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第20話*【夢に見る程】

「ぅ〜〜〜〜〜っ」  ある夜のことアルティニアは部屋で解消されぬ不満を抱えていた。  数日前アルティニアはリューイから新薬の完成が近い為暫くは研究室に篭ると伝えられた。アルティニアはそれを聞いて安堵する気持ちと同時に何故か少しだけ気落ちした。  「そうそう護衛を連れてなら外に出掛けても構わないよ。でも、私以外の貴族や王族にはあまり近づかない様にね?私達は敵が多い。決して油断しないようにね」  そっと頸に触れられてアルティニアの心音が早くなる。  リューイの行動よりその先を無意識に期待してしまった自分にアルティニアは心の中で困惑した。 「あと、寂しくなったら来てもいいよ?研究中は眠くらないんだけれど、君が添い寝してくれるなら眠れそうだからね」 「………私は抱き枕ですか?」 「クハハ!だとしたら随分大きな抱き枕だねぇ?」  そんなやり取りをして数週間アルティニアは一人問題なく過ごしている、と思われていたが、そうではなかった。 「あの、アルティニア様?食事が進んでおりませんが、何かお口に合わない物でも?」  近くに控えていた執事に声をかけられアルティニアは意識を覚醒させる。リューイが研究室に篭った日からアルティニアは目に見えて元気がなくなっていた。最初こそ自覚のなかったアルティニアだったが周りからそれを指摘され自分の気持ちが日に日に下降している事実に気付かされる。 「いや、食事に問題はない。最近は運動量が減ったからか食欲がわかないだけなんだ。気にしないで欲しい」  そして、気付いてからアルティニアは一人悶々としている。そんな筈はないと否定しながらもう一方で夜になる度来ないと分かっている人物が部屋に来るのではないかと期待してしまう自分がいるのだ。  夜、思い出すのはリューイが自分に触れる為に魔法の装具を外し机に置く音。まるでそれが合図かのようにアルティニアの身体は熱を持ち、あの甘い疼きを思い出してしまう。魔力交差を行なっていない彼の熱はリューイの手を借りなくとも自身で発散させる事ができる。にも関わらず、アルティニアは満足出来なかった。 「ぅうう〜〜〜〜!」  汚れたままのシーツを握り、その顔をベットに沈める。  何度もこんな事は有り得ないと繰り返し考えた。  (………会いたい)  しかしどんなに否定しても思い浮かぶのはリューイの姿だ。最近は日を開けずリューイと過ごしていた影響か人には言えない行為を行っていた影響なのか理由はハッキリしない。ただ分かるのは数日会えないだけでアルティニアはリューイが恋しくなったということだけだ。  (……明日、様子を見に行ってみよう)  リューイの【シルビー】になる前のアルティニアならばきっとこんな事態にはなり得なかっただろう。アルティニア自身もそれは分かっていた。しかしそれ以上の衝動が彼らしからぬ思考に導いて行くのだ。  (大丈夫。リューイ様は会いに来てもいいと言った。少し顔を見るだけなら………)  明日リューイに会いに行くと決めたアルティニアはやっと気持ちが落ち着いたのか眠る事が出来た。 ◆◆◆ 「アルティニア?」  眠りについてすぐ心地よい声に名を呼ばれアルティニアはゆっくりと目を開けた。目の前には先程まで会いたいと思っていた自分の番が目を見開いてこちらを見ている。  (リューイ様?……これは、夢?)  確かに顔が見たいと思っていたが夢に見るほど焦がれていたのかと少し戸惑う。しかし、そんな戸惑いも生々しいリューイの手の感触にかき消されていく。  しかし正直それだけの触れ合いではもの足りない。 「こんな夜更けにどうしたんだい?なにか、あったのかい?」  人の気配がしない部屋は見た事もない器具や本で埋め尽くされていた。リューイは数日間部屋から出ていないのかのか目の下には隈があり、少しやつれて見えた。  それは、やけにリアルな夢だった。 「貴方に、会いに来ました」  夢の中のアルティニアの記憶はそこからは途切れ途切れになっている。   「っぁ!リューイさ、ま。もっと、もっと…強くっ!して、くださっ!」 「っアルティニア……こんなグチャグチャになって乱れて……ハァ…流石の私も我慢するのが辛くなってきたよ」  夢の中で中途半端に服を乱れさせた二人は一人用の狭いベッドの上で絡み合った。お互いの存在を確かめる様に合わせられた肌が擦れるたびアルティニアの熱は高められていく。どこをどう触れられたら気持ちいいか彼はもう知っている。アルティニアは欲望のまま自分の番の胸に顔を埋めその匂いを吸い込み、そのまま吸い付いた。 「ハァッ、わたし、のつが、い。もっと、リューイさ、ま……たりない……たり、ない」 うわ言のように繰り返されるその言葉をリューイの深い口付けが塞いだ。彼の指がアルティニアの治らない熱を発散させる目的で臀部の双丘の割れ目に触れる。まだ一度も暴かれた事のないその場所を指で何度も抜き差しされ身体が喜びで震えるのも全ては夢の中だからとアルティニアは受け入れた。  (私は、リューイ様と繋がりたいのか……)  朝、目が覚めアルティニアは微睡の中そんな風に考えた。    なんだかとんでもない夢を見た気がするが、早く起きて支度をしなくてはならない。今日はリューイに会いに行くのに朝早くから護衛を頼まなければならないからだ。 「………ハァ………ん?」  ゆっくりと寝返りを打ちアルティニアはやっと異変に気付いた。見覚えのない部屋の景色に勢いよく身体を起こすと、自分の腰に巻き付く誰かの腕が目に入った。  恐る恐る背後を振り返ったアルティニアは一気に脳が覚醒した。同時に身体中の血が引いていく。 「………へ?ぇ?な、なぜ?……?いや、そんな……ま、さか」  目を覚ましたアルティニアの隣には王宮の研究室に篭っている筈のリューイ・ハイゼンバードが眠っていた。

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