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第21話*【竜人の求愛】
その薬は王族への献上品でありリューイにとってはさして重要ではない新薬の一つだった。リューイには大した事のない薬ではあったがこの国の第一王女アリス・アグドニ・グルタニアードにとってその薬はずっと求めていた薬であった。リューイはそれを知っていたが今までは敢えて薬を完成させている事実を伏せていた。
そして今回リューイは新薬が完成すると王に知らせた。
理由は王家が所蔵する持ち出し禁止の書庫への入室許可を得る為である。国王は最初許可を渋ったが愛娘の懇願に条件付きでならばとリューイの入室を許可した。
だが既に薬が完成していたリューイは怪しまれないよう念の為王宮の研究室に篭る事にした。王宮の離れにある彼の研究室は誰も近寄らないため都合が良かったのだ。
アルティニアがリューイの屋敷で過ごすようになってからリューイは毎日欠かさず屋敷に帰っていた為こんな風に研究室に篭るのも久々である。人の気配のない部屋で坦々と作業しながらリューイは自分の生活がいつの間にかガラリと変わっていた事を今更ながらに実感していた。
(あまり長い期間アルティニアを一人でいさせるのは危険だろう。適当に様子を見て完成が早まった事にしてしまおうか……)
他の研究で時間を潰しながら数日が経ち、そろそろ屋敷に戻ろうと考え始めていたある日の深夜。
リューイは信じられないものを目にした。
月明かりに影が差し違和感を感じたリューイが窓の外に目を向けたその先に、彼はいた。
「…………………っな!?」
慌てて窓を開け、こちらに向かって飛んでくる彼の様子を固唾を飲んで見守る。そう、彼は確かに空を飛んでいた。
その背には真っ白な竜の翼が確かに生えていたのだ。
彼は開いた窓から研究室に降り立つと背中にあった翼が見えなくなった。何度も目を疑ったが目の前に降り立った男は間違いなくリューイの知る人物だ。
しかし、その人物の目は虚でどこか様子がおかしい。
リューイはとにかく刺激しないよう彼に声をかけた。
「アルティニア?」
名を呼ぶと彼はやっとリューイに目を向けた。
それでもまだ意識がハッキリとしないのかボンヤリとリューイを見つめているだけだった。
「こんな夜更けにどうしたんだい?なにか、あったのかい?」
慎重に声を掛けながら恐る恐るアルティニアに触れると身体の力を抜いたのが分かった。少し安心してそのまま反応を待っていたら、思いがけない言葉が返ってきた。
「貴方に、会いに来ました」
そのまま抱きつかれ背中に手を回された瞬間リューイの身体を激しい痺れが駆け抜けた。その感覚に全てを持っていかれそうになりリューイは奥歯を噛み締め耐えた。
「………わたしの、つがい?」
あまりの動揺にリューイの身体は勝手に震え出した。
これがなんであるか、リューイは知識と本能で知っている。しかし昔アルティニアから拒絶されたリューイには向けられる筈のないものなのだ。
「リューイ様。私は、貴方の番ですよね?」
「そう、私はアルティニアだけの番だよ」
普段とは全く様子の違うアルティニアだが目の前の男が間違いなくアルティニア本人であるとリューイは確信している。そして、これが【シルビー】が番にする行動ではない事も。
心当たりがあるとすれば、それは………
(これは、竜の番の求愛行動……何故!?)
混乱しながらもリューイは求められるまま縋り付くアルティニアの唇を塞ぎ彼を満足させる為余す事なく彼の身体に自分の痕跡を刻み始めた。番の跡を付けるこの行為は彼等の愛情表現の一つであり、マーキングでもあるのだ。
その内されるがままだったアルティニアも興奮気味にリューイの胸元に吸い付き首に噛みついてきた。リューイはアルティニアのマーキングを受ける度、湧き上がる情欲を必死で堪えた。
(今は駄目だ。恐らく今のアルティニアは本能に突き動かされているだけだろう。彼は自分が先祖が竜の、ハイゼンバードの一族だと彼は知らない。そもそも始祖以外その身を竜に変えた者などはいなかっ………)
「……っはぁ、リューイさま、もっと……可愛がって……ぜんぜん、足りない、から」
リューイは必死で耐えた。
「痛く、していいから……もっと欲しがって……ください。もっと、気持ちいいことして……」
最後まで致さなかった以外は、なんとか頑張った。
◆◆◆
「………へ?ぇ?な、なぜ?いや、そんな……ま、さか」
朝、目覚めたアルティニアは予想通りいつものアルティニアだった。昨夜の面影はなく、ただ呆然とリューイを見下ろし自分の身体に残されたおびただしい痕跡に顔を真っ赤にしている。
「……おはようアルティニア。身体の調子はどうかな?どこもおかしくはないかい?」
「………はっ……………はぃっ!?」
そして彼は身体を起こしたリューイを見て更に顔の熱が増したのか目を白黒させながら冷や汗をかいている。その様子から少しは昨夜の記憶がアルティニアには残っているのが窺えリューイは少しだけ安堵した。
「その様子だと昨日のこと、少しは覚えているのかな?」
「……ぁあの、あ、ぁ、あれは、夢、だと、おもっていたのですが……」
「ハハハ!流石に昨夜の事を夢で終わらせるのは酷いよアルティニア。ねぇ?少しは自惚れてもいいんだろうか?」
間近で見るアルティニアの瞳が動揺で揺れている。
しかしその中に嫌悪感の類の色は見られなかった。
「私という存在を、君が求めてくれていると」
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