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縮まらない距離(朝比奈視点)
物心ついた時には、すでに僕は僕を商品だと思っている大人達に囲まれていて、人の顔色を見て育ってきていた。忙しい父に勧められた母がのめりこんだのは僕の芸能活動だった。僕がCMや雑誌に出ると喜んでくれるその姿が嬉しくて最初は楽しかったけど・・・。だんだんと、周りに居る人間の質が変わってきたのが幼心でも感じていた。
そんな中、青桐の主催するパーティーに家族で出席する機会があった。相馬は大人たちの輪の中でも良くも悪くも目を引く存在だった。
「・・・そんなんで、疲れない?」
「・・・別に」
一瞬眉間にしわが寄った様に見えたが、すぐに余所行きの顔に戻った。
それから、同い年という事で何かと会う機会が多くなり、幼馴染として今ではお互いが認識するようになっていた。
そんな中で、僕は相馬が実は表情豊かな事に気がついた。
嬉しい時、楽しい時、おいしいものを食べたとき、結構口元に出てる。最近は目にも出る様になったと思う。まだ、一瞬の変化でしかないけれどそれでも最近は他の人間が居る中でも表情を見せる様になったと思う。
だから、彼と再会した時の顔みて僕はこうなる予感はしていたんだ。
「どうかしたか?」
遊びに来たくせに黙りこくってしまった自分に、部屋の主はティーカップを置いた。
「別に~。相馬、クッキー食べたい!」
すかさず、目の前に焼き立てのクッキーが出される。
「さっすがー!」
この部屋にはお手伝いさんは入ってこないから、先に用意してくれていたのだろう。ホント、嫌味な位完璧な男。
しかし紅茶を飲む姿も様になるって、同じ男としてはむかつくんですけど・・・
「そういえば、翼君と今度デートするよ~。」
「! ごほっ・・・」
飲んでた紅茶に咽ながら、こちらに向ける視線が鋭く刺さる。
そんな顔見せちゃうのか・・・ってか・・・
「・・・、ぶ、部活の・・・一環で、だけど・・・・。・・・・ブフっ」
だ、ダメだ・・・。笑いを堪え切れなかった!
目の前でお笑いNO・1のコントを見せられても表情すら変えずにいられる男がそんな一言で紅茶に咽るとは・・・。
こんな短期間で人って変わるんだな。
「新聞部の取材か・・・。」
「そう。だから、安心して良いよ~。」
「別に・・・」
「まぁ、その前に試験とか色々あるから当分先の話だろうけど。」
「・・・」
もう、元の表情に戻ってんのか・・・。きっと、そのうち自分も見た事ないような顔を目の前の男はする様になるのだろう。
そんな遠い様で近い未来を想像すると、少し寂しく感じるがこの男が幸せになれるのならそれで良いと思う。
けれど、幼馴染としてはすんなりいきすぎるのも面白くないから、僕の気が済むまでは悪いけど二人とも我慢して♪
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