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八月朔日 莉緒 (2)
そうまくんが僕に声を掛けてくれた日をきっかけに、僕の演舞の質は上がった。そうま君に良い所を見てもらいたいという気持ちもあったが、誰かが自分を見ていてくれた事が自信となったせいだった。
お披露目会では無事に舞い終わる事が出来た。それ以来、そうま君が僕に話しかける機会が増えた事で、周りの大人達の態度が次第に変わっていった。
最初に変わってしまったのは、伯父さんだった。その頃、義母さんの妊娠が発覚した事で八月朔日家の後継ぎとしての権利が弱くなってしまう事を恐れたのか・・・、僕を八月朔日の後継ぎとして確固たるものへとするべく周囲に「青桐相馬の許嫁候補」と風潮する様になった。そして、それに賛同するかの様に伯父の周りには人が集まる様になっていった。
次に、変わってしまったのは義母さんだった。妊娠中のホルモンバランスが崩れてしまったせいなのか・・・
僕に、母の面影を見ては取り乱す様になってしまった。そんな義母に御父様は着いていてあげる事が増えていった。
御爺様は、この事については何も言わなかった。僕とそうま君の関係が友人と呼ぶにはまだ稚拙で、許嫁と呼べるようなモノでもない事を一番側で見ていたからだ。 だが、その態度もまた周りの人間は、黙認している物と取ったのだ。
また、青桐家の人間もこの事に関しては相馬に一任していた。
相馬の父が唯一、現当主へ逆らった事が自分達の子供には自由に恋愛結婚をさせるという事。その事から、青桐家は誰もこの件を耳にしていても何も語る事は無かった。否定も肯定も何一つ。
それが、さらに周囲の邪推を加速さていった。
そんな中、義母さんのお腹の子の性別が解った頃、最初の事件は起こった。
残念な事に、その子の性別は男の子だった・・・。その事で、周囲はさらに派閥が増えた。
伯父の懸念していた後継者問題に生まれてくる子供が絡む。
この子供が女の子だったら、僕の代わりに青桐家に嫁がせれば問題無かったのだろうけど・・・。産まれてくる子供は男の子。
その頃から、義母の体調が悪くなる様になった。
それも、決まって僕が御父様に稽古をつけて貰う為、母屋へ出向く日の夜に体調を崩すようになった。
その事から、僕は御父様から母屋へ出向く事、義母さんへ近づく事を禁止された。
「・・・莉緒様、申し訳ございません。これより先への立ち入りはご遠慮くださいませ。」
「な、なんで!? 稽古は!!」
母屋へ続く廊下で、内弟子の一人に足止をされる。その後ろから、もう一人。
「申し訳ございません。言いつけなので・・・」
「で、でも!!」
「お稽古に関しましては、こちらの須藤がお稽古をつける事となっております。」
後ろに控えていた父より少し若い男が、一歩前に出て来た。
「初めてお目にかかります。須藤と申します。莉緒様へこの度よりお稽古を付けさせて頂く事になりました。」
そう微笑みかけられる。きっと、人の良さそうな顔というのはこういう顔なんだろう・・・。だが、そんな顔を向けられても寝耳に水だった莉緒は受け入れる事が出来なかった。
「・・・御父様が決めたか?」
「さようでございます。」
そんな事を僕は聞いていない。
御父様は僕よりも、義母さんの方が大事なの・・・?
「大丈夫ですよ。莉緒様の事は須藤がしっかりと、指導いたしますので。」
須藤は、そう告げ先に足止めしていた内弟子を下がらせた。
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