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八月朔日 莉緒 (1)
こんな色!!僕は欲しくなかった。御爺様も御父様も奇麗な黒髪なのに・・・
家族の中で僕だけ・・・
僕だけ、こんな色・・・。こんな色になんて産まれたくなかった。
母は僕が幼い頃に僕を産んで死んでしまった。元々体の強く無かった母が
伝統芸能を生業とする、八月朔日家で家元の妻として母としてやっていくには荷が重すぎた。
その事に御父様は心を痛めていた事を僕は知って居るし、母と同じ色の僕を御父様は可愛がってもくれた。
けれど、母が亡くなって5年経った頃、御父様は八月朔日の分家から後妻を貰ったのだ。
その事に少しショックを受けたが、その頃から御爺様に青桐家の子供が弓を習いに来る様になった。
僕は、邪魔をしない事を条件に、自分の稽古の無い時はその子供の弓を見に弓道場へ通う様になった。
初めて会った時の印象は、とても偉そうな子供。
自分より3つしか違わないのに、周りの大人達がみんなその子供にペコペコしていた。
なのに、その子供は物怖じもせず、涼しい顔でそれが当たり前のの様に振舞っていた。
その姿は、昔、母が読んでくれたおとぎ話の王様の様で、幼い僕にはかっこよく見え、すぐに憧れる様になった。
そんな彼と初めて言葉を交わしたのは、自分のお披露目演目の稽古を始めた頃だった。
自分で思う様に躰を動かす事が出来ず、悔しくて悔しくて・・・一人練習をしている所を見られたのだ。
「ああ!」
(また、ここで間違えた!!)
パチパチ
少し開いていた扉に寄り掛かる様に立っていた子が、拍手をしてくれ
そのまま、感想を伝えてくれた。
「今の所、惜しかったね。」
「!! そ、そうまくん」
その声に、驚いて思わず名前を呼んでしまう。
分家の人間が馴れ馴れしく呼んで良い名ではない事を物心ついた時から教えられていた
にもかかわらず・・・。何度も弓道場で見かける度心の中ではそう呼んでいた。
「・・・あ、あの・・・。ぼ、僕・・・」
「ああ、構わないよ。 八月朔日莉緒くんだっけ?」
「は、はい!!! いつも、弓道の練習を拝見させて頂いてます!!」
「・・ああ、君か・・。 なら、今日は僕が見学させて貰ったよ。 とても奇麗に舞っていたね。」
「あ、ありがとうございます・・・。」
思わず、涙がこぼれてきてしまった。あのそうまくんが・・・僕を見てくれていた。
その事が嬉しかった。それからは、少しずつ会話をする様になった。
それがあの出来事があったせいで、そうまくんはもう僕と会う事は無かった。
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