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第31話「ユキの彼女」

「大丈夫だよ」 呆然とする彼を連れて、原田は電車に乗った。 ごとごとと揺れる車体に合わせて身体を揺らし、最寄駅について、智幸を自分の家に押し込んだ。 拒絶された日から3日で再び彼をここに連れてくるとは彼女自身も思っていなかったが、実際に連れてくると何とも滑稽に思えた。 「、、、」 「私はいなくならないよ」 ワイシャツのボタンを外して行く。 兄のいない我が家で彼女は自分のベッドに座り、智幸を引き寄せて押し倒した。 彼に馬乗りになり、何度も「大丈夫だよ」と自分と彼に言い聞かせて服を脱いでいく。 「一緒にいるよ」 ブラジャーに収まったぷるんと揺れる豊満な胸を曝け出し、シャツをベッドの下に落とした。 智幸の視線はベッドの横の窓の外で、午前中の眩しい日差しを見上げている。 感情は見えなかった。 保健室で智幸に対して原田が言った一言は彼にとって革命に近かった。 今まで自分をまっすぐ見てくれる存在と言えば、親を除いて晴也以外にはいなかったのだ。 ずっと1人ぼっちを拒絶してきた智幸に晴也が叩き付けてきた孤独は数日を経ていよいよ大きくなってしまっていた。 そこに、晴也ではない女の子から「1人にしない」と言われてしまった。 晴也に似てると思っていた、女の子にだ。 (子供も作れる、、普通に付き合える、俺といてくれる) 弱り切った智幸が縋るには充分すぎるほど整った人間だった。 覆い被さってくる彼女を受け入れて、ただ黙ってされるがままに目を閉じた。 首筋に吸いつかれ、ゆっくりとワイシャツを脱がされ、ベルトの金具が外される。 怖がっていた彼女からは想像できないほどすんなりとセックスは進んでいく。 ただ、彼は動く気になれなかった。 「と、智幸くん」 触って欲しそうな声だ。 カーテンから差し込む日差しで照らされた白いむちむちした身体を見上げると、困り顔がこちらを向いている。 「、、、」 「ブラ、取って」 こちらに倒れ込んで、ぎゅっと抱きついて来る彼女の背中に手を回し、無表情に薄いピンク色のブラジャーのホックを外した。 するん、と肌を滑って下着が彼の胸板の上に落ち、身体を起こしながら原田は腕を引き抜いて上半身を裸にしてしまった。 大ぶりな胸に小さなピンク色の乳首がちょん、と付いている。 「吸って、、?」 智幸の顔に自分の真っ白なそれを近づけ、原田は頬を赤く染めながら控えめな声でそう言った。 「、、、」 智幸は何も言わないまま胸に舌を這わせ、ちゅうっと左胸の先端をきつく吸う。 「ぁンッ!」 頭の中にあまり変わりはなく、ただ延々と晴也と自分を切り離すことを考えているが、原田が求める事に応える様にやわやわと胸を揉んで乳首を弄んだ。 ぎこちなく聞こえてきていた喘ぎ声は段々と潤いを増して色っぽくなっていく。 彼女が腰を揺らすから、智幸のそれも擦れて刺激され、段々と大きく硬くなってきていた。 (ハル、ハルに触りたい、ハル) 違う女を抱くたびに晴也を抱くことを想像してきた智幸からすれば、やはり頭に思い浮かぶのは1人だけだった。 どんなに体型や触り心地が異なったとしても、彼が求める体温はひとつしかない。 「ッ、、は、る」 「あ、、」 その名前を呼ぶと切なそうに目元が歪むのを彼女は見逃さなかった。 (はるさんが、、好きなんだね) 涙がにじむ瞳を見つめて、原田は智幸の頭を撫でる。 「ハル」 涙は目尻から溢れてこめかみをなぞり、耳たぶに落ちてから枕に吸い込まれていった。 「はる」と言う人間が彼の中で特別であること。先日のキスのときも出た名前であること。 原田はやっと理解した。 自分ではなく、この「はる」と言う人間が彼を傷つけて苦しめているのだと。 何者にも揺るがされず、強く、1人で喧嘩ができ、教師にも恐れられているような男を揺るがす存在がいると言うことを知った。 「、、、」 彼女が明確に智幸を好きになったのは、少しずつ仲良くなってきた頃にたまたま高校に行く為に毎日乗る朝の電車で痴漢にあっていたところを助けられてからだった。 好きではあっても恐ろしかった彼が、誰より何より光に近い頼もしい存在に変わった瞬間を、今でも原田はよく覚えている。 誰もが恐れる狂犬で、暴力的な危険な男。 それが時折り見せる人間臭い優しさにぐっと心を掴まれた。 「智幸くん」 「、、、」 「私、はるさんになるよ」 もしも手に入れられる隙が少しでもあるのなら、全力で挑もうと決めていた。 今がそのチャンスなら、弱り切った彼に付けいって自分から離れられないようにしてしまえばいい。 「はるさんになれるよ、私」 その言葉は毒のように素早くじっとりと智幸の頭や身体に回っていった。 (ハルに、、なれる?) 大きな手が伸びて、原田の頬に触れる。 優しく笑う顔が見えると、智幸の胸の内は密かにホッと力を抜いた。 「絶対離さないよ。好きだもん。智幸くんのこと、誰より好きなんだもん」 そこからは訳が分からなかった。 何に怯えていたのかと言うほど、その言葉を信じようと思えて、無我夢中で彼女の肌に触れて、熱を押し付けて、散々に抱いた。 何度も何度も、ゴムも付けずに中に精液を吐き出して、嫌がる声も聞かずに首を絞めて、逃げる身体を押さえつけて犯した。 「ハル、お願い、受け入れて」 「あっ、、」 どんなに怖くても、誰にも優しくできない彼を自分のものにすると言うのは、そう言うことなのだ。

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