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お泊りまであと・・・
結果的に、黄瀬のアドバイスのおかげか・・・、相馬とも変にこじれなくて済んだのかも知れない。
ブラウニーも季節的にはちょっと重かったと思うけど、三人とも喜んでくれたし・・・。
家でだったらゼリーとかも良いかも知れないなぁ。
紅茶ゼリーとかコーヒーゼリーとかなら簡単だし、さっぱり食べれるかも?
なんて事を考えていて、翼はその日の午後の授業もまたうっかり聞いていなかったのだった。
「・・・翼・・・。またか?」
「・・・ホント、申し訳ないです。」
ノートを写させて貰いながら、先日の事を思い出し余計に申し訳なくなる。
「・・そしたら、またデザート作ってきたら許す。」
ノートを俯いて写していたからか、目の前に座ってた相馬に、旋毛を押された。
「え・・・? 」
「ダメか?」
「・・・あ、いや。 それは、また作る気でいたから・・・・」
「そっか、なら楽しみにしてる。」
「相馬は何かリクエスト有るのか?」
「んー、そうだな・・・。これからだと、冷たいのとか?」
「あー、それなぁ・・・。 学校に朝、持ってきても温くなりそうだしなぁ・・・。」
「・・・なら、家に来るか?」
「へ?」
「迎えの車出すし。そしたら、冷たいまま運べるだろ?」
「え、まぁ・・・そうだけど・・・。」
「そしたら、今度はうちで勉強会するか?」
「え! 良いのか?! 迷惑じゃないか?」
「いや、問題は無い。 むしろ、泊りでも構わないが・・・。」
「え!良いのか?!」
「ああ、翼にばかり迷惑かけるのも申し訳ないしな。」
「それは、別に構わないけど・・・。相馬の家には行ってみたい!!」
「別に、普通の家だぞ?」
「いやいやいや・・・・普通って・・・。」
あの、青桐家が普通な訳ないでしょうが!!!変な所で、相馬ってずれてるよなぁ・・・。
「そしたら、今度の勉強会は相馬のトコで決定だな!」
そう言ってノートを閉じた。
「終わったのか?」
「ああ、付き合ってもらってサンキュ。 ノート、助かった。」
「そしたら、帰るか・・・。」
そう言って、ノートを受け取った相馬の携帯が鳴った。
「・・・悪い。」
教室の外で通話してる相馬の声が静かに怒りを含んでる様に、内容までは聞こえなかったが薄っすらと伝わってきた。
「・・・相馬大丈夫?」
教室のドアを少し開け、廊下の相馬に声を掛けると申し訳なさそうな顔で、こちらを見た。
「翼、悪い。送れなくなった・・・」
「へ? いや、別にそれは大丈夫だけど・・・」
「迎えを越させてるからそれで今日は帰って貰えないか?」
「え?! いやいや・・・オレ、一人で帰れるけど・・・・」
そう言う翼に、相馬の両手が翼の両肩を掴んで離さなかった。
「頼むから、うちの車で帰ってくれないか?」
両肩を掴む手に力が籠められる
「・・・ちょ、相馬!痛い痛い!! 帰るから!!安心して!」
「!! わ、悪い。 すぐ来ると思うから、それで帰るんだぞ。」
「お、おう! 相馬は??」
「俺は、もう来てるから・・・。」
廊下の窓から、門の所に止まっている黒の車が小さく見えた。
「おお~。あれか?」
「ああ。 本当に済まない・・・。一緒に居れなくて・・・」
そう言いながら、肩にあった手が顔に伸びそうになったが、相馬の携帯が鳴った。
画面を見るなり、舌打ちしながら通話ボタンを押し「今行く」とだけ言って切ってしまった。
「相馬? 待ってるなら、先に行って大丈夫だから!」
「本当に済まない!! うちの迎えはいつもの田中が来るから安心してくれ。」
「田中さんね!! 相馬も、気を付けてな!! また、明日!!」
「ああ。」
そう言って、名残惜しそうに何度か振り返る相馬に手を振っては、早く行けと促した。
廊下の窓から、門の方へと急ぐ相馬を眺めていると、車の中から人が出てくるのが見えた・・・
「・・・あれ? あのシルエットは・・・。」
最近見た記憶の有るシルエットに、翼の胸がまたモヤっとしたのだった。
相馬の乗った車と入れ違いに、見覚えのある車が門の所に来たのを確認し、翼も急いで下駄箱へ向かったのだった・・・
その日から、相馬が学校へ来る事は無かった・・・。
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