファは感じていた。もちろんそんな風に考えるようになったのはラフェルと互いに繋がり相手の魔力や感情の動きが読めるようになったから。  ラフェルはセリファの家が金銭的に余裕がない事を知っていたが、セリファが家族にどんな感情を抱いているのかを今までは知らずにいた。彼はセリファは家族思いであり、家族仲も良好だと認識している。しかし、事実は少し異なっている。  その事をセリファは今まで黙っていた。  家を出て忘れていたというのもあるが、余計な事を知られて話を拗らせたくなかったのもある。ただでさえセリファの事になると過剰なまでに過保護になる自分の恋人にこれ以上余計な負担をかけたくはなかった。  そう思っていたのに、セリファは父親の無神経な真実の暴露に傷付いてしまった。どんなに隠そうとしてもリーディスも二人のやり取りを見ていた。セリファが傷付いた事実を隠し通せるとは思えない。  (早くここから脱出しないと。多分ラフェルは父さんが俺を拐ったと勘違いする。俺が誤解を解かないと)  時間がない事にセリファも焦っていた。  目の前の女の主人の目的が自分達の中を引き裂くことであり、その駒として父親が利用されたのだと気付いたから。  目の前でセリファを見失ったリーディスはセリファが父と名乗る男に拐われたと報告したに違いない。女がどんな手を使いセリファ達をここへ連れて来たのかは分からないが、さっきの発言からセリファを隠すつもりはないようだった。  ラフェルがこの場所を突き止めるのに、それ程時間はかからないだろう。セリファは常にラフェルに自分の居場所が分かるよう自分の魔力を意識的にラフェルに流すようにしている。  現にセリファにもラフェルから魔力の信号が送られて来ている。それが徐々にセリファに近づいているのを彼はしっかりと感じ取っていた。だからこそ、焦っていた。 (ラフェルが本当に父さんを殺してしまうかもしれない)  貴族を害した平民がその場で首を斬られる話はよくある話だ。平民が貴族相手に裁判を起こす事など叶わない。ましてや貴族の物を盗んだり誘拐したとなれば、その場で斬られることは免れても、その後課せられる罪はとても重いはずだ。  だからこそ、そうなる前にラフェルと会って誤解を解かなければならない。   「セリファ様は本当にお優しいのですね?自分を売った男に慈悲をかけるのですから」  セリファの考えを見透かしたように先導する女が話しかけて来た。主人の命令で揺さぶりをかけているのか、興味本位の戯れか分からないがセリファは何も答えなかった。    案内されたのは連れて来られた部屋からだいぶ離れた場所にある一室だった。女に案内された部屋で待っていたのはセリファの予想を遥かに上回る事態だった。 「……………………え?」  その部屋でセリファを待っていたのは二人。 「待ちくたびれましたわ、やっとお会い出来ましたわね?ラフェル・リンドールの【シルビー】」  一人はセリファの知らない女性だった。  その身なりから恐らく中級か、ラフェルに近い上級貴族のご令嬢だろうと推測する。そしてその口調からセリファ達を拐って来た女の主人がこの女性であることも予測出来た。しかし、それよりもセリファはまず確認しなければならない事があった。 「……なんで、貴女がこんな場所に?」  もう一人の女性。  見覚えのある気の強さを感じる瞳はセリファの愛する人の色と同じ。彼女はセリファもよく知る女性だった。  彼女はいつもと変わらず微笑んで口元を扇で隠した。 「久しいわねセリファ。ラフェルの誕生祝い以来かしら?」  まるで動揺していないマリアンヌの様子にセリファは混乱した。これは、一体どういうことなのかと。 「マリアンヌ様をお招きしたのは私ですわ。貴方、ラフェル様の魔力障害を完治させたそうではありませんか。とても素晴らしいと思いますわ!でも、だからこそ、残念でなりませんわ」  ぞわりっと意味もなく背中が粟立った。  この感覚をセリファは経験した事はない。  だが、それがどういう物であるかだけはハッキリと分かった。    セリフはここに来て完全に逃げ道を塞がれてしまった。  (そんな、マリアンヌ様・・・)  妖精族のセリファにはハッキリと見えていた。  自分を招いた女性とマリアンヌの身体に巻きつく禍々しい穢れと・・・マリアンヌの腹部から感じられる新たな命の息吹が。

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