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第22話【巻き込まれ属性ユイル】

「全くどいつもこいつも、紙切れを届けるだけの仕事すら出来ないとは。後で訓練の項目を増やしてやらないとな」  グルタニア国第三騎士団副団長ユイル・カーネスはリューイ・ハイゼンバードに騎士団に卸す薬の注文書を届ける要件でリューイの研究室に向かっていた。  本来であれば副団長であるユイルの仕事ではないが皆ハイゼンバードを毛嫌いしており、恐怖心もあってかこの役目を避けているのだ。下手に任せてハイゼンバードとの間に亀裂が入れば騎士団がお咎めを受けてしまう為釣り合いがとれる副団長のユイルの様な立場の者達がその役目を押し付けられるのである。 「まぁ別に言伝程度なら問題ないんだけどなぁ」  世間からは邪教だの人の血が流れてないなどと散々な言われようのハイゼンバードだがユイルはリューイの事をそこまで忌避してはいない。ただ単純に研究以外に関心を持たない人間なのだろうと思っている。  (まぁ団長が毛嫌いしてるからってのもあるんだろうがなぁ〜)  リューイはハイゼンバードから選ばれた【古の誓約】者だ。しかし、エゼキエルやラフェルとは違い魔力障害に苦しんだという話は一度も聞いた事がなかった。ユイルには分からないがその辺りがエゼキエルがリューイを嫌う理由な気がしている。少なくとも魔力障害さえなければエゼキエルは基本大らかで細かい事を気にする性格ではないのだ。  ユイルはそんな事をぼんやり考えながら辿り着いた研究室のドアを数回ノックした。 「魔力管理長官殿、第三騎士団副団長ユイル・カーネスです。お目通りの許可を得て参りました」  しかし、部屋に篭っている筈のリューイから反応がない。ユイルは首を傾げた。  (寝ているのか?いや、そんなはずは無いと思うが)  念の為もう一度ノックして扉に手をかければ鍵が掛かっていないのか扉が少し開いた。ユイルは少し迷ってドアを引いた。 「………っあ」 「っわ!?え?…………アルティニア?」  人の気配などしなかったのに扉を開けたら目の前に見覚えのある人物が立っていた。アルティニア・メイデンいや今はアルティニア・ハイゼンバードになった自分の元部下である。 「ふ、副団長……お久しぶりです」 「お、おお?お前も研究室に来てたのか?管理長官殿はいらっしゃるか?」  そう尋ねながらユイルはアルティニアの首元にある帯びたしい数の情事の痕跡を発見し思わず息を呑む。そして、何故か寝衣にローブを羽織るという奇妙な状態であるのも気になった。 「いえ、今部屋を出たばかりで……でも直ぐにお戻りになります……あの、中でお待ちになりますか?」  直ぐに戻るのならそうしたいが、何やら居心地悪そうにしているアルティニアと二人室内で待つ事に些か抵抗を覚える。しかし、このまま立ち去るのもなんだか気まずかった。 「直ぐにお戻りになるなら、待たせてもらおうかな」 「はい。其方に座って待ってて下さい。お茶ぐらいは私でも用意出来ますので」  勧められるまま隅にあるソファーに座り一通り室内を眺める。もう何度もリューイの研究室に来ているが相変わらずこの部屋はごちゃついている印象だ。魔法で管理しているせいか不思議と埃っぽくはないが乱雑に本や器具がそこかしこに置きっぽなしになっている。入り口に近い場所と奥にある宿泊用のベッド周り以外は足の踏み場がほぼない状態なのだ。 「いつからここにいるんだ?この部屋だと身動きが取れないだろ?」 「ここに来たのは今朝方です。足の踏み場はあるのでなんとか……お茶をどうぞ」 「おお、悪いな。じゃなくて頂きます」  そういえばアルティニアは今侯爵位だったなと思い出す。しかしそれにアルティニアは首を振った。 「公の場以外では今まで通りの態度で構いません。こうやってお話出来る機会もあまりないでしょうし」 「そうだなぁ。お前元々幸薄めな奴だったが磨きをかけてないか?ここだけの話、大丈夫なのか?お前」  アルティニアが【シルビー】だと知らされてからユイルはずっと心配していた。アルティニアは騎士団の中では特に注目される人物ではなかったが剣の腕は確かで、よく言えば真面目で堅実、悪く言えば自己主張の少ない存在感があまりない団員だった。そのせいか他の団員はアルティニアが【シルビー】だと聞かされても誰の事か分からないくらいだった。 「無理強いなどはされていません。過分な待遇で迎えられてますし……ただ平気なのかと問われると、なんとも言い難いというか……正直、混乱の連続です」  (だろうな!絶対それ、時後だよな?)  直属の長官であるエゼキエルと贔屓にしていた調香師のルミィールを何度も直近で見ているユイルは薄々【シルビー】が相手にどの様な扱いを受けているか察している。例え同性同士だとしても方法が変わらないのだろうということも。それでもルミィールやセリファはまだ若く可愛らしい雰囲気があり同じ男だとしてもそこまで抵抗感はなかった。だが、アルティニアは整った顔立ちであっても25歳の立派な体躯の男である。正直ユイルには男同士でのアレやコレは想像出来ない。  きっとアルティニアもその辺りで困っているのだろうとユイルは考えた。そんな彼の憶測をアルティニアは遥かに超えてきた。 「最近自分の事を全く制御出来なくなってしまっているようで……まさか、自分が…リューイ様を、襲う、なんて…」 「っぶ!?」  思わず飲んでいた紅茶をユイルが吹き出しそうになったタイミングで勢いよく扉を開く音が響き渡る。混乱の中、部屋に乱入して来た人物の姿を見て彼は安易にこの部屋に足を踏み入れた事を激しく後悔した。 「やぁ!随分と楽しそうな話をしているねぇ?私も混ぜてくれると嬉しいなぁ?いいよねぇ?副騎士団長殿?」  (どぇええええええええ!?なになになんで激怒!?)  入って来たのは笑顔なのに目が全く笑っていないドス黒いオーラを纏った部屋の主、リューイ・ハイゼンバードだった。  彼は瞬時に悟った。  何事もなくこの部屋から出る事は出来ないであろうと。  ユイル・カーネス  彼は昔から面倒ごとに巻き込まれる体質なのである。

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