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第10話 側室はお仕置きされる
陛下とゴーデスが沈黙のまま互いを牽制している。誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえるほどの沈黙は、とても長く感じた。
「そなたの本当の目的はなんだ? 宰相を利用したのはそなただろう?」
「本当に陛下の愛妾様を奪いにきただけだ。トエランでの一騎打ち……あれで惚れ込んだ。陛下は彼と本気で戦ったとこはないだろう? ――対峙した時のあの目。俺ぁ、どうしてもほしくなったのさ」
「二度も敗れたのだから諦めろ。それに、レオシュは私のものだ。民もレオシュに対して勝手な妄想をしていたようだが、英雄が我が伴侶になると知って祝福している。そなたのした事には目を瞑ってやるから、さっさと帰国するがいい」
「おっと、けが人を長旅に放り出すんですかい?」
平静を取り繕っているゴーデスだが、その額には汗が滲んでいた。おそらく、折れた腕には激しい痛みが走っているはずだ。だが、そんな様子を見せない猛将にほんの少しだけ好感を覚えた。
だから、つい情けをかけたくなった。
「陛下、発言をお許しいただけますか?」
俺はとっさに言葉を発してしまった。確かに敵であった。だが、ミヤイ宰相の企みを暴けたのもゴーデスがいたからかもしれない、とも思った。
「私からも少しだけ療養してからの帰国をお願いいたします。もちろん、バリィとして過ごしてもらう事になるでしょうが、もう少しだけ腫れが引くまでご容赦を」
「そなたを奪いにきた男に情けをかける気か?」
そう言った陛下の瞳がギラリと獰猛に光ったように見えた。確かに、お怒りになるだろう。だが、俺は人としてそこまで非情にはなれなかった。
「どうか、お情けを」
「良いだろう。では、こやつに温情をかける代わりに、そなたが私の機嫌を取るがいい」
「……はい」
「なんだなんだ、俺ぁダシに使われただけかよ。おもしろくねぇな」
「衛兵、連れて行け。丁重に治療にあたるように」
「はっ」
衛兵に連れられてゴーデスが下がった後、微妙な沈黙が流れ気まずさにゴクリと唾を飲み込んだ。
「さて、私とレオシュは下がる。レオ、来なさい」
「はい」
陛下の背中を見ながら、きっと叱られるだろうと覚悟をした。無言のまま後をついていったが、行き先は後宮ではなかった。もしや、ここは……
「陛下?」
「入れ」
「は、はい」
室内に入った途端、背後で扉が重々しい音を立てて閉まった。
「陛下、俺は……んっ?!」
陛下が突然襟元を掴み、お顔が近づいて口づけされていた。
「ん、んぅ」
陛下は服の上から胸をゆっくりと胸を揉みしだき、ふいに舌を吸われてビクッと震える。体が慄いて、陛下に抱きついてしまいたい衝動に駆られる。だが、口づけから陛下の苛立ちを感じて、されるがままに立ち竦むしかなかった。
「アレが不正をしてまでおまえを奪いに来たと知った時、俺がどう思ったかわかるか? しかも、そんな男を庇ったな?」
「陛下……俺はただ、人として非道なまねが出来なかっただけ、くっ……!」
布ごしに乳首を押しつぶし、何度も擦られるとあられもない声が漏れてしまう。
「お許し、ください。俺は、陛下だけ、んっ……です。お詫びに、ご奉仕させてください」
「今夜は簡単に終わらせない。覚悟しろ」
「はい……つきましては、準備をしてきます」
「私がしてやろう」
「えっ!? そんな! 尊い御身にそのような事をさせられません!!」
慌てる俺に、陛下がにやりと不敵にほほ笑んだ。玉座での微笑みとは違う男の情欲が漂うその表情に、体は抵抗をやめてしまう。
「慣らすのは得意だ。俺に任せろ」
「慣れている」という言葉に胸の奥がジクリと痛む。陛下はこれまで、誰をどんな風に抱いたのだろう――
「そんな顔をするな。過去は水に流してくれ。レオに出会って、俺は本当の愛を知ったのだ」
「陛下っ!!」
ひしと抱きつき、耐えきれずに自分から陛下に口付ける。
「どうぞ、陛下の思うままになさってください」
◇
くちゅ、ぬちゅっ……ぐちゅっ……
俺は全裸で膝をつき脚を広げた状態で、尻を高く掲げて陛下に恥ずかしい場所を晒している。背後からの気配だけで、陛下の焼けるような視線を感じる。
「固いな。闘技会に備えて数日可愛がっていなかったせいか? 自分で弄らなかったのか?」
「して、おりま、せん」
「そうか。待ちかねていたように吸い付くのはそのせいか?」
指が増やされ、弱い場所をトントンと何度も突かれて思わず指を締め付けてしまう。
「ん、んぁっ……あ、んう、陛下ぁ」
「どうした? まだ二本だ。もう我慢ができないのか?」
「もうし、わけ、あっ、あうっ!」
ぐりっと強く押され、ビクビクっと体が慄く。
ああ……早く、来てほしい。
「ふふ……いつも万全の用意をしているから、ずっとこうしてやりたかった」
「ん! あっ♡」
たまらない……意地悪にじらされると、もどかしさに体は燃え上がっていく。陛下は俺がこうなると分かっているのかもしれない。
(もっと激しく……かき回してほしい)
陛下の指を味わいたいと、自然と後孔は指に吸い付き、腰が揺れてしまう。
陛下ははしたないと笑うだろうか。
「ん、陛下♡ すみま、せん! こんな、姿……」
「くくくっ……良いや。楽しいぞ? 俺は動いていないのに、レオのメス穴は美味そうに俺の指をしゃぶっているからな」
「んっ、そんな、こと……」
「無意識か? おまえ自ら俺の指を腰を振って食らっているんだぞ? ほら、自分が好きなところを擦って見せろ」
クスクスと笑う陛下は、本当に一切指を動かしてくださらない。仕方なく命じられるままにゆっくり動いてみる。
恥ずかしいのに、ああ……
たっぷり体内に注がれた香油が立てるいやらしい音。陛下の指を自ら出し入れする恥かしい行為は、なぜか一層の興奮をもたらしていた。
「あ、 陛下、んっ」
「このままイケるんじゃないか?」
「むり、ですっ! 陛下の、が、ほしい、です! 太いのが、良いです♡」
「ふむ……では、もう一本」
「っあ、ああ♡」
後孔に三本目が埋め込まれると、恥も外聞もかき捨てて陛下の指を貪るように腰を振る。陛下の美しい指に犯されている……いや、穢しているのは俺か。
「おや、こちらも苦しそうだ。宥めてやろう」
「へい、か! 同時は、だめ、です」
「だが、こんなにもよだれを垂らして濡れそぼっているぞ?」
「お願いです。陛下にご奉仕したいんです」
「良いだろう。では、俺は楽をさせてもらうかな」
指が引き抜かれ、背後の陛下がゴロリと仰向けになった。陛下のローブを押し上げるそこがほしくて、裾をそっと開くと悠々とそびえる陰茎が濡れて光っていた。
「あむっ」
片手で茎を擦りながら、舌先で先端を舐めてから口に含むと、しょっぱい味が口中に広がる。
数日ぶりにいただけた……最後までしてしまうから、とずっとお預けだったからか? 先走りも味が濃い気がする。
陛下のものでなければ男のモノをしゃぶって美味しいなんて絶対思わなかった。でも、今では最高のご馳走になっている。不思議だ……初めてこれを見せつけられたときは、恐怖で震えたのに。
「んぐ、ん」
ジュポジュポとわざと音を立てて上下すると、手の中のものがピクンと震えた。
「ふっ、くぅ……」
陛下の吐息が甘い。感じてくださる喜びに、俺は精一杯の舌技を駆使する。
「美味そうに食らうな」
「ぷはっ。はい、本当に美味しいので。陛下、もっと食べても良いですか? どうか、俺のいやらしい穴にください……」
濡れる陰茎に頬ずりしてキスをする。この熱い昂りで早く犯してほしい。
「仕方のないやつだ。では、俺によく見えるように、後を向いて自分で挿れるんだ。できるな?」
「はい」
陛下はクッションで体を起こし座り、俺は後向きで陛下にまたがった。背中をするりと撫でられて、ぞくっと体がざわめく。
「どうぞ、ご覧になっていてください」
陛下の陰茎に手を添え、腰を落として待ちわびた場所に埋め込んでいく。
「ん、はぁ……うんっ……はぁ、んん~~っ!」
ほんの少しだけ痛みもあり苦しかったが、それ以上に与えられる熱が痛みを上回る喜びをくれた。何度か上下に動いて馴染ませながら、一気に奥まで飲み込むとそれだけで達してしまいそうだった。
「ふふふ。そんなに一気に挿れて大丈夫か? よほど待ち遠しかったとみえる」
「はい……はい……」
「ほら、自分で動いて」
ペチンと尻を叩かれ、ゆっくりと出し入れを始める。
「あ、んんっ! これ、イイ、です……」
「そのようだ」
陛下は尻肉を揉みしだきながら、楽しそうな笑い声が聞こえた。
「戦いではあれほどに雄々しい男が、ベッドでは淫乱なメスになるなど、誰が想像できようか」
「あっ、そう、です! 俺、はぁ……陛下だけの、メスですぅ」
「可愛いやつめ」
そういうと、下からズドンと突き上げられ、より深いところをえぐられた快感で膝から崩れそうになってしまったが、必死で耐える。
「あうっ!? あ、急に、あ、だめ♡」
「何がダメだ? ん? こんなに嬉しそうに咥え込んで」
「ちから、はいらな、く、んあっ」
全体重をかけてしまったら、俺はかなり重い。だから、陛下を潰さないようにと必死で踏ん張ると、中をギュッと締め付けてしまい、陛下の形をはっきりと体内に感じた。
「クククッ! 頑張れよ」
パン!! パン!! パン!!
激しい突き上げに肌と肌がぶつかる音が何度も繰り返される。
「んあっ! あっ♡ ひっ♡」
「ゴーデスに負けていたら、あの男にもこうして体を好きにされていたのだぞ」
「そん、な、こと」
「おまえは男も女も引きつける! もしかしたら、こうしておまえを抱いていたのはゴーデスだったかもしれないんだ」
背後から強く強く抱きしめられた。その声はわずかに震えていた。不意に陛下の手が殴られた場所に触れ、ずくんと鈍い痛みに思わず身を捩った。
「痛むのだろう? 万が一レオを奪われていたら、俺は……」
「お許しください。それほど心配してくださったなんて……陛下、お顔がみたいです」
「ああ。俺もだ」
引き抜いたそこがひくつくのをそのままに陛下と向かい合えば、初めてみる表情をされていた。何かを押さえ込んだ、苦しげな顔。いつも自信満々な顔とは正反対だった。
「ああ、陛下。お許しを。そんなお顔をなさらないでください」
「初めて、失いたくないと思った。レオは俺がいなくても生きていけるのかもしれないが、俺は」
「待ってください!! なぜそんなことを?」
俺が陛下なしでも大丈夫だと思っていらしたのか? なぜだ?
「おまえは、好きで俺に抱かれたわけじゃない。仕方なくこの国に来て、仕方なく俺のものになっただけだ」
「そんな風に思っておられたんですか」
確かにきっかけはそうだったが、過去の話だ。でも、俺も陛下には女性がふさわしいのではと思う不安と同じように、陛下も不安を抱えておられたんだ。
「陛下。最初は確かにそうだったかもしれません。でも、今は違います。俺も陛下を愛しています」
「だが……」
不安げな陛下に、そっと口付ける。
「陛下と触れ合い、語り合ううちに、俺にとっても陛下が全てになっていきました。覚えておられますか? 初めて、陛下が抱いてくださった日を」
「覚えているとも。後宮に初めて赴いたあの日以来、ずっと待ち望んでいた日だ。訪問すると、いつもレオは剣の稽古をしていたな」
「ふふふ、稽古バカとおっしゃって、笑われましたね」
「クククッ! そうだった。あれはな、羨ましかったのだ。俺は国王になって以来、稽古の時間はほとんど取れないからな」
ちゅっ、ちゅっと啄みあって笑う。だが、陛下に押されてベッドに倒れ込んだ。のしかかる陛下は優しい瞳で見つめていた。
「怖がっていた俺を優しく抱いてくださいました。だから、いつか優しい陛下の役に立ちたいと願っていたんです」
「十分役に立っていたぞ? レオといるだけで心が軽くなった」
「それでは足りなかったんです。でも、ちょっとむちゃをしすぎました。反省しています」
「そうか。反省しているのか。本当かな? むちゃは二度目だぞ?」
「どうか、お仕置きしてください。俺で存分にお楽しみになってください」
両膝を抱えて、ひくつく後孔を見せつける。
「本当に嫌なら、陛下や騎士を殴りつけ、切り倒してでも逃げられました。でも、陛下と出会ったあの日、俺も陛下に心を奪われたんです。だから、こちらの指南も恥を忍んで受けました」
「レオ……」
「俺は陛下を心から愛してます。だからあんなことをしました。そのことには許しを請いませんが、この愛を信じてもらう努力が足りなかったことは、反省してます。陛下には女性と子をなしてほしいと宰相に言われていたので」
「ミヤイのせいか、忌々しい。だが、お互いさまだな。俺たちはもう少し言葉を交わすべきだった。こちらでは、散々に語り合ったのにな」
「ん、あぁっ……!!」
陛下に、ずぶずぶと奥まで一気に貫かれて、たまらずに声が漏れる。
「くぅ……レオの中は、いつも熱く心地良いな」
「お願いです……陛下、早く、動いて」
「こう、か? ん?」
「あっ、んんっ!!」
「ふふっ、可愛いな」
「かわ、いく、など」
陛下よりも体も大きい、こんな俺が?
「俺には一番美しくて可愛い。声は抑えるなよ?」
「あ♡ ん、あっ♡」
激しい抽送で体内を抉られる悦びに打ち震える。ひたすら陛下の背にすがって、あられもない声が止まらない。
「レオ! レオ! 愛している!」
「へいか、好きです♡ 愛して、ます!」
「名を呼べと言っただろう?」
「んあっ! あっ! ギディ、オンへいかぁ」
「敬称も敬語もいらん! この場では俺たちはただの男だ」
「ギディオン……ギディオン、愛してる!」
ここは、陛下の私室。とはいえ、きっと誰かが控えている。
だから、それらの目たちにも俺たちの愛がわかるように示そう——
休んでは何度も交合を繰り返し、長い夜を俺たちはひたすらに貪った。
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