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第12話「ハルの思惑」

さして珍しい話でもなかった。 「、、、」 ファミレスでの夕飯から数日後。 友梨はときたま忙しく、晴也の目の前で携帯電話の画面を見せずに誰かと連絡を取るようになった。 「友梨、溶けるよ」 「あっ、うん!」 そして誤魔化すように画面を伏せてテーブルに置き、こちらに笑い返してアイスを食べ始める。 晴也はそれをただ黙って見つめた。 (浮かれてるところも可愛いなあ) また携帯電話がブブッと鳴る。彼女は一瞬そちらを向いたが、誤魔化すように笑ってまたアイスを頬張った。 (馬鹿ばっかりだ) 晴也の脳裏に浮かんでいるのは黒髪で派手なピアスを何個も付けた男である。 昔は良く笑ったが、最近あまり笑わない。原因は何となく理解しているが、ご機嫌になるよう手助けしてやる気も晴也にはなかった。 「、、本当にいけないのはどっちなんだろうね」 「え?」 浮かれた頭には聞き取れない声だった。友梨は晴也を見ながら首を傾げる。晴也はテーブルに肘を付き、大型ショッピングモールのフードコートで1人、軽くため息をついてからクス、と笑い、友梨の口元についたアイスに手を伸ばした。 「ついてるよ」 「っ、」 時たま、誰のものかわからなくなるような他人行儀な笑みを見せる晴也に、友梨は素直に胸を高鳴らせている。 こう言うときの彼は不思議で、何故かやたらと遠い存在のように思えた。 いつも手を繋いでいるのに、キスだってするのに。どうしてかは分からないけれど、自分のものじゃないように見える。 「は、ハル、、?」 なんて呼ばれたい?と付き合い初めに聞いたとき、晴也は彼女に「ハルがいい」と言った。 べろ、と指先でぬぐったアイスを舐めてから、持ってきておいたおしぼりに濡れた指を押し付ける。 友梨はその動作にすらドキドキしながら、彼を眺めた。 「また女の子?」 光瑠の問いにそちらを見向きもせず、面倒そうに智幸は首を縦に振る。 すぐそこの、3つ程繋げて並べられた机の上では梅若が仰向けに横になり、山中のパンパンに膨れた性器を股で受け止めていた。 「あっあっあっ!」 最近の放課後はこうしている。 例の如く松添が歩き回っているのだが、光瑠の計らいで新たに第二音楽準備室の鍵を手に入れてしまったのだ。 ここは壁が防音加工されているうえ、体育館に近く職員室から1番遠いC棟の地下にある。普段なら吹奏楽部の使う部屋であるから、使用していても怪しまれる事はない。 最も良いところは、この階は予算のせいで監視カメラがすべてダミーなのだ。 男子生徒4人と新任女教師が1人と言う怪しい組み合わせで教室に入っても、リアルで誰かに目撃されない限りは不審がられる事もない。 「ねー、光瑠はしないの?」 そして今回は山中、青木の他に由依と原田もこの場に来ていた。 流石に原田は梅若のこの姿には驚いている。目の前で揺れるGカップに唾を飲みながら、光瑠に話し掛ける由依のワイシャツの裾を握って小さく震えていた。 「ぁンッあっ、ん、イクうッ!」 梅若はこんなときでも傍観者が増えた事に興奮しているようだ。 潮を吹き散らしながらイキ終わると、ゼェゼェとした息を繰り返している。 由依は片想いの相手である光瑠に話しかけ、何とかこちらを振り向かせようとしていた。 実際、由依の処女を奪い、セックスの沼にハマらせたのは光瑠である。 「え、俺?トモにしてもらえば?それかヤスは?」 山中と梅若のセックスを携帯電話で録画していた青木を指差し、光瑠はキョトンとした顔で言う。 「俺これから梅ちゃんとするもん。ヒカルがシてあげなよー。あ、梅ちゃんのおまんこふわとろになってるね〜」 携帯電話を梅若の身体が見える机の上に置き、きゃぴきゃぴとはしゃぎながら青木が自分の性器を取り出し、ぴとりと梅若の膣の入り口にあてがった。原田と由依はその光景を見ながら顔を真っ赤にしている。 抜き終わってスッキリした顔の山中は自分の事後処理を終えるとクーラーの設定を調節しに行く。ここは地下で涼しいのだが、セックス後の山中からすれば十二分に暑かった。 「俺も今無理」 智幸の低い声に、原田がびくりと震える。 携帯電話から視線を外す事がない。 「んー。まあいいか、じゃあ俺とする?」 「す、するっ!」 光瑠の問いに由依はパッと笑顔になった。 「由依ちゃん、、」 「あ、ケイちゃんはトモにお願いしな。ねえ、トモ!ケイちゃん慣れてないから、お願い!」 「ええっ!?」 ズイ、と智幸が座る椅子の方へ由依に背中を押され、原田は顔を真っ赤にしながら驚いて彼を見た。 「あっ、」 智幸と視線が絡むと、原田は自然と全身に緊張が走り、ピンと背筋を伸ばす。 この鋭い目つきを意識するようになってから、彼女の胸の苦しさが止んだ日はなかった。 「俺帰るわ」 「えっ?!」 そして次の瞬間には現実に引き戻される。 彼女は入学した時点で智幸を気にしていた。それが恋になったのは最近の事だが、彼女史上初めての恋に本人はだいぶ戸惑っていた。 絵に描いたように真面目で地味な自分と、絵に描いたような不良で身長が高く、友達に慕われる険しい顔つきの彼では、漫画のような展開にならない限り両思いになどなれないと理解している。 そして知り合った由依によって、この放課後の淫らな遊びに参加させられるようになったのだから期待はしていた。 けれどここ何日か、由依が自分を智幸に差し出すたびに、智幸は首を横に振るのだ。 「トモ」 「なに」 鞄を背負った智幸に、光瑠は厳しい視線を見せた。 「連絡取ってんの、友梨ちゃん?」 彼らしくないその視線に、智幸は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。 「だったら?」 「お前、、ウシくん幼馴染みなんだろ?やめろよそう言うの」 光瑠の低い声に由依は体をびくつかせ、原田は戸惑いながらドアに向かっていく智幸の背中を見つめた。 「お前に関係ねえだろ」 「、、、」 ギロ、と睨まれると光瑠は少し狼狽える。 確かに人の女でも簡単に手を出す男ではあったが、やめろと言えば「ん。わかった」と素直に言う事を聞いてくれていた筈なのだ。 扉が開くと、乱暴に閉まる。 青木はそちらを気にする事なく梅若に腰を打ち付けていた。

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