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第4話 側室は戦いを挑まれる

 次の日の朝。朝食を食べに食堂へ行くと、昨日俺を誘った男の仲間たちが大歓迎で同じテーブルに誘ってくれた。 「昨日は悪かったな。戦闘後はどうにも猛っちまうんだ」 「誰でもそうだ。気にするな」 「俺はウルフ! こいつがベンジーで、こっちはエドだ」 「よろしく、リオだ」  全員と握手を交わし、ビュッフェで取ってきたソーセージにかじりついた。 「……」 「なんだ? ウルフ?」 「いや、なんでもない。いやぁ、それにしても、初陣で大活躍だったよな~」 「ああ、見てたぜ! なんだよ、あの馬の乗り方……体がこ~んな風にはみ出してたぞ?」  エドがイスから体を乗り出してマネをしてみせた。 「それくらいはやるだろう?」 「ポロだってあそこまでやらねぇよ」 「へぇ……俺たちは動物を模した革袋を奪い合うんだ。だから、体を乗りださないと地面に落ちてる袋を拾えないからな」 「激しいんだな、ダディザン人ってのは……」 「まぁな。狩りの練習も兼ねているんだ。ところで、昨日のあいつは口を割ったのか?」  簡単に口を割らないと思いつつも、気になっていた。 「ああ~、あいつかぁ。難しいだろうな。中隊長とかそんなクラスの士官だろうから」 「忠誠心が強い相手をくじくのは難しいな」  昨夜は戦闘の興奮で無礼な振る舞いだったウルフも、落ち着いて話せば楽しい男だった。 「尋問は尋問官と上官に任せるしかねぇさ。それにしても、あの野郎、おまえを連れ帰る気満々だったなぁ。勝って良かったぜ、まったく」 「ああ……俺の何が良いのか、趣味が悪いよな」 「「はぁっ?」」 「本気で言ってんのかよ?」 「俺はでかいし、こんな体だぞ?」 「それが良いんじゃねぇか」  三人の視線が胸元にあるのに気がついた。 「なんだ、エド?」 「いやぁ~、そのムチムチパツパツなシャツがエロいなって、ベンジーと眺めてたんだよ」 「――乳首、目立つぞ……」 「っ!! これは! サイズがなくて! 仕方がなく!」  思わず両手で乳首を隠す。 「わかってるって! でもよ、白いシャツに乳首が透けてるし、ツンツンとんがってんのが見えて下半身にくるっての」 「ベンジー、やめろ!」 「恋人がいるって? その恋人に、乳首をい~っぱい弄られたんだなぁ」 「ウルフ……!」  ついつい赤くなってしまう俺を、3人が面白がって性的な話でさんざんからかわれてしまった。 「おっと、俺たちは今日は監視塔で見張り番なんだ。もう行くわ。おまえは当番が決まってないなら、ビリー副隊長のところに行くと良い。急な編成だったから、保留になってるはずだ」 「わかった、ありがとう」  ウルフがそう言って3人は当番に行ってしまったので、ビリー副隊長のところへ向かった。 「失礼します。ビリー副隊長に今後の俺の仕事について相談に来た……が、忙しそう、だな」 「おう……リオか。あの後バタバタしていて悪かったな。あの敵将、口がかたくてなぁ。だが、捕虜の解放の要求はきた。捨て置けない人物だったらしい。リオのおかげだな」 「偶然そいつに当たっただけだ。それで、今後はどうしたら良い?」 「剣技以外に得意なのは何だ?」  得意な事と改めて聞かれ、さて何だろうと思考を巡らせる。 「そうだな……目は良いぞ。遠くまで見渡せる。さっき監視塔があると聞いたから、役に立てるかもしれんな。それから、馬の扱いも得意だ」 「目、か。うん、監視塔に回ってくれるか? 体力を温存してくれ。もしかしたら、おまえの望みをかなえてやれるかも。監視塔の話は誰に聞いた?」 「ウルフたちだ」 「そうか。じゃあ、あいつの班に合流してくれ。正式な書類はこれから作る。頼むなぁ?」  監視班のウルフたちは歓迎してくれて、俺は昨日戦闘があった関に目をやる。両軍が睨み合い、互いに牽制している状態だ。監視塔からならば、関の向こうの敵の本陣が見てとれる。  俺はウルフの隣で、これまで知らなかった状況や戦況、死者数などを教えられていた。陛下の憂いが濃くなった原因がよく理解でき、必ずや仕留めると士気が高揚する。 「あの一番奥の天幕に大将がいるんだろうな」 「へ?」  ウルフの間抜けな声に思わず笑う。 「何だよ?」 「い、いや……おまえ、肉眼で見えてんのか?!」 「ああ、あのくらいの距離なら見えるさ」 「ダディザン人を敵にしなくてよかったぜ……」 「ハハッ! これからも同盟国さ!」 「そうしてくれ。あと、おまえも死ぬなよ」 「――そうだな。できれば生き残りたいな」  俺たちがこんな話をしている間に、ワデムとトエラン警備隊の間では、捕虜の釈放条件で揺れに揺れていたことを、俺は知らなかった。  当番が終わったあと、ブロンコ隊長に呼び出され隊長室に行くと、ビリー副隊長や幹部らしき隊員が大勢いた。彼らの顔は一様に厳しく、深刻な話だとわかった 「リオ、当番の直後に呼び出して悪いな」 「いいえ。隊長、よくない話ですね?」 「まぁな。ああ~! おまえが初っ端からやらかすからだぞ?」  ブロンコ隊長が焦げ茶色の短髪をかきむしる。 「――おまえの望みが叶うぞ」  苦虫を噛みつぶしたようなブロンコ隊長の声。  だが、俺は―― 「おいおい……ここで笑うのかよ……」 「どうかしてるわ……」  ビリー副隊長の呆れたような声も続いた。 「それこそ俺の望みです。思ったより早まってよかった。どうすれば良いですか?」  隊長の机にしがみつくように食いついてしまったのは仕方がないと思う。1日でも早く戦いたかった。  もしかしたら、ルーファスが俺の計画に気がついて追ってくるかもしれないからだ。 「はぁ……まず、条件だ。おまえと相手方が戦って、おまえが負けたら人質は無条件で解放。おまえが勝ち進んだらこの地を諦める、だと」 「勝ち進んだら?」 「一人じゃねぇ。3人勝ち抜けとかむちゃを言いやがる。敵の大将はゴーデスだ」 「3人に一騎打ちで勝てば良いのですね?――ではやりましょう。ああ……さすがに2連戦はきついですね、そこだけは交渉をお願いします」 「おいおい」 「勝ちます」  室内は静まり返る。誰かが唾を飲み込むゴクリ、という音さえ聞こえるほど、誰も口を開かなかった。 「良いんだな?」 「はい」 「……俺だって連戦が無理だってわかってるさ。1日に一度、と条件をつけてはいる。いるが……死ぬなよ」 「ゴーデスを殺すまでは死にません!」 「いや、そのあとも生きててくれよ……」  ブロンコ隊長の眉間にシワが寄る。だが、俺は想定より早く目標に近づいた事に感謝している。  あのゲス野郎を殺さなくてよかった! 陛下! 必ずや勝利します!!  対戦は明日から3日間行われるという。部屋を退室して、借り物の装備が使いにくかったことを思い出した。  剣を研いで、装備に少し手を入れよう。軽く動きやすくして、それから……  血がふつふつと湧くような興奮を抑え、堪えきれない笑みを押さえながらと武器庫へ向かう俺を、すれ違う隊員皆が振り返っていた。  ◇  次の日。良き天気で良き時間……一騎打ち日和だ!と、研ぎ上げた剣を腰に履いた。  鍛冶屋に頼み、胸当てのカーブを変えてもらい、体にフィットするようになった。小手は半分に切断し、紐を通す穴を開けてもらった。防御もできるし軽くて良い。 「リオ!!」 「おお、おはよう!」 「おはようじゃねぇよ!! この、馬鹿野郎っ!!」  ウルフ、エド、ベンジーに今回の件について散々叱られてしまった。だが、心配してくれるのが嬉しかった。 「リオ」 「「「ビリー副隊長! おはようございます!!」」」 「おはようございます」 「おう……はぁ~! なぁ、おまえ本当にやるのかよぉ」  暗~い顔で俺を見上げる。出会ってたった3日だが、ブロンコ隊長もビリー副隊長も俺を心配してくれる。それに、この3人も。 「勝ちます。勝って、フィディーリアの憂いを晴らします」 「他国の人間なのに、何でそんなに迷いなく言えるんだよぉ」 「ははは。良いじゃないですか。絶対に生き残ります!」 「まったく……なぁ、リオ。無事にゴーデスに勝って、それでも主人の元に帰れない時は、この隊にずっといればいい。だから、絶対に死ぬなよ」 「俺もいる! だから、死ぬんじゃねぇぞ!」 「ビリー副隊長、ウルフ……ありがとう」  後宮を抜け出したことを言い訳しない。だが、陛下にご迷惑をかけたことを謝りたい。だから、生き残ってやる!!  俺の第一戦は、こうして幕を開けた。  ドーーン!! ドーーン!!  双方の陣の太鼓が鳴り響き、俺と対戦相手が進み出る。 「俺はワデム軍の第2隊、百人隊長のアクロだ!!」 「俺はフィディーリアのリオ!!」  ドーーン! ドーーン!! ドンドン、ドドドドーー!!  太鼓の間隔が短くなる。  ドーーーーン!! 「うぉぉぉ~!!」 「やぁっ!!」  同時に駆け出し、ガッと剣がぶつかり合う。まずは互いの力量を図る鍔迫り合いだ。ギリギリと力が拮抗する。  ギンッ!! と甲高い音とともに、互いに距離を取る。そして、じりじりと隙を伺い、距離を詰めていく。 「ふんっ!!」  剣を横になぎ払い、軽く牽制する。大きな体の割に身軽だ。だが、ルーファスよりも剣が軽いと感じた。これなら押し返せるか。 「うるぁぁ~~!!」  ビュッと空気を切り裂いて、切っ先が迫り横っ飛びで交わす。騎士の剣とは違う実践型の荒っぽい攻撃は太刀筋が読みにくい。だが、俺の目は確実に敵の男の筋肉の動きを読み取り、次の一手が見えた。  剣を振りかぶる――  左に避ける振りをしながら、前転で距離を詰め懐に入り、腹部にずぶりと剣を突き立てた。 「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛~~……っ、あ゛……」  声が徐々に弱々しくなり、ガックリと膝をついてそのままバッタリと倒れた。足元には大きな血溜まりが広がり、俺にも血飛沫が飛んでいた。 (おまえに恨みはない。だが、これは戦いなんだ)  ドーーン!!  ドーーン!!  もう一度太鼓が鳴り始め、俺は自陣に戻った。振り向けば、倒れた男を回収するのが見えた。 「よかった!! やっぱりすげぇ!!」 「無事でよかったぜ~~! リオ!! リオ!!」 「「「リオ!! リオ!!  リオ!!」」」  士気が上がった。これだけでも、敵には脅威になる。あと二人……  そう、思った時だった。 「待てぇぇ~~!!」  敵陣からの大音声に、湧き立っていた自軍も静まり返った。 「何だ!! 正々堂々と戦った!! 文句はないだろう!!」  ブロンコ団長が怒りをあらわに叫んだ。 「文句はない! だが、もう一人相手をさせる予定だったが、俺が相手をする! 俺に勝てば大人しく撤退してやろう」 「ゴーデス!!」  あれがゴーデスか  敵軍の誰よりも大きな体。黒々とした肌に縮れた青髪。割れた顎先、張り出した前頭骨に、自信に満ちた残忍な瞳……それがゴーデスに感じた印象だ。 「おまえがゴーデスか」 「そうだ。リオとやら、まどろっこしいのはやめだ。テメェをぶっ潰して終りにする」 「おまえがぶっ潰されるとは思わないのか?」 「っ! なんだとっ!」 「どうする? 俺はまだやれるぞ?」  怒りで真っ赤になるゴーデスを挑発すると、あっさりと乗ってくれた。 「おいっ! 2連戦だぞ?! むちゃだ!」 「隊長、今ですよ。頭に血が上って冷静さを欠いている今がチャンスです」 「チッ……それで挑発したのか? 言っておくが、さっきのやつよりはるかに強いからな?」 「ええ。わかってますよ」 「待てっ!!」 「リオ!!」  俺と隊長の間に割って入ったのはビリー副隊長とウルフだった。 「やめろ!! あいつはとんでもないパワーがある。おまえも強いが、それでも……厳しい」  ビリー副隊長が俺の腕を掴んだ。 「あいつは弄んで殺しやがるんだ! やめろ、やめろよ……」  ウルフは、初対面の嫌な男がどこに行ったのか、青い顔をしていた。 「ビリー副隊長、ウルフ」  引き止める手に手をかけ、そっと離した。 「俺はやる。そうでなければ、あの方に面目が立たない」 「あの方?」  ウルフが反応して、口を滑らせたと焦る。 「あっ……主人だ。勝手に抜け出したから。だから、このチャンスを逃せない」  もう、二人は止めなかった。  だから、俺は返り血もそのままにゴーデスと向き合う。 「良い度胸だ。それに、他のフィディーリア人と毛色が違うな」 「俺はこの国に来た時からフィディーリア人になった。だから、この国ために戦う」 「面白い。楽しませてくれや」  再び太鼓が鳴り、その時がやってきた。合図の太鼓が止むと同時に、突きをフェイクで入れ、ゴーデスの反応スピードを測る。  くそっ、思った以上に反応が早い!  ゴーデスは軽々と突きを交わし、その体躯に見合わぬ軽いステップで攻撃を繰り出してくる。だが、その軽い足取りとは裏腹に、まともに打ち合えば力負けするかもしれないほど一太刀が重い剣だった。  交わしきれない一撃を受け、ガキンと剣が鳴る。  ギギギギ……  剣の軋む音。荒い息が交わり、睨み合う。 「テメェは、フィディーリアなんぞにゃもったいねぇな」 「俺はフィディーリア人だと、言った!!」  ギィィィン!!  嫌な音がして、俺たちの剣は中程でぽっきりと折れてしまった。  素早く剣を投げ捨て、がっ!!と組み合う。首相撲をしながら、引手を狙い回転しながら隙を窺う。 「こっちにきたら可愛がってやるぜぇ?」 「ワデムにはゲスしかいないのかっ?!」 「あらよっ! と!」 「ぅおっ?!」  ぶん投げられて天地が入れ替わり、一瞬で俺は空を見ていた。のしかかろうとするゴーデスを蹴り、横に転がりながら立ち上がる。 「はぁっ、はぁっ!」 「ふぅ、はぁ! やるなぁ、おまえ。最高に楽しいぜ!! うぉぉお!!」 「うぐっ!!」  タックルを交わしきれずまともに受け、もんどり打って倒れてしまった。 「くそっ!」  互いに少しでも優位を取ろうと、ゴロゴロと地べたを転がる。 (今だ!!)  組み合った手を離し、後ろに回り首に腕を回す。 「うぐっっ!! ぐぅっ!!」  背後に周りチョークスリーパーで締め上げる。足は胴に回し、ガッチリ固定し密着し逃げ場を奪う。  最初は体重を使い俺の背中を打ちつけようとしていたが、強く締めると腕をかきむしり始めた。 「降参するかっ?!」  首を横に振るゴーデス。さらに力を入れると、かふかふと苦しげに空気を求めて口を開け始めた。それでも、大将の誇りなのか参ったをしない。 「へし折ってもいいんだぞ? 降参するなら、腕を三回たたけ」 「ぐぐっ……ううっ……」  バン、バン、バン!   ゴーデスはとうとう三回俺の腕をたたいた。締めていた腕を緩めると、激しく咳きこんでいるが、殺さずに済んだようだ。 「約束を守るよな? ゴーデス将軍」 「ゴホッ!ゲホッ! ……ああ、良いだろう……」 「今ここで、部下に通達しろ。一軍の将の誇りがあるならば」 「……立たせてくれ」  よろめくゴーデスを立たせると、大きく息を吸った。 「俺の敗北だ!! 約定通り、この地から撤退する! いますぐだ!!」  大きなどよめきが上がり、ゴーデスは俺に向き合った。 「楽しかったぜ。それにしても、殺さないなんて甘いな」 「死にたかったか?」 「――良いや。おまえとヤりてぇから、死ななくてよかったぜ」 「たちの悪い冗談だ」 「ふっ……まぁ良い。じゃあな」  意外にも潔かったゴーデスは、よろめきながら自軍に向かい歩いて行く。俺はワデム兵の撤退を確認し、一軍の将のプライドから約定を守るだろう、と確信した。  安心して歓声のあがる自軍に戻るために振り向けば、何やら騒がしいようだった。 (どうし……あれはっ?!)  ブロンコ隊長やビリー副隊長が大慌てをして、隊員を整列させ一斉に礼をさせている。  その相手は貴族の装いだった。艶やかな黒髪、象牙のように白い肌。しかし、男らしい体の持ち主。腰には剣を履いている。  陛下っ!! わざわざ前線にご自身で乗り込まれたのか?!  恐る恐る近づくと、陛下の緑色の瞳がギラリと光った気がした。 「レオシュ、探したぞ」 「陛下……なぜ……」 「わが寵妃を迎えにきたのだが、不満か?」  ちょ、寵妃っ?! 「いっ、いえっ!! そのようなことは! しかし、こんな最前線に来られるなど、危険です」 「その危険な地に来させたのはそなたであろう?」 「うっ……」 (返す言葉もない) 「えっと……リオは、レオシュ様、なのか?」  ビリー隊長がぽかんとした表情で呟いた。 「そうだ。そなた達には、わが妃が世話になったようだな」  表情ひとつ変えずに即答する陛下に、顔に熱が集まるのを止められなかった。 「「「「ええええ~~~~っ!!」」」」  あああ~~!! あの痕の相手が陛下だとバレてしまった!! 「レオシュ、何をしている? 来なさい」 「はっ、はい」  おずおずと陛下の眼前で膝をついた。 「勝手な行動をいたしました。許されるとは思っておりません」  俯く俺の顎の手をかけ持ち上げられて、見下ろす陛下と視線が絡む。陛下のお顔が徐々に近づいてくる……ああ、麗しい…… 「んっ?! あっ、へい、か! んむっ!」  目の前にお顔が迫ったと思いきや、激しく口内を貪られていた。同時に胸を激しく揉みしだかれ、乳首をつまみ、あっという間に息は乱れ体が火照る (ああっ、こんなところで! でも、ああ……陛下の舌が、あつい……すきです……もっと……) 「はっ……はぁ……ん……」 「――いやらしい、蕩けた顔をして。そなた、その体を持て余していたのではないか? トエランの騎士に慰めを求めたか? ん?」 「そ、そんな事はしておりません」 「ほう。では、私がほしかったか?」  ああ、ずっと陛下がほしかった…… 「正直に申せ」 「お慕いしております……陛下が、ほしかった、です……」 「それで良い。では、ひとまず町に戻るぞ?」 「はい……」  ぼんやりした頭の中は、陛下の声しか聞こえず、陛下の香り、体温だけを求めていて、周囲の視線など完全に忘れていた。

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