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第33話「ユキの豹変」

明らかに、原田と自分を離す為に呼ばれたと思った。 「、、、」 「なーんで怒ってんだよずっと。楽しもうぜ、ほら、お前の番」 光瑠と山中、青木、それから智幸。 いつものメンバーで訪れたボーリング場で1人だけ不機嫌な顔をした智幸は先程からずっと黙り込んでいる。 今日は晴れて彼女になった筈の原田と朝、彼女の家で別れてから一度も連絡が取れていないのだ。 「由依ちゃんと買い物行ってくる。早く帰るから」 早くと言うのは何時だ。 どうして一言もメッセージが返ってこない。 ほぼ毎日一緒にいて毎日のように抱き合っている相手から何の連絡もない。 今の智幸は誰もが分かる程不安定で不機嫌になりやすく、明らかに原田に対して怒り始めているのが察せられた。 貧乏ゆすりが止まらず、ずっとゴリゴリと奥歯を噛み締めている。 「なー、大丈夫だって。由依とどっか行ってんだろ?気にすんのやめろよトモ」 そうやって場の空気を和ませようとした山中を睨みつけて黙らせると、また携帯電話をポケットから引き摺り出して原田へ電話をかけ始める。 「おい、トモ」 光瑠は、正直ここまで智幸が豹変するとは思っていなかった。 「うるせえ」 自分が何か頼まれて智幸を原田の家から引っ張り出してきた事がバレているな、と光瑠自身が理解する。 きっとそのせいもあって彼は余計に苛ついているのだ。 (まずいなあ、、原田、殺されねえよな、トモに) ここ最近、原田から聞いている限りの智幸の状態から考えればありえない話ではなかった。 無理矢理セックスさせられる。 光瑠と話してるのを見られて頭を掴まれ、顔を壁にぶつけられた。 原田に用事があって話しかけて来た男子生徒の腹を何回も殴った。 学校の中でもセックスを強要される。 目にあまるほど智幸の精神は不安定で、原田が可哀想だとしか思えなかった。 別れたいかと聞けばそれはないと言う彼女にある種の恐怖を抱く程、智幸と原田の関係はぐちゃぐちゃになっているように見えた。 そして、この異様な関係を作りあげてしまった原因が「牛尾晴也」である事を、光瑠だけが理解していた。 (やっぱ一回、ウシくんに話聞かないとまずいよな、これ。本当に殺されたりしたらシャレにならない) 1人、光瑠はそう決意して、しばらく連絡を控えていた友人にアプリからメッセージを送ることにした。 [ウシくん久しぶり!部活とかない日で遊べる日ない?] パパッとそれだけ打って送ると、すぐに返信が来た。 [来週、午後からならいつでもいいよ] それを見て、すぐに月曜日にしようと返事を送り、智幸を見つめた。 あちらはまだ苛ついていて、コールすらされない原田の番号へ何度も掛け直している。 (、、、トモ) ぼんやりと、いつかの晴也の言葉が光瑠の脳裏に浮かんでいた。 『人に飼い慣らすなんて言葉、使っちゃダメだよ』 あの時の、あの重怠く、日本人離れした美しさを持った晴也の笑みを思い出す。 普通に笑っているように見えてそうではない。 光瑠の発言に呆れているような、世界に絶望しているような、何もやる気がないと言う顔。 何がそんなに気に入らないのかと言う程、怒っているようにも見えた。 (ウシくんからしたら、トモって何なんだろう) ただの腐れ縁だよ。 と言われることは目に見えている。 けれどそうではなく光瑠が感じた、智幸からすれば智幸を支配しているのが晴也だとするなら、晴也から見た智幸とは何になるのだろう。 何でもかんでも許して、大人な対応を貫いて来た筈の彼が何をしたら、智幸がこんなに不安定になるのだろうか。 (ああ、) そこまで考えて、光瑠の頭の中で原田と智幸が結び付いた。 (誰かに八つ当たりしてないと気が済まないのか、アイツ) あの苛立ちがなんなのか、確かめにいかないといけない。 「由依ちゃん」 「ケイちゃん、、」 化粧をしていた筈なのに、ぼろぼろの顔でトイレから出てきた原田に由依は抱きついた。 どうしてこんなに、この優しい女の子が傷付かなければならないのだろう。 由依は少し前の、智幸と付き合えて良かったね、と原田に笑いかけた自分をぶん殴りたかった。 彼女を智幸に近づけてしまった自分を酷く非難してもいる。 「どうだった、、?」 「っうん、あの、」 聞くのが怖くもあったが、トイレの前の通路のベンチに2人は抱き合いながら座り込んだ。 「大丈夫、、大丈夫だった」 「えっ、大丈夫って、」 「妊娠してなかったっ、、2個とも使ったんだけど、2個とも大丈夫だったよ」 「ッ、、良かった、、良かったあぁあ」 泣き出した原田に引かれ、由依もぼろぼろと泣き始める。 胸から少しだけ苦しさが抜けた原田は、由依と抱きしめ合いながら周りの目を気にせずただただ泣いてしまった。 ドッと訪れた安心感に、身体がふわふわしている。 「私、妊娠してたらどうしようって、私がケイちゃんとトモを近づけちゃったから、申し訳なくてっ、あんな奴って知らなくって、!」 由依が泣きながらそれを伝えると、身体を離して涙を拭いながら、原田は柔らかく笑って由依を見つめた。 「大丈夫だよ、、智幸くんと付き合えたのは嬉しいの。何されても、大丈夫」 「え?、、何言ってんの、別れなよ、どうしてそんなこと言うの!?」 原田の善良過ぎる心に、由依は一瞬軽蔑を覚えた。 人が良い、で終わる話ではないのだ。 「だってやっと彼女になれたんだよ。別れたくない」 「妊娠してなかったから良かったってだけで、帰ったらまたナマでヤられるんだよ!?ダメだって、私だって光瑠にゴムしてもらってるよ?ねえ、大事にされてるなら普通、ケイちゃんがゴムしてって言ったらしてくれるものなんだよ?トモはしてくれないじゃん、おかしいよあいつ!」 「ちゃんと話し合うよ、大丈夫。ちゃんと話し合ってみるから。分かってくれるもん、絶対」 「何回話し合った!?何回話し合って、それでも分かってくれなくてキレて暴れて手がつけられなかったって、何回、」 「いいの!!」 震えているくせに、と由依は言葉を失った。 あまりにも無残な姿になった親友は、それでも初めて彼氏になった最低な男を、そこまでする必要がないと頬を叩きたくなる程に庇う。 自分自身が傷付き切って、身体も心ももう擦り切れてなくなりそうになっているのに、それでもだ。 由依の言葉を強く遮り、原田は震えながら両手を握りしめている。 「ケイちゃん、、」 引き時が分からなくなったのだろうか。 それともそこまで智幸に心酔しているのだろうか。 由依は原田を遠くに感じた。

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