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第16話【リューイの覚悟①】
「薄々気づいてはいたんだけど、リューイ様は友達がいないの?」
リューイがセリファに接触して数日も経たぬうちにルミィールからリューイの元に話がしたいと手紙が届いた。
彼がそれに応えると彼は直ぐにやって来た。
相変わらず不服そうな相方を連れて。
「ふむ?過去に誰かにそう呼ばれた記憶はあるけれど、私が誰かを友と呼んだ覚えはないねぇ」
「おい、ルミィール。さっさと済ませろ。俺はコイツとのくだらねぇお喋りに付き合う気なんざねーぞ」
「嫌なら外で待ってればいーじゃん?それが出来ないなら邪魔すんなよ」
口をへの字に曲げ眉間に深い皺を寄せつつも好き勝手に振る舞うルミィールを止める事はせず背後にピッタリと控えているエゼキエルを見上げたリューイは最早自分もそれを他人事だと笑える立場ではないと思いエゼキエルを揶揄いはしなかった。
もし、同じ状況ならリューイも似たような行動を取るだろう。
「それで?ただ単に私と戯れに来たわけではなさそうだけれど?」
「この前ラフェルがいない場所でセリファに話しかけたんだって?あ、立ち話もなんだし座っていいか?ほら、エゼキエル詰めろよ」
侍女がお茶とお菓子をテーブルに置くのを確認して家主の許可を待つ事なくルミィールはエゼキエルをソファーに無理矢理座らせ自らも腰を下ろした。
余りの図々しさにリューイもエゼキエルも毒気を抜かれた顔をしている。しかしこの場に【シルビー】であるルミィールを叱咤する者はいなかった。
「君、そんな振る舞いでよく貴族相手に商売が出来たねぇ?普通そんな態度でいたら激昂すると思うけれど?」
「いや、商売相手にこんな態度とるわけねぇよ。リューイ様はお客さまじゃないし貴族流儀で話してたら腹の探り合いでいつまで経っても話が終わんないじゃん?それで?リューイ様はセリファから何を聞き出したかったんだよ」
「私はたまたま見かけたセリファに声をかけただけで何も尋ねてはいないが?セリファが君にそう言ったのかい?」
「いんや?話はラフェルから聞いた。あの二人は"繋がって一つになった番"だから離れててもある程度お互いの事が分かるんだよ。何か知りたいなら下手に探るより普通に頼んで助言をもらった方が利口だと思うぞ。まぁラフェルがそれに応えるかは別として」
「素直に情報を渡すとは思えないけれどね。しかし毎回君の行動力には驚かされるよ。君はあくまでエゼキエルの【シルビー】であって私やラフェルの寵愛対象ではないのだけれどね?余程番のエゼキエルを信頼しているのかな?」
軽く牽制してみるがやはりルミィールには効果はなさそうだ。
しかし不思議と前には感じた苛立ちをリューイは今回抱かなかった。相変わらず得体が知れないとは思うのだが、ルミィールのお節介にリューイが助けられているのも紛れもない事実。味方が全くいないリューイにとってルミィールは今のところアルティニアの心を開く唯一の助言者になりつつあるのだ。
「あのさぁ?これもなんとなく、前から思ってたんだけど、リューイ様は僕やセリファがそんなに気に入らねぇの?初めて会った日はそうでもなかったのに。あの日アルティニアが体調を崩してからずっと怒ってるよな?最初はラフェルと同じ理由かと思ってたけど違うんだろ?僕もセリファも政の事は分からないし貴族同士の問題も詳しく知らされていない。アルティニアも口にしないしな。手を貸すならある程度アンタらの事情も知っておかないといけないだろ?アンタは結局僕達にどうして欲しいんだ?」
恐らくルミィールは少し腹を立てている。
リューイがセリファに接触したからだ。
情報を漏らさないラフェルへの嫌がらせも含まれたその行動を諌めに来たのかも知れない。
リューイは目線をエゼキエルに移した。
「私は事情を話しても構わないのだけど、アルティニアの元上官が関係者だからねぇ。それに、私がルミィールばかりを頼れば今度はエゼキエルが暴れ出すんじゃないかい?私は公平に接したつもりだったのだけどね?」
「もうこの際、面倒くせぇからお互いの立場とかはどうでもいい。お前は何が知りてぇんだよ?ラフェル達の何を探ってやがる」
ガシガシと頭をかきながら心底面倒そうに尋ねて来たエゼキエルにリューイもここが落とし所ではないかと思い始めた。でなければこれから先アルティニアを守り切る事が出来ない可能性がある。彼はそれだけは、避けなければならなかった。
「話すのは構わないが、ひとつだけ。この話はアルティニアの耳に入れないと約束出来るかな?」
「……あ?アイツも関係する話をなんでわざわざ隠すんだよ?」
「エゼキエル、最後まで話を聞こうぜ。アルティニアに隠すって事は、それを知るとアルティニアが、なにかしら傷を負う可能性があるって事なんだろ?なんか、深い事情があるんだな?」
リューイはアルティニアと関わるつもりはなかった。
遠くから見守っていられれば、それで満足だった。
「……私はね、彼が【シルビー】になる前から彼を見守っていた。アルティニアは全てを忘れてしまったけれど…子供の頃、私と彼は友人だったんだ」
「「………………は?」」
エゼキエルもルミィールも予想外の真実に息を飲んだ。
そして向かい側に座る男の表情はいつもの胡散臭い笑顔ではなく酷く、苦しげに歪んだ笑みだった。
「ルミィールの言うように、私はずっと怒りを抱いている。アルティニアが【シルビー】であること。彼が【シルビー】だと告発されるきっかけになった君達の存在。アルティニアを利用しようとした全ての者達……そして、なによりも……」
アルティニアはリューイの元へ来るまでに多くのものを失った。本当の両親や幼い頃の記憶、努力して手に入れた騎士の称号、そして帰る場所さえも。
「あの時、アルティニアが私の【シルビー】だと気付かなかった自分自身を。私は、この先許す事が出来ないんだろう」
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