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第9話【彼が知らない内側を】

 最初は本当に衣装を見るだけのつもりだった。    リューイは元々、他人や自分の外見に然程興味もなければお洒落を楽しむ人間でもない。だがルミィールに指摘され考えを改めアルティニアと接する頻度を増やした途端アルティニアが徐々に心を開いてくれるようになり、リューイは考えを改め始めた。そして結局、何をすればアルティニアを喜ばせる事が出来るのかと考え出た答えが、彼に贈り物を渡すという面白味のないものだったのだ。  「うん。とても似合ってるね?君はもう少しお洒落を楽しんだ方がいいんじゃないかい?」  しかし、その選択はあながち間違っていなかったようだ。これまで着飾る事に興味がなかったリューイだったが、それが自分の想い人となると話は全く違った。  自分の選んだ服をアルティニアが着ている姿を眺めるのはかなり気分が高揚する。どれもアルティニアに似合っていてアルティニアも服を気に入っているのが伝わって来る。  何年もアルティニアを見守ってきたリューイには僅かに変化するアルティニアの表情がある程度読み取ることが出来た。  「あの、こんなに頂いてしまっていいんでしょうか?」  避けるのを止め、自分の【シルビー】としてアルティニアに接する様になってから、彼はあれ程長い間見守って来たこの男の人間性をしっかりと把握出来ていなかったと気付かされた。 「なぁに、金なら腐るほどあるから心配する必要はない。元々私は研究以外でお金を使わないからね。それよりも君はこれからちょくちょく伯父の代わりに社交界に行かなければならないだろう?それなのに毎回同じ衣装を着て行くつもりかい?」 「・・・ご助力、感謝致します」    アルティニアは一件従順で無欲な様に見えて実はそうではないのだ。少し鈍い部分があるがどちらかと言えば欲が深いタイプだとリューイはこの短い間に見抜いた。 「私からの贈り物は負担かい?」 「・・・いえ、とても嬉しく思います」  アルティニアは自分が手にした侯爵家の地位を手放すつもりはないのだろう。その為ならば男としての自尊心は捨てても構わないのかもしれない。 「ふむ?じゃあその顔は私に優しくされる事に罪悪感を感じているのかな?君は、どうしたら素直に喜んでくれるんだろう」 「私は、とても満足しています。リューイ様、本当に・・・」  そしてそれ以上にアルティニアが欲しているものがある。しかし、こちらは本人が自覚がない分相当厄介だった。  「そう?じゃあアルティニアも私にご褒美をくれないか?」 「私に用意出来る物でしたら、なんなりと」  彼が求めているものは皮肉にもリューイがずっと避けていたものでもあった。まさかアルティニアがそれを望むとは夢にも思っていなかったのだ。  リューイの【シルビー】だと知らされたアルティニアは無意識にずっと待ち望んでいた。  「今、君にキスしたい」  【シルビー】として愛されることを。  初めて触れた男の唇はとても柔らかく甘やかだ。  重なる部分をこじ開けて、その奥を掻き乱したい衝動を強固な理性で押し留め、狂おしいほど求めている男の許可を待った。相手は自分がリューイに許可を与える立場にある事も自覚していないというのに。 「これは、キスとは言えません」  堪えられず求めて来たアルティニアのキスに応えながらそれでも彼はまだ魔力交差を行わなかった。アルティニアが真に求めているものを彼は与えるつもりでいるからだ。  あれ程夢中にリューイを求めたにも関わらず戸惑いを見せたアルティニアにいっそ彼の欲するまま滅茶苦茶に犯してやろうかと心の中で悪態をつくが、それも一瞬で飛散した。  まだあどけない少年の笑顔が浮かんで消える。 「・・・アルティニア、少しだけこのまま魔力交差してみても?そろそろ試してもいい頃合いだと思うんだ」  自分を武装している装具を外しながらリューイは考える。どちらが先に根を上げるのだろうかと。  「大丈夫、安心して私に全てを委ねて。君の嫌がる事はしないと約束するから」    戸惑う男の鍛えられた身体に手を這わせるとアルティニアの喉がヒクリと痙攣した。期待と不安が混じった彼の瞳がリューイに向けられた。リューイは見上げている彼の唇に親指を押し当て、そのまま指を口内に差し込んだ。そして口を開かせてその中に舌を少し強引に押し込んだ。 「っりゅ・・・っぁ!?・・・はぁっ」  口を開かせた状態のアルティニアの舌に自分の唾液を絡ませ、粘膜を介して魔力を流す。魔力を吸収する度アルティニアの身体が我慢出来ずビクリッと反応した。それには構わず震えるアルティニアの舌を何度も吸い、同時に起こる強烈な渇きを耐える様にリューイは眉間を苦しげに寄せた。そして堪えられるギリギリまでアルティニアの魔力を味わい彼の口内から舌を抜いた。 「っんっはぁ・・・はっ」  初めて味わう魔力交差の快感に、慣れないアルティニアの身体が微かに震えている。敏感になった彼の両側の先端を指で軽く撫でると驚いたのかアルティニアが身じろぎした。 「あ、あの、そこは・・・」 「ここは駄目なのかい?じゃあ、こちらは?」  先程から窮屈な布を押し上げ主張しているアルティニアの膨らみを布地の上から指でなぞる。すると抑えていた羞恥心が蘇ったのかアルティニアの肌が色づいていく。  だが彼は先程とは違い抵抗する様子を見せなかった。  「いいよ、今楽にしてあげる」  打算か、それとも一人では発散しきれない熱を鎮めたいからか。アルティニアの本心はまだ分からない。それでも彼の望みを叶える為リューイはその一線を越えていく。  アルティニアを背後から抱き締め、そのまま前に身体を倒す。しっとりと湿った布地を下ろし、露わになったその根本に指を絡めた。 「っん!」 「この屋敷に来て以来、ずっと我慢していたんだろう?これは魔力交差の処理の一環だから気にせず吐き出してしまえばいいよ」  そうやってリューイはアルティニア自身もまだ知らない望みを一つ一つ暴いていく。

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