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佐々木翼(青桐相馬視点)

入学式で再会した時、まさか同じクラスになるとは思わなかった。 この学園は成績上位からクラスを分けられていく。なので、自分と同じクラスになるということは、少なくとも15位以内に入るという事 外部からの入学で、このクラスに入るのは実はそんなに簡単ではない。 入れても、2学期になる頃には授業についてこれる者とそうでない者がはっきりしてくる。 だから、俺自身も翼がそこまでできるとは、思わなかった。 展望台で見た時は、どこか抜けた奴だと思った。 しかも、人の膝の上で『ねぇちゃん』とか、姉の事を呼ぶなんて甘やかされて育った奴なんだと思った。 自分も姉が居るが、姉とはそんな気やすく呼ぶ様な者でもないだろう。 だからか、翼には興味が沸いた。 入学式で、黄瀬が話し掛けてるのを見つけた時は、何故か心がざわついた。 ハルも同じように感じたのか、気が付くと声を掛けていた。 「もう友達できたんだ」 隣にいたハルの声は、若干棘がある様に感じたがそれに続いて声を掛けると、あの日みた顔で振り返えられ、鼓動が跳ねた気がした。 幼い頃から、自分に向けられる視線にどういった意味があるのか、最近は嫌という程理解しているつもりだが、こいつの視線は嫌では無かった。自分の取り巻く環境、肩書で寄ってくるのとは違い、自分自身に対する好意を感じるからなのかも知れない。 幼い頃は、この容姿に対して好意を抱くものに対しても嫌悪を感じる事もあった。けれど、容姿を保つ努力をする者たちを知り、そこに純粋に惹かれる事に対して嫌悪から好意を持てる様になった。 人となりを知るのに、外見がまず好ましくなければ、人間関係を築くのに時間が掛かる。 その点、翼はわかりやすく自分に対して好意を持っているんだと思った。 また、翼にとってこの容姿が好ましい事実は自分には嬉しかった。 真っ直ぐと人を見る瞳、不意に見せるしぐさは出来れば他の奴には見せたくは無かった。 だから、普段なら絶対にしない様な真似もした。 その甲斐もあってなのか、翼が英語と数学が苦手な事を知ることが出来たし、料理が上手いという事には驚いた。 ちょっとしたスペルミスや、計算間違い。それ以外は、覚えが早く集中力が高いし、真面目な性格に好感が持てた。 何より、真剣に自分の事を見てくる事に喜びを感じもした・・・、ただ、時折何かを考えこんでいる姿を見かける事も増えた。 そんな時は決まって、寂し気な顔になっていることにあいつは気が付いているのだろうか? コンコン 「はいれ」 「相馬様、ご依頼頂いていた調査結果と木津根様からお届け物です」 入っていたのは、長年青桐家に仕えてる執事だった。ワゴンの上には、ティーセットと書類、小包が乗っていた。 「そこに置いておいてくれ。」 ワゴンごと、置いて執事は部屋を出た。小さい頃は、執事の他に身の回りを世話するメイド等も居たが、思春期を迎える事には部屋には極力入らない貰うようにした為、執事もそのまま部屋を出たのだった。 自ら、カップに紅茶を注ぎ書類を確認する。 「・・・姉は居ない・・・?」 一瞬、家族構成に疑問を持ったが それ以降は興味なく、書類を置き小包を開ける。 中から出てきたのは、写真とディスクが一枚。PCに入れて中身を確認すると、慣れ親しんだ弓道場での練習風景やスーパーの相馬とその時一緒にいた人物の写真データーが入っていた。 「・・・あの男、仕事は速いみたいだな・・・。」 カップの紅茶を満足気に飲み干し、机のサイドボードへ小包の中身はしまい。書類はシュレッダーにかけた。 画面の変わったディスクトップの地図上では、緑の光が点滅していた。 「ああ、今日も時間通りか・・・」 平日、タイムセールのある時は帰宅時間が少し遅れるが、基本寄り道をする事もなく、佐々木翼は下校する。 また、親からの門限が決められているのか、夜の外出は殆どない。 料理も自炊がメインで、昨夜の夕飯はハンバーグとオニオンスープ。 妹と母親とのメールは2日に1度の頻度で関係は良好。 妹は若干ブラザーコンプレックス・・・・ 部屋の主が、風呂へ行ってる間にワゴンを下げに来た彼は1枚の書類が落ちているのを見つけたが、そのまま執事はそっとシュレッダーにかけ、部屋の主が戻る前に部屋を出たのであった。

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