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第24話【繋がる条件】
「え?じゃあアルティニアさん今、王宮にいるの?」
「らしいぜ?副団長がエゼキエルの所に来てボヤいてた」
その日、王宮に来ていたセリファは同じくエゼキエルに会いに来ていたルミィールとお茶を飲んでいた。というよりも、ルミィールに捕まった。
「大丈夫かな、アルティニアさん」
ルミィールが彼の屋敷に押しかけた話をセリファは後になってから聞かされた。呼ばれてもいない公爵の屋敷に押しかけるなど本来あってはならないのだが当の本人は平然と目の前でお茶を飲んでいる。彼の番であるエゼキエルは毎回気が気ではないだろう。セリファは少しエゼキエルが気の毒に思えた。そんなセリファの心配など全く気付かないルミィールは自分の立場を棚に上げもう一人の【シルビー】に頭を痛めている。
「アルティニアは事情を説明されてないからなぁ。リューイ様の事も自分の行動の意味も分からなくて混乱してそうだな」
リューイがアルティニアを大事にしているのはセリファも知っている。しかし、いくらリューイがアルティニアを想っていても相手がその事実を知らないのが問題なのだとセリファは思う。
「アルティニアさんの記憶、もう戻らないのかな?」
今二人がいる場所はラフェルの執務室に連なる応接室。ここは結界が張られており中の音が聞こえないようになっている。それでもセリファは心配になりつい扉に目をやった。
この話は誰かに聞かれてはならない内容だからだ。
「………リューイ様の話を聞いた限りアルティニアが記憶を失くしたのは事故の怪我が原因じゃねぇと思うんだよな」
「どうしてそう思うんだ?」
「……そもそもさ?どうしてアルティニアは今まで自分が【シルビー】だって知らなかったんだ?神殿がこんな近くにあるんだぜ?神官が見つけられなかったとは思えないんだよ。神殿側が【シルビー】を見つけると対象が子供の場合だと親に通達がいく。まぁ通達っつーか、警告だな」
番がいない【シルビー】は見つかれば直ぐに保護対象になる。普通人間は【シルビー】が魔力障害を完璧に癒す存在という程度の認識しかない。
これまで運良く【シルビー】を見つけた者達は己の欲を抑えられず【シルビー】を手に入れようとし結果的に彼等や相手の番を傷付けてきた。その行いが世界の破滅を加速させる事も知らずに。
「……知らされてた可能は高いと思う。俺は見つかったのが遅かったけど、見つかってすぐ母さんに伝えられたみたいだし。ルミィールだって知らされてただろ?本人は知らされてなくてもアルティニアさんの両親は知ってたんじゃないか?」
ただそうだとしてもアルティニアに関しては謎が多い。
そもそも竜の番は少しでもハイゼンバードの血を継いでいなければ成立しないものらしいのだがアルティニアの両親はどちらもハイゼンバードとは繋がりがないらしいのだ。
ハイゼンバード一族の始祖である竜の存在。
竜人にも【運命の番】が出来るという真実。
そして異例の【二重の番印】の発現。
これらがアルティニアとリューイの関係を更にややこしくしてしまっている気がする。
「……いっそアルティニアさんに全部、話してみるっていうのは?」
「判断が難しいところだな。それが出来るなら、とっくに話してそうじゃねぇか?……もし、記憶喪失の原因が怪我じゃなく他にあるなら下手に僕達が手を出さない方がいい。厄介な術を掛けられてる可能性もあるしな」
人に掛けられる類の術には無理に解除しようとすると逆効果をもたらす危険がある。それにその手の類いに詳しいリューイが気付かないはずもない。
「………ま、手っ取り早いのはやっぱ二人が繋がる事だろな。本物の番になりゃリューイ様の能力で相殺されるだろうしな」
「………そういえば、ルミィール達は変化ないのか?」
セリファの疑問をルミィールはハッと笑い飛ばした。
笑顔だが機嫌はどうもよろしくない。
「ねぇな。魔力交差は頻繁にしてっからお互い身体は絶好調だぜ?関係も良好だし特に問題なし!」
そうなのだ。
エゼキエルとルミィールはお互い好意を抱いている。だが一向に変化が現れないでいた。セリファはそれが不思議でならないのだ。
「あのなセリファ……僕も色々考えたんだけどさぁ?そもそもお互い好きになっただけで【シルビー】が進化出来るなら、もっと多く妖精族が残ってるはずだろ?」
そう指摘されてセリファはハッとした。
自分達がそれ程時間をかけず繋がる事が出来たため他の二人も直ぐに妖精族に進化すると思っていたが、確かにそんな簡単なら神殿だって苦労しなかっただろう。
「……両想いになるだけじゃダメなのか。でもそれ以外の条件ってなんなんだろうな」
セリファは自分とラフェルが真の番になったあの日を思い返す。二人はすれ違いながらもお互い好意を抱いていた。
もしかしたら魔力交差やお互いの想いだけでは繋がる事が出来ないのかもしれない。だとすれば、あの日セリファかラフェルがした行動の中にそのヒントがあるはずなのだ。
「俺達が繋がったのはラフェルの誕生日だった。マリアンヌ様達に屋敷に招待されて……招待されてた貴族の女性に話しかけられて、俺は自分の気持ちを自覚したんだ」
「ああ!あの、ループタイのな?繋がった時セリファは何かしたのか?」
あの時、特別何かをした訳ではなかった。
ただセリファは本来のセリファであれば決して言わないであろう言葉を口にした。その直後駆けつけて来たラフェルと目が合い身体に変化を感じたのだ。
「………俺が望めばラフェルは永遠に、俺の物だって、言っちゃったんだけど…………」
いま思い出しても顔から火を吹きそうなほど恥ずかしいが後悔はしていない。もしあの時なにも言わなければセリファはきっと自分の気持ちに蓋をし続けただろう。
「………なるほどね、【シルビー】の望みか……」
しかしルミィールはセリファ話を聞いても揶揄ったりはせず、ただ眉間に皺を寄せただけだった。
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