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第8話【彼も知らない内側を】

「うん。とても似合ってるね?君はもう少しお洒落を楽しんだ方がいいんじゃないかい?」  先日やって来た仕立て屋の服が出来上がりアルティニアの元に届けられた。それを報告しに部屋まで行ったら着て見せてくれとリューイにせがまれたので彼は仕方がなく着せ替えショーをさせられている。  それも着替えるたびリューイが褒めるのでアルティニアは居た堪れなくなってきた。褒められているので悪い気はしないがどうしてもリューイ相手だと緊張してしまい上手く笑えない。 「あの、こんなに頂いてしまっていいんでしょうか?」 「なぁに、金なら腐るほどあるから心配する必要はない。元々私は研究以外でお金を使わないからね。それよりも君はこれからちょくちょく伯父の代わりに社交界に行かなければならないだろう?それなのに毎回同じ衣装を着て行くつもりかい?」 「・・・ご助力、感謝致します」  考えが及ばなかった自分が恥ずかしくなり目を伏せるとリューイの指がそっとアルティニアの顎に触れ、そのまま上に持ち上げた。リューイはおかしそうに口の端を吊り上げている。 「私からの贈り物は負担かい?」 「・・・いえ、とても嬉しく思います」  そう、嬉しい。しかし同時にわからなくなる。  最近ではルミィールやセリファから【シルビー】として愛されないといけないと説明され実際にその効果を感じ始めている。それでもリューイに優しくされたり尽くされる事に慣れない。 「ふむ?じゃあその顔は私に優しくされる事に罪悪感を感じているのかな?君は、どうしたら素直に喜んでくれるんだろう」 「私は、とても満足しています。リューイ様、本当に・・・」  嘘ではない。リューイに褒められるのは慣れないが不思議と喜びの感情が湧き上がってくる。だからこそ戸惑っているし、どうしたらいいのか分からないのだ。上手く対処出来ない自分にアルティニアは毎回焦ってしまう。 「そう?じゃあアルティニアも私にご褒美をくれないか?」 「私に用意出来る物でしたら、なんなりと」  リューイの提案にアルティニアは意気込んだ。  貰ってばかりの自分が返せるものがあるのなら、なんとしてでも返したい。その瞳は決意に満ちていたのだが、なんとこのタイミングでリューイは今まで保って来た一線を超えて来た。 「今、君にキスしたい」  そしてリューイはアルティニアに選択肢を与えなかった。考える間も無くアルティニアの唇はリューイによって塞がれていた。  柔らかな感触がアルティニアの唇に触れては少し離れ、また触れた。まるで子供がするような初心なキスだったがそれを合図にアルティニアの奥に押し込められていた何かが開いたような感覚がした。  アルティニアはこの歳になるまでに女性との経験は一通り済ませている。当然こんな戯れるようなキスではなく大人の男女が交わすものを。それにも関わらず今までしたどんなキスよりもリューイとのこの行為はアルティニアの心を揺さぶった。  (ただ触れただけのキスが・・・っどうして)  リューイの唇が離れるのを感じてアルティニアは無意識にその感触を追いかけた。戯れのようなこのキスが彼の奥の秘められた熱を呼び起こした。 「これは、キスとは言えません」  衝動的に口にしたのは思いもよらない言葉だった。  アルティニアの身体は考える前に動いていた。  もし少しでも思考してしまえば彼はそこから一歩も動けなかっただろう。  気がつくとアルティニアは噛み付くようにリューイの唇を塞いでいた。そして誘う様に自分の舌で彼の上唇を舐める。当然そんな事をして、それだけで終わる筈はない。  気がつくとアルティニアはベットに押し倒されリューイに覆い被さられていた。厚い舌がアルティニアの口内を味わう様に這い上顎の敏感な部分を撫でられ、舌の先端を吸われる度、甘やかな快感が下半身に駆け抜ける。  ここまでしておいてアルティニアは我に返った。  (いや待て。どうして私はリューイ様にこんな事・・・魔力交差してたわけでもないのにっ・・・そうだ、魔力交差をしてないのに、何故)  頭は急速に冷えて行くのにそれとは逆に身体の熱は高まっていく。魔術具を身に付けているリューイの体にはアルティニアから漏れた魔力が勝手に流れて行く事はない。  この行為の目的は魔力交差ではないのだ。    それに気付いた途端、彼は自分の置かれた状況に困惑し動けなくなってしまった。しかしそんな考えは見透かされていたのだろう。 「・・・アルティニア、少しだけこのまま魔力交差してみても?そろそろ試してもいい頃合いだと思うんだ」  全てを見通したかのようなタイミングでリューイが尋ねてくる。逃げ道を得たアルティニアはそれを受け入れた。まるで最初からそれが目的だったかのように。  コツリとリューイの指輪が置かれる音がした。  魔力交差を行うときリューイは決まって身に付けている魔道具を外す。この聞き慣れた音をアルティニアは何故か好ましく感じていた。 「大丈夫、安心して私に全てを委ねて。君の嫌がる事はしないと約束するから」  しかしその音がこの日の出来事を境にアルティニアを悩ませるものに変わることになるのである。  

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