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第13話 側室は奪われる 1 *R18

 陛下が俺の部屋を訪って何日経っただろう。その間に、カサンドラ様とジュリア様が初夜を迎えた祝いだと言って、彼女たちの茶会に呼ばれていたたまれない日々を送っていた。  俺の努力は無駄なんだろうか。本当は、陛下はいらっしゃらないのではないか?  そんな不安をリリアンはいつも笑顔で打ち消してくれたが、まったく自信が持てなかった。だが、その日がとうとうやってきた。  陛下に贈られた純白の絹のローブは透かし織りで上品だった。だが、透かし織りで織られたそれは、俺の肌も、小さな布で包まれただけの陰茎の膨らみさえも透けていて、恥ずかしさに落ち着きなく寝室をうろうろと歩き回っていた。 「レオシュ様、陛下がいらっしゃいました」 「っ!! わ、わかった。どうぞお入りください」  陛下は深紅のマントを羽織り、裾を翻しながら優雅に現れた。どきりと胸の鼓動が早くなる。だが、しかし—— 「陛下、レオシュ殿下。本日の検分役を務めさせていただきます」  男が四人入ってきて、思わずびくりと震える。  そうだ、検めると言っていた……俺が、陛下に抱かれるのを見られるのか。  覚悟を決めたはずだった。だが、無性に恐ろしくなった。恐怖を克服してきた俺だが、これはまったく違う恐ろしさだ。 「レオシュ」 「へ、陛下」 「……震えているな。恐ろしいか?」 「——いいえ」  俺が恐ろしいのは、あそこにいる男たちに見られることであって、陛下を恐ろしいなんて一度も思ったことはない。 「私を信じて、身を任せてくれ。あそこにいるものどもは人形だと思え」 「は、はい……」 「とはいえ、不安だろう。屈んでごらん」 「はい」  頭を下げると、陛下が俺に目隠しをした。 「これでアレらは見えない。私だけの声を聞き感じるんだ。いいな?」 「はい」  手を取り導かれベッドに横たわる。ローブの紐が解かれ肌が空気に晒されると、陛下が息を呑んだ気配を感じた。  見えないせいか、何もかもを敏感に感じてしまう……陛下は、俺の体を見てどう思われているんだろう。  なにもかもが不安だ。筋肉で覆われた俺の体は自慢だった。だが、男に情欲を与えられるかというと、否ではないか? 「これは見事だ」 「っ?!」  胸筋をなぞるように陛下の指が肌を滑っていく。うっすらと塗られた香油のせいで滑りの良くなった肌を、陛下が確かめるように触れていく。 「この腹筋も美しいな」 「んっ……へ、陛下」  恥ずかしい。褒めていただけるのは嬉しいが、無性に恥ずかしく身をよじってしまう。どんなことをしても隠しようもないのに。  そもそも、泉で水浴びなどをして、男同士全裸で水浴びを散々してきたというのに、なぜ陛下にはこれほど羞恥を感じるのかわからない。 「この体を他の者どもに見せるのはもったいないな。なるべく早く済まそう」    早く済ますという言葉に、胸がズキンと痛んだ。  ああ。やはり俺は、陛下にとって恥ずかしい存在なのだ。この一度だけの時間を、大切にしよう。   「陛下……賜ったもので、準備は済ませております。どうか、お情けをください」  無理して俺を抱いてくださる陛下……早く終わらせて、陛下にご迷惑をかけないように静かに生きていこう。 「震えているじゃないか」 「続けてください」 「初めてなんだな?」  無言でうなずくと、そっと唇に柔らかいものが触れた。 「そうか。なるべく、痛みがないようにしてやるからな?」 「はい。——っ?! へ、陛下っ?!」  後孔に香油をまとった細い物がぬるりと入り込んだ。淫具を入れられてきたからわかる。この温もりのある物、それは陛下の指だ。その指がずぶずぶと中を暴き、内壁をこすりながら奥まで入ってくる。 「怖がるな。大丈夫だ、私にすべて任せよ」 「へい、かっ! そんなことは、なさらなくてもっ」 「私は、したいと思うことをする」 「ん、はっ……っう」 「痛いか?」 「い、いいえ」  中に仕込んであった香油と陛下のまとった香油の効果か、クチュクチュと嫌らしい音を立てて俺の中を陛下の指が行き来する。  細い張り型で少し拡げてあったからか、痛みは全く感じない。だが、先ほどまでローブを押し上げていた陛下の雄芯は、賜った物より遥かに大きく見えた。  本当に入るのだろうか——怖い……  王は奉仕などしない。そう教わった。だから、いきなり挿入されるものと思っていたのに、こんなに優しくされたら、俺はどうしたら良い?  いつしか指が徐々に増やされ、三本も俺の中に入っていた。陛下の指がある一カ所をかすめると、体が勝手に震えた。 「ああっ!!」 「そうか、ここか。本当はイかせてやりたいが、艶姿を見せるのはもったいない」 「んん、へ、い、かぁ……」 「挿れるぞ」 「はい……ん、ぅあ、ああぁ! ~~っ!」    体が二つに裂けそうな質量の物が、俺の中に入ってくる。苦しい、さっきまでの快感が消え去り、息をするのもつらい。 「っ、レオ、呼吸を、止めるな。きつい……」  陛下が動きを止め、俺の髪を撫でてくれた。 「ぅ、あ、はぁ」 「そうだ、息を吸え」  よしよしと撫でながら宥められ、ようやく呼吸の仕方を思い出した。 「良いぞ。上手だな。そのまま、息を吐いてみろ」 「はぁ~~あ、あっ!」  ずぶり、と奥に陛下が入ってくる。苦しいが、先ほどよりはずっとマシだった。 「ほら、吸って」  今度は息を吸うと、ほんの少し体から力が抜けた。俺が息を吸う間、陛下はぴくりとも動かなかった。  ああ、こんな途中で止めるのは、お苦しいだろうに。  それでも、自身が受けいれるのに必死で、まともな言葉は出てこない。必死で息を吸い吐いて、その一息ごとに陛下が進み、ようやく陛下のすべてが俺の中に収まった。 「全部、そなたの中に入ったぞ。上手にできたな」  ちゅっと髪にキスしてくださる気配に、必死で頷く。  腹の中が熱い——陛下が俺の中で脈打つのを感じる—— 「すまないが、あやつらに我らの契りを示さねばならん。——動くぞ」 「は、い、あっ、あっ」  指など比べ物にならない熱い楔が、俺の中を出ては奥を突き上げてくる。陛下の背中にしがみついて、ただ揺さぶられ続ける。 「レオシュ……レオ」 「あっ、くぅ、あうっ!!」  動きが激しくなり、先ほど擦られて震えた場所を陛下の亀頭が掠めると、言いようのない痺れが走る。 「すまん、イクぞ」  陛下の体が震え、俺の中が熱いもので満たされるのを感じた。それからすべてを吐き出すように数度突き上げられた。 「っふぅ……」  陛下の射精後の満足げな吐息が色っぽい。一方、俺は正直に言って、イクどころではなくしがみついているだけで精一杯で、奉仕できなかった情けなさに涙が出そうだった。  だが、俺でイッてくれた。それだけで十分だ。——今夜を決して忘れません。  俺の中から出ていくと、奥から精液が溢れそうになり思わず後孔をキュッと締めつけた。 「レオシュ、力を抜いて、私との契りが成立した証を見せなさい」 「えっ!? あ……は、い」  そうだった。これは儀式なんだ。  周囲に人が集まる気配がする。陛下が目隠しをしてくださって良かった。羞恥で気が狂いそうだ。 「確かに、初夜は成立いたしました。陛下、レオシュ殿下、おめでとうございます」  抑揚のない儀礼的なセリフを他人ごとのように聞いていた。 「良し、成立したな。そなた達は早く下がれ」 「陛下もお召替えを」 「何を言う? 今宵はわが側室の部屋で過ごす。明朝迎えに来い」 「「「は??」」」 「邪魔だ。出て行け」 「は、はいっ!」  バタバタと大勢の足音がして、やがて静寂が戻った。そして、目隠しをそっと外された。 「陛下……?」 「ここからは、私たちだけの時間だ。さっきはイかせてやれなくてすまんな。あやつらには見せたくなかったんだ」 「え……? あ、陛、下。んん、まだ、なさるのですか?」  さっきとは違い、覆いかぶさり首筋に舌を這わせ、ねっとりと舐められた。 「汗をかいていて、汚いですっ」 「ふふ、私が嬲ったせいだな」  確かにそうだが! 汗なんて、まずいに決まってるのに、なんて嬉しそうな声で笑うんだ。 「ん、そこ、は、つぅっ!」  今度は胸をギュッと掴まれ、揉みながら陛下は丹念に胸を舐め、乳首を指で挟んで引っ張るようにしながらグリグリと刺激してきた。 「あ、陛下、俺は、男、です」 「男もここで感じるんだぞ? レオの乳首は恥ずかしがり屋のようだな。だが、こうしてかわいがれば顔を覗かせる……」  ちゅっと先端にキスをしてから舌でベロリと舐め上げられ、ビクッと体が跳ねた。 「んあぁっ!」  なんだ!? いまのは?  さっきとは明らかに違う自分の体に驚き、不安でいっぱいになる。  変な声が出てしまい、両手で口を覆い声が漏れないように押さえ込む。  しかし、その両手を陛下が剥がしてしまう。 「あ……」 「声を聞きたい。顔が見たい。私にすべてを曝け出してくれ」 「——はい」  フィデーリア国のすべてをその手にした王であるのに、どこか悲しげな翡翠の瞳に俺の心は囚われた。  あの、初めて会ったときから、俺はあなたに恋をしたのだと思う。  だから、あなたの求めには必ず応えます。  俺を利用して。  性欲処理でも構わない。  恋をして、今は愛となって俺の心を燃え上がる愛しさを抑えられない。  あなたを愛しています。一方通行で構わない。だから、だから——  苦しみなんて全部忘れて、俺に、あなたを刻みつけて。

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