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第3話【やっぱり伝わってない】
「アルティニアさん、久しぶり」
「やっほー!閉じ込められて暇してそうだから来てやったぞ!」
本来年齢も立場も上の相手に全く配慮がないルミィールに隣のセリファが申し訳なさそうな顔でアルティニアにお辞儀した。相変わらずの二人の様子にアルティニアは自然と笑顔になった。
「二人とも久しぶり。少し前にセリファが拐われた事を私は最近まで知らされていなくて、怪我を負ったりは?」
「俺は大丈夫です。でも、その事件のことでアルティニアさんと話がしたくて。とても大事な話です」
「・・・では、場所を移しませんか?セリファ久しぶりに少し私に付き合って下さい」
嬉しそうに木刀を受け取るセリファと呆れた顔でついて来るルミィールと共にアルティニアは庭園の隅にある鍛錬場までやって来た。
因みにここはリューイが剣を振るアルティニアの為に特別に用意した場所である。もちろんそんな事実をアルティニア本人は知らされていない,
そこでアルティニアはセリファが拐われた経緯とラナという女の存在を聞き難しい顔をした。
「・・・エゼキエル様に匹敵する魔力の持ち主ですか。彼女はなんらかの目的でまた私達の前に現れる可能性もある、という事ですね?」
「確実にまた僕達の前に現れるだろうな。んで今一番危ないのがアルティニア、アンタ達だと僕は思ってる」
「・・・そうですか?私はそれほど弱くはないと思いますが。確かにエゼキエル様と同等の魔力の者を相手にするとなると、厳しいですね・・・」
アルティニアが真面目な顔で頷く様子を複雑な気持ちで見ている二人に彼は気付かなかった。それじゃない感を出してみたが伝わっていなかった。
ルミィールはやはりアルティニアには直球で行くしかないと悟った。
「いや、単純な戦闘能力の話じゃなくてな?この三人の中で一番、相手と上手く行ってないのがアルティニアだから、そこを敵に利用される可能性があるって言いたかったんだけど?」
「ーーーっ!そ・・・れは、そう・・・なんだろうか?」
リューイと上手くいってないと指摘された事が衝撃だったのか、それとも思ってもいなかった指摘をされたからなのか、アルティニアが思わず素を見せた。
「以前説明したろ?【シルビー】は番に愛し愛されて初めて相手に必要な力を与えられるって。それには【シルビー】であるアンタも相手に心を開く必要がある。それが出来ないなら無理せず神殿で暮らすのをオススメするぜ?」
「お、おい!ルミィール!」
「大丈夫、リューイ様には予めこの事は伝えるって言ってあるし、どの道上手くいかなくなれば本人達が望まなくてもそうなる。神殿は国法が介入出来ない場所だからな」
それまで何度も【シルビー】に選択権があると説明されてもアルティニアはそれを信じていなかったが、神殿の役割を詳しく聞かされてやっと意味を理解した。
そして王宮騎士だった故に王や叔父に巧みに嵌められていたと気付き複雑な気分に陥った。
「成る程。その話でリューイ様の今までの行動の意図がなんとなく理解できました。あの方はずっと私を気にかけてくれていたんですね」
突然【シルビー】を押し付けられたリューイ・ハイゼンバードはアルティニアをどう扱うべきか頭を悩ませたに違いなかった。それでも彼はアルティニアを疎んだりはせず気持ちの整理のつかないアルティニアに時間を与え、気を配ってくれていたのだ。
あの事件以来始まったリューイとの魔力交差もルミィール達と会えなくなったアルティニアの気を紛らわせるという意図があったのかもしれない。
「リューイ様がアルティニアさんを気にかけてるのは確かだと思う。ただ、ラフェルの話を聞く限りリューイ様ってあまり人と関わるのが得意じゃないって聞いてる。それにアルティニアさんは元々仕事関係でリューイ様の所とは仲が悪いって聞いてたから、仲良くなるのは簡単じゃないだろうって思ってたんだけど・・・もしかして、少しは打ち解けた?」
「・・・それは分からないですが、最近は前よりも緊張しなくなりました」
ルミィール達とまた会っていいと言われたあの日から何も感じなかった魔力交差にほんのりと熱を感じられる様になった。そしてこれはただの勘違いかもしれないが、リューイの出す雰囲気が以前より柔らかくなった気がした。
「それはいい傾向だな!どうせ一緒にいなきゃないけねぇなら仲良くなった方が過ごしやすいもんな。アルティニアは僕達の時みたいに襲われる危険はねぇんだから、もっと気軽にいけよ。なんならもっと我儘に生きてみろよ」
ルミィールの言葉には軽い口調ながらも説得力がある。
実際この二人は国王ですら扱いに困っている強者の相手をしているのだ。その方法をラフェルの屋敷で目撃してしまったアルティニアは自分の今の待遇が恵まれ過ぎていると結論付けた。
「そうですね。私はもっと自分の立場を弁えるべきなのかもしれません。二人の苦労に比べれば私は本当に恵まれています。もっと感謝の気持ちを持ってリューイ様に接したいと思います!」
「「いや、だからそうじゃない!」」
リューイへの好感度の上げ方を間違えたアルティニアに二人の突っ込みは響かなかった。そして無駄に二人の心配が増す結果になった。
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