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八月朔日 莉緒 (3)
それと同時に、莉緒の部屋は離れに移らせられた。
次第に義母の容態は好転していった。その事から、莉緒が義母の食事に毒を忍ばせていたのでは無いかと心無い噂が出る様になった。それは、莉緒本人にも聞こえて来た。
「・・・そんな、僕は・・・。」
「ええ、この須藤は莉緒様がそんな事をする様な方だとは思っていませんよ。」
「・・・須藤。」
最初は須藤に稽古をつけて貰う事に不満があった莉緒だったが、実の親よりも長く一緒に居てくれる須藤に次第に心を開いて行った。相馬が弓の練習に久しぶりに弓道場に来た時も、莉緒は相馬に須藤の話をする回数が増えた。
「そうまくん、昨日、須藤と映画に行ったんだ!」
「へぇ・・・。何を観たの?」
「あのね! 魔法使いの男の子がね!!」
楽しそうに話す莉緒を見つめる相馬。相馬の中で、莉緒は弟の様な存在でしかなかった。莉緒とこうして話す時間は、相馬にとって息の詰まる会話より有意義なものでは有った。だが、少し莉緒の置かれている状況に心苦しさを感じてはいた。
それは、許嫁として周りが莉緒を扱っている事。その一因に、自分自身も青桐家自体も否定も肯定もしていない事がある。
相馬としても、実際直接的にアプローチしてくる令嬢、子息には、莉緒の存在を匂わせる事も合った。もし、それが今莉緒が置かれている状況の一つだとしたら・・・。
「なんか、すまないな・・・。」
「何が?」
「オレの許嫁とか言われて・・・。」
「え!!そ、そんな事・・・」
許嫁という単語に、リンゴの様に赤くなって反応する莉緒。その顔を見れば、相馬に好意を寄せている事は誰が見ても分かった。
だから、莉緒自身も相馬が否定しない事に夢を見る様にもなっていた。
今となってはあの時、否定をしてあげていれば何か変わっていたのかも知れない。そしたら、あの最悪の事件は避けれだろう・・・。
「ねぇ・・・、恭一。僕、可愛い?」
「ああ、リオは世界一だよ。」
鏡越しに、黒髪、黒目のリオが恭一へ笑い掛ける。
莉緒はあの事件以来、自分の容姿、性別を受け入れられなくなっていた。
リオの時は、何も知らない女の子。
ただただ、青桐相馬に愛されたい可哀想な女の子。
「本当、リオは可愛いよ。」
恭一はその首筋に、唇を落とした・・・。
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