78 / 208
心労の絶えない子
自分の話を静かに聞いてくれた黄瀬の様子が気になって、手元に落ちてしまっていた視線を黄瀬に向けると
なんとも言えない顔になっていた。
「・・・リョウ?」
きっと、これが豆鉄砲を食らった鳩の顔なんだろう・・・。
「え、ああ。・・・なぁ・・・。翼はさ、あの二人の気持ちとかって確認したのか?特に、相馬。」
「・・・してない。」
「そしたらさ・・・、相馬は急に翼にそっけなくされただけだよな?」
あの男をあしらう存在って、見た事無いけど・・・、翼は駆け引きでそういう事してる訳でも無いから・・・。
あんな風になった訳か・・・。
今日の昼食は、本当に胃と顔に穴が開くかと思った。
あの後、ハルが胃薬貰ってきてくれた。 あの時、相馬に凝視されている中、どれだけ食べても一切、味も量も解らなかった。
そんな中で4人分あった弁当の殆どをオレが食べていたらしい・・・。きっと、胃薬を貰わなきゃ午後の授業は一切集中出来なかっただろう。
って、つい午後の自分に偉い!ってなりそうになったわ!!
ふぅ・・・
「なぁ、翼。距離置くとか別に気にしなくていいんじゃねーの?」
「・・・そ、そうか・・・?」
「中等部の時のあいつらの噂しかオレは知らないけどさ・・・。あいつらってそんな軽い奴らか? 違うよな? 好きな奴いたら、その相手が傷つく様な事はしないと思う。」
普段と違い、真剣な顔でそう話す黄瀬の言葉にすんなり頷いていた。
「・・・そうだな・・・。」
「そうだって! そもそも、相馬もハルも海外経験もあるんだし!スキンシップ位挨拶なんじゃないか?」
「!!」
そ、そうだった!! あの二人は小さい頃から海外セレブとも交流が有るんだった。
「ってか、翼だって昔、海外に居たんだろ? ハグなんか挨拶なんじゃねぇの?? あのホッペにチュッチュってのとか・・・」
そう言って、黄瀬は一人自分を抱きしめてチュッチュって頬にkissする様なジェスチャーした。
「!?!」
そうだった!!! オレも、実は帰国子女だった!!?!!!
誠としての記憶に引きずられてるのか・・・。さっき、黄瀬がしたジェスチャーを他人と今やれって言われたら・・・
身内以外とのチークキスやハグはきっと恥ずかしくてもう出来ない気がする・・・
って・・・・想像してしまった・・・
朝日奈とは・・・、あ・・・出来そう。
黄瀬・・・ハグはノリでなら・・・?
相馬とは・・・!!!! む!り!!!!
恥ずかしすぎる・・・。やっぱ、自分の推し様との接触は、心臓がモタナイ。
帰国子女関係ない! 相馬とは無理無理!! 思わず、首を左右に振ってしまう。
「・・・翼、一人百面相してるけど・・・大丈夫か?」
「オレ、リョウとはハグ出来る気がするけど、相馬とじゃ無理だぁ・・・。」
思わず、テーブルに突っ伏す翼の口から洩れた言葉に黄瀬は青くなった。
「え!? ちょっ・・・それは、なんで?」
恐る恐る黄瀬は翼に確認する。
ここでもし確認しなかったら、オレは明日お天道様を拝める気がしない!
多分、翼の事だから、心配はいらないと思うけど!ここはさ・・・ホント、ね!!翼!!!!
ガシッ
思わず、両肩を掴んでしまったが、テーブルに突っ伏したまま翼は顔を上げない。
「だって、相馬にだと恥ずかしい・・・。」
はい!オレ、明日も生きてる!!
ともだちにシェアしよう!