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第19話【リューイの覚悟④】
「はぁ〜〜〜〜〜〜っ」
額に青筋を立てながらやっと説教を終えたルミィールは勢いよくソファーに身を沈めると長い息を吐き出した。
リューイはなんともいえない不思議な気持ちになった。
ルミィールが何故ここまでリューイ達の事で感情的になるのか理解出来なかったのだ。
「ルミィールは本当に面白いねぇ?私達を気にかけて君が利を得ることは何もないというのに」
「そうか?【シルビー】はアンタらが考えている以上に孤独な存在だ。同じ境遇の仲間がいるなら親身にもなるだろ?アンタら普通の人間と違って【シルビー】は番同士繋がらなけりゃ人に進化出来ない。心配にもなる……」
そこまで説明してルミィールは口を閉じた。
実はそれは本来ルミィールでさえも知ってはいけない【シルビー】の秘密なのである。その余計な一言はバッチリと聞かれていた。
「…………なんだそりゃ?どういう事だ?」
「進化出来ないとは?ルミィール?」
両者から圧を感じたがルミィールは首を振った。
これ以上はルミィールの口からは言えないのだ。
「知りたいなら大神官に許可を得てくれ。僕は神殿に閉じ込められたくないからな」
エゼキエルが立ちあがろうとするのをリューイが手を出して制止する。彼は邪魔をしたリューイを睨んだが、その顔が思いの外真剣でエゼキエルは言葉を飲み込んだ。
「………無理に言う必要はないよ。知りたいなら、私がアルティニアに番として認められればいい。そういう事なんだね?」
リューイは【シルビー】の正式な番になったラフェル達を探ったが魔力障害が治まったという情報以外何も得られなかった。しかし彼はそれだけではないと確信している。
「正式に番えたとして、どんな変化が起こるかは本人達にしか分からないらしいぜ?完全な人間じゃねぇ【シルビー】は番の手を借りて地上人になる代わりに番が望むモノを与える事が出来るらしい。まぁ話を聞く限りだとリューイ様もラフェル達と同じ事を望むのかもしれないけどな」
「実際ラフェル達に起きた変化は教えてはもらえないんだろう?」
「大まかに【シルビー】と番になるとお互いの印が繋がって魔力が強化されるらしい。お互い魔力の共有が可能になる感じだってさ。なんつーか、二人で一つみたいな感覚だってよ。あ、因みにこの話ちゃんとラフェルの許可とって話してるから問題ねぇよ?」
これまた予想に反してアッサリと情報をバラした彼等にリューイは思わず苦笑いした。あれほど苦労して嗅ぎ回ったのが馬鹿馬鹿しくなった。
「それが本来の魔力の正しい在り方なんだろうねぇ。人は精霊や妖精から魔力を分けてもらい魔法を使っていた。【シルビー】が番から"愛情"を得る事で能力を発揮するのもそれが正しい取引だからだろう。けれど本来その取引が問題なく交わされるのは………人と精霊の間だけではないかな」
「……おい、俺にも分かるように話しやがれ」
ルミィールに怒られた挙句、自分を放置して話しを進める二人にエゼキエルは不貞腐れた様子で口を挟んでくる。これには珍しくリューイが説明を付け足した。
「たとえば今でも妖精の力を借りて魔法を使っていると仮定しよう。君と相性の良い妖精が他の妖精とは取り引きせずに自分だけに愛情を向けろと要求してきたら君はどうする?」
「あ?まぁ俺もソイツを気に入ればそうするんじゃねぇのか?…………ん?」
【シルビー】に比べればそれ程難しい条件ではないとエゼキエルは思う。しかしそう考え、それが実は【シルビー】の番に求められる条件と同じであると気が付いた。
「……相手が人ではなく妖精であれば、難しくはないだろうねぇ?だが、それが"人間"相手なら?そもそも妖精の常識は人とは全く違うんじゃないかい?肉体を持たない彼等に人間が持つ三代欲求はない。彼等が【シルビー】になってどうなった?【シルビー】が番と上手くいったという話を君は聞いた事あるのかい?何故大半の【シルビー】が姿を消したと思う?」
現実は【シルビー】と心を通わせる事も出来ずに引き離された番ばかりだと記録されていた。当時は深くは考えなかったが自分の【シルビー】がいるエゼキエルにはその困難さは理解出来た。【シルビー】は人間と変わらない意志を持つ生き物だ。
エゼキエルは複雑な表情で自分を睨むルミィールに半眼になった。ルミィールがエゼキエルの思い通りになった事などただの一度もない。
「アルティニアやルミィールを問い詰めたところで答えなど出ないだろう。私達には生まれ変わる前の記憶などない。残されたのは"約束"だけだ。これは私の勝手な憶測だが私達が今ある現状こそが【シルビー】と人間に与えられた罰なのだろうね」
「罰?俺達に?一体どういうこった?」
「大神官いわく、理を破って人と一つになろうとした精霊と魔力を手に入れる為に精霊達を受け入れた人間に神が与えた"試練"らしいぜ?」
少ない情報にも関わらずリューイは【シルビー】の真実を言い当てた。ルミィールはそんなリューイに新たな可能性を感じた。
「なるほど、では私は相当な覚悟をもって動かないといけないね?それにはまず……ルミィール、これまでの私の非礼を改めて詫びさせて欲しい」
驚愕で目を見開き固まるエゼキエルとは違いルミィールはわざとそれを笑い飛ばした。恐らくリューイも今までの考えを少し改めたのだろうと察したのだ。
「別に気にしてないけど?リューイ様の知識は僕の仕事に役立つし。今まで通りアルティニアと友人でいさせてくれるならそれでいいぜ?」
「エゼキエル、君の【シルビー】は些か人が良過ぎて心配になるねぇ?君は彼にもっと尽くすべきだよ?」
「ぁあ"?んな事お前に言われる筋合いはねぇ!」
この時ルミィールの心中も複雑であったがエゼキエルはやはり気が付いてはいないようであった。
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