14 / 20
好きなのに side.ハル①
side.ハル
ハルはサッカー部の夏合宿に向けて心が弾んでいた。
思う存分サッカーができるのも嬉しいけど、それ以上に思う存分ユウトと一緒にいられるのが嬉しかった。
カバンにはユニフォームと、タオルと、水筒と、ユウトの好きなポッキーを入れて準備オッケー!
そうして迎えた夏合宿だった。
合宿の初日は楽しかった。ユウトとバスで隣に座れたり、お風呂に入ったり、部屋で遅くまで遊んだり…
ユウトと久しぶりにこうしてお泊まりができるのが、すごく嬉しかった。
大好きなユウトの隣で眠れるのって幸せだなぁ。
そんな風に思って寝てたからかな。
ユウトの唇が触れた感触がした。
「んん…」
うそ…キスされたのかな…?瞼が重くて目が開けられなかった。
夢かな…幸せな夢。これが叶ったらどんなにいいだろう…
起きたらユウトに冗談ぽく話してみようかな…
だけど翌朝起きてみたら、隣にユウトの姿はなかった。
それどころか部屋のみんなももう用意を済ませてでているようだった。
「やっべ!」
急いで着替えて朝食会場に行ったら、ユウトが先に朝食を済ませていた。
どうしたんだろう?いつもとちがう。ユウトなら絶対オレを起こしてくれて、一緒に行ってくれるはずなのに。
「おはよ!ユウト起こしてよ〜!朝メシ出遅れちゃったじゃん」
「あぁ、ごめん」
ユウトはオレのほうを向いてくれなかった。
「俺先に部屋戻ってるから」
あれ…?
ユウトは顔を隠すように俯いて、目も合わせずに部屋に戻っていってしまった。
ヘンだ。ユウトがそっけない。
その後何度話しかけようとしても、ユウトはオレと一緒にいようとしなかった。
昼食も、夕飯も、風呂も…昨日はあんなに楽しかったのに、今日は全然つまんない。
ユウト…なんか怒ってる?それとも…あれは夢じゃなくて本当だったとか?
オレにキスしちゃったのを照れて顔合わせられないとか…?
はは…そんな都合のいい妄想。
ユウトがいないとこんなに寂しいなんて。
サッカーやっててもこんなにつまんないなんて。
やっぱりオレにはユウトが必要だよ。
「なぁ、なぁユウトってば!」
ユウトがお風呂から上がるのを待って、オレは無理矢理ユウトに話しかけた。
「なんか怒ってる?オレ、ユウトになんかした?」
「…いや…」
ユウトはまたオレを避けようとするけど、そうはさせない。
ちゃんと今日のうちに仲直りしないと。ユウトはひとりでぐるぐる考えちゃうんだから。
「今日オレ、つまんなかった。ユウトが隣にいなかったから」
「…ごめん」
「なんか怒ってんなら言ってよ」
「ハルは何も悪くない。俺がちょっと疲れてただけだよ。今日はごめん」
やっとユウトがオレと顔を合わせてくれた。
すごく悲しそうな顔をしてて…でも、ユウトは少し安心したように顔を緩ませた。
「ん…今日隣で寝ていーの?」
「…うん」
やった!!
ユウトと仲直りできた。ユウトのいない合宿なんてもうさよならだ!
今日ユウトに話してないことたくさんあるんだぞ!!
部屋に戻ったら思う存分話そう〜!!
部屋に向かうエレベーターに乗り込もうとすると、降りてきたエレベーターには九条先生がいた。
「仲がいいな。明日もあるからはやく寝ろよ」
「はい!おやすみなさい九条先生」
「おやすみ」
九条先生はすれ違い様にユウトの肩にトンと手を触れた。
「…!」
オレはその瞬間に違和感を覚えた。胸がざわついてなんだか落ち着かない。
誰かがユウトに触るのがこんなに嫌だなんて。
ユウトはエレベーターに乗り込もうとせずにその場で立ち尽くして、見たことのない緊張した顔をしていた。
「どうしたの?」
「…!なんでもないよ、いこ」
ユウトはそれ以上なにも聞かないでくれというように、オレの手を引いてエレベーターに乗り込んだ。
ユウトの握った手は冷たくて、弱々しくて、ユウトの不安が流れ込んでくるようだった。
ともだちにシェアしよう!