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第4話【アルティニアの変化】

その日の魔力交差は今までになく上手くいった。 「お疲れ、アルティニア。さっきまで客人の相手をしてたけど疲れているなら今日は休みでも構わないよ」 「いえ、疲れてはいませんので」  ルミィール達から話を聞いたからなのか。  アルティニアはリューイの何気ない言葉にも自分への気遣いを感じ、なんだか擽ったいような気持ちになった。  浮き立つ気持ちを隠すため目線を逸らし、左手を出す。リューイもいつもと同じように差し出された手に自分の手を重ねた。  そしていつも通り、魔力を流したつもりだった。 「ーーーーーーッぅん!」 「っ!?」  お互いの魔力が相手に流れた瞬間、その経験したことの無い気持ちよさに二人は思わずたじろいだ。  アルティニアに至っては変な声が出てしまい動揺で顔が赤くなってしまっている。そのアルティニアの顔を間近で見てしまったリューイは反射的に左手を離すどころか更に強く握りしめてしまった。その反動で魔力が更に多く流れ再びアルティニアの身体がビクビクと痙攣したのでリューイは焦った。  彼はなんとか理性を保ちこの事態の収拾を試みる。 「・・・少し、いつもより、魔力の流れが早かったみたいだね。抑える為に一度こちらに流している魔力を止めることができるかい?」 「・・・は、い・・・やってみます」  握っている手の力をゆっくりと弱め、出来るだけアルティニアを刺激しないよう魔力の調整をしていくと二人を襲った快感が徐々に和らいでいく。それでも、手を離し難い心地よさを二人は感じていた。  (これが【シルビー】との魔力交差か。実に興味深いが、何故突然・・・今まではこれほどは・・・)  そこまで思考してリューイはそれ以上考える事を一旦やめた。その可能性を今この場で思い浮かべるのは危険だと咄嗟に判断したのだ。 「・・・あの、手をはなしても、いいですか?」 「・・・・・・・・・気分は?悪くないかい?」 「はい、ただ・・・その、いつもより、体の感覚がおかしいです」  目の前で身体の疼きをグッと堪え平静を装うアルティニアの姿は的確にリューイの理性を揺さぶった。湧き上がる欲望に思わずゴクリと喉が鳴る。  その欲はリューイが久しく感じる事のなかった類いのものである。彼は深呼吸し、なんとかアルティニアから手を離した。  だがその時アルティニアの目がその手を名残惜しそうに追ったのをリューイは見てしまった。 「今日はここまでにしよう。アルティニア、こちらに」  すぐに部屋に下がらせるつもりだったリューイは思わずアルティニアを部屋に引き止めた。まだ少し混乱しているアルティニアを連れソファーに座らせ部屋に用意してあった果実水を差し出すと彼はそれを素直に受け取る。そんな彼を横目にリューイは不自然にならないよう彼の隣に座り様子を伺った。 「魔力交差も加減を間違うと体調を崩す事があるからね。身体に悪い訳ではないが、変化に身体がついてこれないんだ。まぁ、この知識は一般的な魔力交差の話なんだけどね」  まだ下を向いているアルティニアの背中をそっと撫でてみる。勿論魔力交差ではなくアルティニアの気分を変えるためだったのだが彼は無反応だった。  そんなアルティニアの様子になんだか不安になる。  心なしかいつもよりも雰囲気が暗い。 「アルティニア?大丈夫かい?」  心配になりそっとアルティニアの顎に手を添えて少し上を向かせてみた。その表情は目の下がほんのりと色付き瞳は潤んでいる。そしてその肌はしっとりと汗ばんで・・・。 「・・・君、熱があるね」  恐らく徐々に熱が上がっている。  アルティニアがリューイの下にやって来て体調を崩すのはこれで二度目である。 「・・・そう、ですか?確かにいつもより暑いなと。部屋に戻って休みます」  怠そうに立ちあがろうとするアルティニアにリューイが手を貸す。そのまま部屋まで連れて行き部屋に残ってアルティニアの上着を受け取り代わりに部屋着を渡した。 「いえ、そんな横になるほどのものでは」  多少怠さはあるものの少しの熱ぐらいで休んだ事などないアルティニアはそれを受け取らなかった。すると、リューイはにっこりと笑いとんでもない事を言い出した。 「そうか。アルティニアは思っていたより甘え上手だね。自分で着替えられないというなら私が着替えさせてあげよう」  理解する間も無く信じられないほど強い力でアルティニアは引き寄せられた。そして腰を腕で固定され次々と服の留め金が外され始めてやっと彼は自分がリューイに脱がされそうになっていると理解して慌てて抵抗した。 「ま、待ってください!こんな事、貴方にさせられま・・・」  バサリとベストが落ちた時、自分が薄いシャツと留め金を外され肌けたズボンだけの姿にされていると気付いたアルティニアは言葉を失ってしまった。  身体の全ての血が沸騰した感覚がして思わず目を閉じる。  (ち、違う!これは、恐らくまた揶揄われて、いやそもそも私のこの反応がおかしい、もっと冷静にならなければ!それよりリューイ様との距離が近過ぎる!)  リューイの腕の中で大混乱のアルティニアだが脱がしているリューイは意外と冷静だった。 「君は忘れているかもしれないが、私の本業は医者だよ?医者が患者を看病するのに何か問題があるのかい?」 「医者は患者を脱がしたりしません!!絶対揶揄ってますよね!」  熱のせいか、珍しくアルティニアはリューイに対し不満を口にした。

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