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心労の絶えない子

自分の話を静かに聞いてくれた黄瀬の様子が気になって、手元に落ちてしまっていた視線を黄瀬に向けると なんとも言えない顔になっていた。 「・・・リョウ?」 きっと、これが豆鉄砲を食らった鳩の顔なんだろう・・・。 「え、ああ。・・・なぁ・・・。翼はさ、あの二人の気持ちとかって確認したのか?特に、相馬。」 「・・・してない。」 「そしたらさ・・・、相馬は急に翼にそっけなくされただけだよな?」 あの男をあしらう存在って、見た事無いけど・・・、翼は駆け引きでそういう事してる訳でも無いから・・・。 あんな風になった訳か・・・。 今日の昼食は、本当に胃と顔に穴が開くかと思った。 あの後、ハルが胃薬貰ってきてくれた。 あの時、相馬に凝視されている中、どれだけ食べても一切、味も量も解らなかった。 そんな中で4人分あった弁当の殆どをオレが食べていたらしい・・・。きっと、胃薬を貰わなきゃ午後の授業は一切集中出来なかっただろう。 って、つい午後の自分に偉い!ってなりそうになったわ!! ふぅ・・・ 「なぁ、翼。距離置くとか別に気にしなくていいんじゃねーの?」 「・・・そ、そうか・・・?」 「中等部の時のあいつらの噂しかオレは知らないけどさ・・・。あいつらってそんな軽い奴らか? 違うよな? 好きな奴いたら、その相手が傷つく様な事はしないと思う。」 普段と違い、真剣な顔でそう話す黄瀬の言葉にすんなり頷いていた。 「・・・そうだな・・・。」 「そうだって! そもそも、相馬もハルも海外経験もあるんだし!スキンシップ位挨拶なんじゃないか?」 「!!」 そ、そうだった!! あの二人は小さい頃から海外セレブとも交流が有るんだった。 「ってか、翼だって昔、海外に居たんだろ? ハグなんか挨拶なんじゃねぇの?? あのホッペにチュッチュってのとか・・・」 そう言って、黄瀬は一人自分を抱きしめてチュッチュって頬にkissする様なジェスチャーした。 「!?!」 そうだった!!! オレも、実は帰国子女だった!!?!!! 誠としての記憶に引きずられてるのか・・・。さっき、黄瀬がしたジェスチャーを他人と今やれって言われたら・・・ 身内以外とのチークキスやハグはきっと恥ずかしくてもう出来ない気がする・・・ って・・・・想像してしまった・・・ 朝日奈とは・・・、あ・・・出来そう。 黄瀬・・・ハグはノリでなら・・・? 相馬とは・・・!!!! む!り!!!! 恥ずかしすぎる・・・。やっぱ、自分の推し様との接触は、心臓がモタナイ。 帰国子女関係ない! 相馬とは無理無理!! 思わず、首を左右に振ってしまう。 「・・・翼、一人百面相してるけど・・・大丈夫か?」 「オレ、リョウとはハグ出来る気がするけど、相馬とじゃ無理だぁ・・・。」 思わず、テーブルに突っ伏す翼の口から洩れた言葉に黄瀬は青くなった。 「え!? ちょっ・・・それは、なんで?」 恐る恐る黄瀬は翼に確認する。 ここでもし確認しなかったら、オレは明日お天道様を拝める気がしない!  多分、翼の事だから、心配はいらないと思うけど!ここはさ・・・ホント、ね!!翼!!!! ガシッ 思わず、両肩を掴んでしまったが、テーブルに突っ伏したまま翼は顔を上げない。 「だって、相馬にだと恥ずかしい・・・。」 はい!オレ、明日も生きてる!!

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