82 / 208
〇〇は見た (朝比奈視点多)
二人が生徒会室の方へと進んで行ったのと反対側から、一部始終を見守っていた者達が出て来た。
「・・・あのタイミングで・・・友達・・・。」
「・・・マジか・・・。」
どちらからともなく二人から漏れた、感想は・・・
きっと自分達以上に別の何かを期待していたであろう男への同情だった。
「まぁ、ほら・・・学園生活は始まったばかりだし」
「そ!そうだよね!!」
・・・これは、今日も昼休みは胃が痛くなるパターンかなぁ・・・。
はぁ・・・
思わず二人から大きなため息が出てしまった。
しかし、そんな心配は無駄に終わったのだった。
その日の昼休み、二人は相馬と翼の元へいつもの様に向かった。
昨日は、相馬の後ろに黒モノが見えた二人だったが、あんな事があった今日は・・・
教室の中を襲る襲る、覗くと・・・なんと、花が飛んできた!!
しかも、クラスメイトが教室で昼食を食べている!!
「お、ハル! 腹減ったな!!」
「ああ、リョウ。なんか、中が昨日より暖かいんだけど」
「マジ?」
二人は中に入って、違う意味で思わず固まってしまった。
「翼君に相馬、お待たせ!・・・・って!何?!」
「あ、ハル! 見てよ!相馬の手、指も長いんだけど・・・!」
「え、あ・・・うん。」
一体僕は何を見せられて・・・・??
朝比奈があっけに取られてる横で、黄瀬が翼の疑問に答えながら、相馬の前の机に座った。
「やっぱ・・・弓ひくのに段々伸びるんじゃね???」
「はは、何そのリョウの論理~」
翼がそう言いってる間も、合せてる手を相馬は離さないでいる
今朝『友達』と言われた割には、相馬の纏ってる空気は穏やか?だった。
「・・・ってか、相馬と翼君、いつまでそうしてんの?お昼食べよ?」
ホント、このむっつりが!! 手握れたぐらいでそんな顔すんなっての。まったく・・・。まぁ、重苦しいよりはマシだけど。
相馬と翼のやり取りを眺めている横で、黄瀬が翼に夏休みの試合の日程を渡していた。
「そういや、これ。キャプテンが、新聞部にって。」
「あぁ、試合の日程?」
日程表を受け取り、みんなの前で広げてみ始めた。
「あれ? この日、相馬の初日じゃない? 毎年この日じゃなかったっけ?」
朝日奈が、日程予定を指さして相馬に聞いた
「・・・そうだな。」
指刺された日程を見ると、7月後半。夏休み入って早々の試合
「えー、マジだ! リョウの二回戦と、相馬の初日被るのかぁ・・・。」
「まぁ、オレのトコは別に・・・」
来なくても・・・と、続けようとする黄瀬よりも先に翼がサラッと言った内容に、場が一瞬凍った。
「じゃあ、リョウの方行くかな! 相馬のは、先輩に撮影頼んどく!!」
「!? つ、翼君!?相馬の初日だよ??!良いの!?」
自分の事の様に慌てる朝比奈に、段々顔色の悪くなる黄瀬。 翼の隣では、黒い何かが湧き出ようとしている・・・
そんな事に気が付かないのか・・・、翼は言葉をつづけた・・・
「だ、だってさ・・・、相馬のは最後まで見れると思うけど、リョウのはいつ見れなくなるか解らないじゃん?」
「「「・・・・」」」
一瞬何を言ってるのか解らない顔の三人だったが、先に反応したのは朝比奈だった。
「最後まで?」
朝日奈に、オウム返しされて翼が言い淀み始めた。
その様子に、段々と翼が何を言いたいのか三人は理解し始めたのだった・・・
「あ、あれだよ? リョウも凄いとは思うんだけどさ、やっぱチームじゃん? 何があるか解らない・・・というか・・・確率・・的なね・・・?」
「ちょ!! つばさぁぁ! オレだって、最後まで行くつもりなんですけど~!」
「いや、ホント、それはそう思ってるけど・・・。」
黄瀬と翼のやり取りに、黒い何かの気配はなくなっていた。
「翼君は、相馬が失敗するとは思わないの?」
「思わない。」
きっぱり言い切った翼の顔を思わず、三人が見つめてしまう。
「って、何!? 三人共??!!! え、オレ変な事言った??」
思わず相馬の方を見ると、少し照れた様な表情の相馬と目が合った。
「・・・いや、そう言い切られたら、俺も頑張らないとな。」
「あ・・・。うん、頑張って。相馬なら大丈夫だと思うけど・・・。」
え?? 何、これ。僕は一体何を見せられてるの・・・・??
そんな二人のやり取りを見せられて、黄瀬が吠えた。
「クソーーーーーー!!! お、オレだってチームを優勝に導いてやるんだ!!! 」
「あはは!リョウ、その調子だ~! 僕も、その日はリョウの応援に行こうかな! 相馬は一人で頑張れよ!」
黄瀬の背中をポンポンしながら、朝日奈は相馬にエンジェルスマイルを向ける。
それを無視し、相馬は弁当を食べ続けた。
「あ、そうだ。これ、作ったんだけど・・・」
おもむろに翼は、机の横に掛けてた保冷バックから、タッパを取り出し真ん中に置いた。
「え、これ!」
そう言って、翼の顔をマジマジとみる。
真っ先に黄瀬が反応した事に、翼がちょっと恥ずかしそうにした。
「べ、別にお前に言われたからじゃ無いんだからな!!」
「いやいや~ つばさっち、これはさぁ~」
にやにやしながら、ブラウニーを一つ摘まむ黄瀬に便乗し
「何なに~? 翼君、これどうしたの~?リョウになんか言われたの~??」
タッパの中のチョコブラウニーを朝比奈は指差して聞いてきた。
「え、ああ・・・。 その・・・別に、リョウに言われたからって・・・いうか・・・なんていうか・・・」
顔を赤らめて少し言いづらそうに下を向いた翼の反応に、面白く無い顔になった相馬は思わず、ブラウニーから顔を背けてしまった。
「あ・・・。」クイっ
思わず、ホント思わず! 相馬の制服の袖を掴んでしまった・・・
背けた顔が、翼を見る。
「な・・に?」
「相馬は、嫌いだった?」
「・・・え?」
「甘いやつ・・・。いちを、二種類作ったんだけど・・・。」
さっき置かれたタッパの中には、確かに二種類。ナッツの入ったのと、パウダーシュガーののったものがあった。
「相馬の好み解らなくて・・・得意なやつ作ったんだけど・・・。」
翼の顔がどんどん俯いていく。うつむいて顔は見えなくなったが耳が代わりに赤くなっていったのを見て
それが、自分の為に作ったものだと思い当たったのだが・・・・
「・・・え・・・??!」
時すでに遅し・・・
慌てて、置かれたタッパに目を向ける
「あ、相馬ごめーん! あと二個しかないや~。」
「な!! ハル!おまえっ・・・!!」
慌ててタッパを取り上げた相馬が、朝比奈を睨んだ。
「も~、相馬もさっさと食べないからいけないんだよ~。」
朝日奈は、相馬を見ながらにやにや
その隣では、ハムスターの様な顔で、若干青くなってる黄瀬
「ハル、お前・・・・!」
「翼君、ナッツ入りの方、凄く僕の好みだったよ!おいしかった!! また良かったら作ってね♪」
そう言って、席を立った。
それに続いて、黄瀬も口の中のモノを飲み込み
「あ、オレ両方好き! 試合、差し入れ楽しみにしてるぜ!!」
そう言って、二人は脱兎の如く自分達の教室へ戻って行った。
残された、二個のブラウニー。ちゃんと二種類一個ずつ。
「・・・食べても?」
「もちろん・・・。」
ナッツ入りの方は少し甘さが抑えめで、確かに甘いのが苦手なハルが好きそうな味だ。パウダーシュガーの掛かった方は、少し甘さがあるがこのこの位の甘さなら、タッパ一つ分位余裕で食べれそうだ。
「うまい。」
「・・・良かった~。得意とは言え、久々に作ったから・・・。」
「作ってきてくれて、ありがとう。」
「あ・・・うん。あ、あの・・・」
「うん? 何・・・?」
相馬の好みを聞きたい翼が相馬をじっと見る
相馬もそんな翼を見つめる・・・
そして、相馬の手が翼に伸びようとしたところで、予鈴が鳴った・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クラスメイトA「ちょ!! ここの自販機もかよ!!」
B「まじで!?」
C「あーー!! もう、この際、水道水で我慢だ!!!」
「「「口の中が甘すぎるーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」
一部始終を見させられていた生徒達によって
その日の放課後、学園内の自販機からノンシュガー飲料が、売り切れた。
ともだちにシェアしよう!