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第2話
「あぁ……っ。これ、いやぁっ」
「仕事中にこんなイヤらしい下着をつけていたなんて……。お前という奴は、どこまで変態なんだ? それとも……俺以外の男を誘うつもりだったのか? ほら……図星をさされて、後ろの孔がヒクヒクしているぞ?」
期待なんてしていなかった――といえば嘘になる。ここ一ヶ月以上オナニーを禁止された上に、彼に放置された真崎の体は、疲労とは違った意味で限界を超えていた。
彼に部屋を盗聴されているわけでも、監視されているわけでもない。ならば、オナ禁と言われて素直に従う必要はどこにもない。子供の口約束レベル、いい歳をした真崎がそれを破っても咎められることはない。それなのに、自然に伸びてしまう右手を渾身の力で押し留めてきたのは、今日という日を楽しみにしていたからだろう。
サラリ―マンという肩書きの他に、夜になれば見知らぬ男の上に跨って快楽を貪り、少しばかりのお金を貰う仕事をしていた真崎。それを上司である神村 に知られたのが運の尽きだった。
『俺の専属になれ』
その日を境に他の客を取ることをやめた真崎は、神村が思い立った時にこうやって呼び出され、体を重ねるようになった。
男娼と客。結びつけるのは快楽と金。互いに欲しいモノが手に入るウィンウィンな関係。まして、恋愛感情なんて生まれることは皆無――のはずだった。
真崎はベッドの上で、レース素材で出来た紐のTバッグを履いた尻を高くあげ、秘部を曝け出すようにして腰を振った。ワイシャツはボタンをすべて外されたまま、腕に引っ掛かっている。今朝、もしかしたら……という予感に突き動かされ、神村の好きな赤色の下着を身に着けてきた。
すでに兆しているペニスは、はしたなく蜜を垂れ流し、レースの前あて部分を押し上げるように卑猥な形を露わにしていた。蜜に濡れたレースは、落とされることなく灯された照明の光でテラテラと光っている。
神村はそれを見ながら、ゆっくりとスーツの上着を脱いだ。そして、真崎の臀部を一度だけ掌で思い切り叩いた。
パンッ。乾いた音が部屋に響き、それが合図であるかのように真崎の頬が上気する。ジンジンと痺れる尻たぶに手を添えてグッとサイドにひきあげると、真崎は肩越しに振り返り、潤んだ目で神村を見つめた。
「も……我慢、できないっ」
一ヶ月以上何も咥えさせてもらえなかったそこは、ローションをつけていないにも関わらずしっとりと濡れていた。慎ましく鎮座する淡色の蕾の周りに指を這わせた真崎は、震える声で懇願した。
「挿れ……て、ください。奥で……いっぱい突いて……」
「随分とおねだりが上手くなったな。こんな淫乱ビッチが、本当に我慢出来たのか?」
訝る神村に何度も首を縦に振る。もう、前戯など必要ない。先程からスラックスの生地を押し上げている神村の熱くて太いペニスが欲しくて堪らない。舌先を伸ばし、唇の端から銀色の糸を垂らしながら自身のペニスを扱こうと手を伸ばした時だった。神村の大きな手がそれをやんわりと掴んだ。
「オイタはダメだぞ」
「えぇ……。やだ……も、触りたいっ」
双丘の割れ目に硬いモノをグッと押し付けられ、真崎はそれだけで体が震えるのが分かった。
「――久しぶりでも、俺は客だぞ? まずは俺を愉しませてから……だろ?」
神村がこんなことを言うのは初めてだった。いつもなら、野獣のように形振り構わず貪ってくる彼が、今日に限って自分を抑えこみ、さらに真崎を焦らしにかかっている。性に貪欲な真崎。一ヶ月以上も放置された体がどうなっているか、神村が一番よく分かっているはずなのに……。
「やだ……。はやく、欲し……ぃ」
眉根を寄せ、か細い声で強請ってみるが、神村のスタンスは揺らがなかった。真崎は渋々体を起こすと、神村のスラックスのベルトを緩め、はちきれそうになっているファスナーを下ろした。シルクの黒いビキニが先走りにしっとりと濡れ、大きく張り出したカリの形を照明の光がまざまざと浮き立たせる。
神村は、照明を落とすことをしない。最初は羞恥に嫌がった真崎だが、彼に明るい場所で何一つ隠すことなくすべてを見られることが次第に快感へと変わっていった。社内で、こんなにイヤらしくて、性に貪欲な真崎を知る者はいない。ただ、上司である神村だけに許した、アラレのない自分の姿。なぜだろう。彼にだけはどんな顔も見せられる――そう思った。
ムワッと蒸れた雄の匂いに目の前がぐらりと揺れた。下着に染み出す彼の蜜に舌を這わせながら、真崎はビキニのウェストに指を引っ掛けた。力を入れてそれを引き下ろすと、勢いよく飛び出した弾力あるペニスに頬を打たれ、恍惚の表情を浮かべる。
先端の口がパクパクと動き、とめどなく蜜が触れている。それを掬うように舌をのばすと、神村が息を詰めて小さく呻いた。
「っぐ――」
たった一度ペニスを舐めただけで感じるなんて、余裕ある彼にしては珍しい。そして、大きく反り返った茎の下を陰嚢から徐々に舐め上げると、再び息を詰めて真崎の髪に指を食い込ませた。たっぷりとした陰嚢。それを指先で揉み込むと、幾分重く感じられる。
(ずいぶんと溜まってるな……)
まさかとは思うがオナ禁を言い渡した手前、自分も自制していたのだろうか。だが、神村に限ってそんなことは考えられない。社内では『イケオジ』と呼ばれ、女性社員の憧れの的となっている彼。長身で筋肉質、見るからに精力旺盛な彼が、毎日生産されていく精子を吐き出さないでいられるわけがない。彼は至ってマトモなゲイであり、真崎のような変態ではないのだ。
久しぶりに味わう神村の蜜の味に酔い、うっとりを目を細めた真崎の頭がグッと押し付けられ、喉の奥に硬い先端が突き刺さる。衝撃で嘔吐き、涙と鼻水がどっと溢れる。それでもなお、真崎の喉奥を突く彼のペニスが質量を増し、口内に独特の苦みが広がっていく。
「お前の喉マンコがキュッと締まってるぞ? こうされて気持ちがイイのか? この変態が……」
攻めたてる神村の声がいつになく掠れ、荒い呼吸も混じり余裕が感じられない。すでに精液が蜜と共に漏れ出している段階で、いつもの彼とは違っていた。
「ぅ……ゴホッ――おぇ……っがはっ」
ベッドに座ったまま、真崎の頭を押し付ける神村の内腿が震えていることに気づく。顔を伏せているせいで、彼の表情を知ることは出来ないが、絶え間なく耳に届くのは吐息交じりの小さな喘ぎだった。神村はわずかに上体を倒し、真崎の喉を突き上げるように腰を使い始める。太いモノを咥えたままの顎が疲労し、唾液と胃液が混じった白い糸が幾筋も彼の下生えを汚した。
「ぁが……が……っぐぅ……っ」
ジュボジュボと卑猥な音を立てて喉奥を犯される。苦しくて痛いのに、真崎の体は歓喜し自身のペニスからはしたなく蜜を溢れさせた。
「――イク、ぞ。一滴残さず……飲め。――っぐ、あぁ!」
力任せに頭を押えつけられ、喉奥に灼熱の奔流が叩きつけられる。その熱さと勢いに、真崎もまた体を小刻みに震わせて射精していた。粘度の高い精液が容赦なく真崎の喉に流れ込んでくる。最近、皺が増えた喉仏を上下に震わせて、それをゴクゴクと音を立てて呑みこんだ。
「かはっ」
大量の精液にむせながらも、何とか飲み干した真崎は唇についた白濁を拭いながら、上目使いで神村を見上げた。
「濃くて、美味しい……。部長、どんだけ溜め込んでました?」
自身の腿に伝う精液を気にすることなく、あらゆる体液で汚れた神村の竿に舌を這わせた真崎は、天井を見上げたまま呼吸を整えている彼のフェイスラインに強烈な雄の色香を覚え、のそりと細い体を起こした。
「部長……。これで終わりって言ったら、俺……怒りますよ?」
そう言いながら神村の肩に両手を置き、そのままベッドに押し倒した。彼は、ハナからそうされることを悟っていたかのように体の力を抜き、抵抗もしなかった。真崎は身に着けていた下着を下ろし、自身の足首に纏わせたまま言った。
「今度は俺の番……。ちゃんと繋がっているところ見て下さいね。下のお口が部長の太いチンコを咥えてるところ……」
真崎はもう我慢出来ないというように神村に跨ると、一度放ったにも関わらずすでに勃ち上がっているペニスを掴むと、自身の後孔に誘った。濡れた先端が蕾を圧迫する。プチュッと小さな音を立てて、それが薄い粘膜を割り開くと、真崎の中に吸い込まれるようにして埋もれていく。
「ん――っ。キツイ……ッ。あぁ……ダメ、これだけで、イキそ……っ」
グッと体重をかけ、神村のペニスを根元まで咥えこんでいく。一ヶ月以上弄ることを禁じられたそこは、無理やり挿入されたモノを異物と判断することなく嬉々として迎え入れた。尻たぶに彼の下生えが触れる。じわじわと彼の形に広げられた中の粘膜が、今まで何度も交わったことを思い出し急激に蠢動し始める。真崎は自身の体の中で起きている異変に気づき、微かに身を震わせながら腰の奥から這い上がる快感を味わうように目を閉じた。
「き……ち、いいっ」
細く吐き出した息と共に本能がゆっくりと目を覚ましていく。眼下には、汗に濡れた額を拭いながら恍惚とした表情で真崎を見つめている神村の姿があった。
「自分で動くか?」
低く掠れた声に黙って頷いた真崎は、上体を反らし後ろに手をつくと、大きく脚を開いた。そして腰をわずかに浮かせるようにして、繋がっている場所を神村に見せた。
「どう? ちゃんと見えてる?」
「あぁ……。イヤらしいな……。目一杯咥えこんでる」
手前に下がる陰嚢を持ち上げて微笑んだ真崎の反り返ったペニスがプルンと揺れた。蜜の滴が神村の腹を汚す。それを掌で広げてから、真崎は自ら腰を振った。
「あぁ……。だめ……奥、当たって……りゅっ」
朝から直らなかった寝癖も気にならないほど髪を乱し、細く白い身体をしならせる。その姿は妖艶で、昼間影の薄い彼とは思えないほど華やかだ。動くたびに汗が流れ、もうラストノートの欠片さえも残っていない香水と、体から発せられる雄のフェロモンが混じり合い、部屋を淫靡な匂いで包んでいく。それに煽られた神村もまた、逞しい獣のような匂いを発し、真崎をさらに焚きつけていく。
互いの匂いは麻薬。一度、その匂いを知ったら二度と離れられない。そして、その匂いを体に擦りつけ、染み込ませることで所有物であるという証を残す。
神村のモノになった真崎の体はどこまでも従順で、淫らだ。自ら腰を落とし、最奥の器官の入口に先端を導くと、嬌声を上げて体を震わせる。神村の脚に爪が食い込む。その痛みよりも真崎の中がイイのか、彼の鋭い目が潤みはじめ、より熱量を湛えていく。
グチュグチュ……と水音を立て、抽挿を繰り返す太い茎。浮き上がった血管に白い粘液を纏いながら、吸い粘膜を捲りあげる様はどこまでも卑猥で扇情的だ。神村は繋がったまま上体を起こし、背中に羽枕をかませるとシーツに両手をついて腰を突き上げた。
「んあぁぁ!」
真崎の背中か弓なりに反り返り、ペニスからは白濁が飛び散った。
「節操のないチンコだな……。俺がイクまで、絶対にイクなよ」
「無理……。無理です……部長……」
「それが上司に対する態度か? 真崎……俺は、お前の精液が呑みたい。繋がったまま……な」
神村が言わんとしている事。真崎はそのいやらしさに、ゾクリと身を震わせた。射精を我慢すればするほど、その熱は体中に広がり理性を壊していく。すでに何度も経験したメスイキだが、それが限界を突破すると、真崎は潮を吹く。神村はそれを望んでいるのだ。
「自分で動いて……我慢して。出来るな……?」
「そんな……。部長……恥ずかしい」
「今さら何を言っている? ほら、動かないと萎えてしまうぞ?」
ニヤリと意地悪く笑う神村に恨めしげな目を向けた真崎だったが、一度火がついてしまった体はそうそう静まってはくれない。おずおずと腰を動かし始めるが、すぐに本能が理性を食い潰し、野獣のように激しくなっていく。赤く熟れた薄い粘膜が、神村の赤黒く変色した雄茎に纏わりつく。男性には元来愛液を出すシステムはない。だが、真崎の腸内は愛おしい男の性を欲すべく愛液に似た物質を溢れさせていく。
グチュ、グチュッ。耳を覆いたくなるような卑猥な水音。硬い茎が真崎のイイ場所を擦りあげるたびに、内部がキュッと締め付けられ、強烈な快感が背筋を這い上がり脳を焦がしていく。もう、何度イッのか分からない。射精を伴わない絶頂は、わずかな刺激で何度でも繰り返される。
「も……イキた……い。イカ、せて……」
「まだまだ」
「いじ、わ……る。っふ! 勝手に、イッちゃう……からっ」
「イッたら、もう会わないぞ?」
「やらぁ! それは、絶対に……やだ」
真崎の声がだんだんと小さくなっていく。彼にとって神村と会えなくなることは、何よりも恐ろしい事だった。もう、以前のような男娼には戻りたくない。大金を積まれても他の男の前で脚を開くことはしたくない。それは、神村に抱いていたものが変わってきた証拠だった。
「――俺も我慢してる。お前と会えなくなるのは……いや、だからな」
「部長……?」
神村の言葉にふと自我を取り戻した時だった。真崎の乳首を、彼の指が思い切り捩じりあげた。
「ひっ!」
彼に開発され、ぷっくりと膨らんだ乳首を刺激され、真崎は再び快楽の海に投げ出された。硬くしこった先端を指の腹で捏ねられるたびに、甘い痺れが体中に広がっていく。それと同時に下から突き上げられると堪らなく気持ちがいい。
「あぁ……乳首、だめ! そこ、弱いからぁ」
「知ってる……。あとは……ここだな?」
そう言った神村は真崎のペニスの先端の口に爪を食い込ませた。その瞬間、真崎の体がガクガクと痙攣し中にある神村のペニスを思い切り喰い締めた。
「やだ、やだ……こわ、い。それ……あぁ……イク、イク……ッ」
「イクか? もう限界か?」
「もう、ムリ……っ。おねがい……イカ……イカせて……く、ださ……いっ!」
「俺もそろそろ限界だな。一緒にイクか?」
神村の問いに激しく首を縦に振った真崎は、最奥の括れに彼の先端を押し付けたまま腰を振り続けた。真崎の先端を弄りながらヌチヌチと蜜を纏わせる神村の指がだんだんと強くなっていく。今にも吹いてしまいそうな口を塞ぎ、真崎の感じる場所を的確に刺激していく。
視界が大きくブレる。明るいはずの部屋が白く霞み、神村の表情だけがハッキリと目に入ってくる。脳ミソが焼き切れそうなくらい熱くなり、体中の血管が膨張していくような感覚にとらわれる。
気持ちがイイ。彼が触れているところすべてが気持ちいい。
ずっとこの時間が続けばいい。たとえ、密かに想いを寄せていることが伝わらなくても。
真崎の頬に一筋の涙が伝った。その瞬間、体の中で何かが弾け飛んだ。
爆発――と形容してもいいほどの熱が、爆風と共に内部から外へと吹き出していく。頭の中が真っ白になり、何も考えられない。だが、体の最奥に埋められた神村のペニスの形と熱さだけはハッキリと分かる。その先端から吹き出したマグマのような熱が真崎の腹の奥を焼き尽くすように爛れさせていく。
「あ……あぁ……イってる? 俺……イッちゃった……?」
プシュッというホースが弾けたような音と共に、神村の顔を白濁交じりの体液が滴った。ボタボタとシーツを濡らす音と、霞んだ視界のなかで満足げに滴を舐めとっている神村の表情にうっとりとしながら、真崎は意識を失いそのまま後ろに倒れ込んだ。
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