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好きなのに②
悠斗は寝間着のままだったため、一度部屋に戻らなければならなかった。
皆は朝食に出ている時間だから部屋には誰もいないだろう。
急いで着替えて行けばまだ朝食には間に合うかな。
そんなことを考えて部屋のドアを開けると、部屋ではハルが待っていた。
「ユウト!」
「…ハル…」
ハルが待っていてくれたことの嬉しさと、九条と一夜を過ごした罪悪感が悠斗の胸を締め付けた。
「大丈夫?オレ早く起きたのにもうユウトがいなくて、朝メシんとこ行ってもいなくて…」
「ごめん…」
どんな言葉も言い訳にしかならない。悠斗はハルと目も合わせられないまま謝ることしかできなかった。
ハルはそんな悠斗の様子を見て何かを察したようだった。
「ユウトなんかヘンだ。元気ない。どうしたの?」
「…なにも…なんでもないよ」
悠斗は否定したが、その声は精一杯で震えていた。それをごまかすように自身の腕をぎゅっと掴む。
ハルはそんな悠斗の姿を見て、悠斗から目を逸らさずに問い質した。
「何かあっただろ?なんか困ってる?なぁ、オレなんでもするから…ユウト…そんな顔すんなよぉ…」
ハルは悠斗の寝間着をつかんで引き寄せると、悠斗の肩に顔を埋めて抱きついた。
ハルの体温を胸に感じて、悠斗の頬に涙が伝った。
悠斗はハルの背中に手を添えたかった。
だけど---自分のこの手は、この身体は、九条に汚されてしまった汚いものだからハルには触れられない。
「…っ…」
つい、ハルに弱気を見せてしまいそうになるのをぐっと堪えた。
ハルに心配をかけさせちゃいけない。
ハルの前では平然として、ハルの笑顔を守らないと。
「ハル…ほら、俺らもう5年生だしさ、…こーゆーの、恥ずかしいっていうか…抱きついたり手繋いだり…やめようぜ」
悠斗はハルに見えないように涙を拭い、声が震えないように強がった。
「オレはユウトが好きだよ。抱きついたり手つないだりしたい」
「…すき…って…」
心臓の鼓動が早くなって耳が熱くなるのを感じた。
ハルはなんでそんなことを平然と言えるんだ。
その好きが俺の"好き"と違うからだろ?
俺は---このままハルにキスをして押し倒してしまいたい。
「----ッ!」
九条との行為がフラッシュバックした。
自分は九条と同じ行為をハルにしようとしている。
自分の卑しい思考に気づき、悠斗はハルを押し退けて距離を取った。
「だから、そーゆーのもうやめろよ!!」
悠斗は自分の気持ちを誤魔化すために怒鳴ってしまった。
ハルの顔を見ることができない。手の震えが止まらない。
完全に俺の八つ当たりだ。
「…ごめん、…朝メシいこ」
「…ん」
それから2人は言葉を交わすことなく、着替えと身支度を済ませて朝食に向かった。
バイキングのテーブルは別々のテーブルに座り、さっさと食べてなんの味もわからなかった。
なんで、好きなのにハルを笑顔にさせられないんだろう
ハルは俺を好きと言ってくれたのに、信じられない
その好きは、本当に好き?
俺のこんな汚い部分を受け入れてくれるくらいに?
俺は、九条が俺にしたように、ハルを…その唇を、身体を…奪いたいと思ってしまうのに。
無理だ、そんなの。俺がどうかしてるんだ。
…俺はハルに触れないほうがいい。こんな汚い手で。
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