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ヒーロー不在

相馬が学校に来なくなって、もう明後日から期末が始まる。 クラス内でも、色々な情報が聞こえる様になっていた。 相馬の家は傾いた 相馬の祖父が倒れた 相馬の・・・、色々と青桐家に対する憶測が飛んでた。 「・・・翼。 大丈夫か?」 いつもの様に昼食を3人で食べていると、黄瀬が心配そうに聞いてきた。 相馬が休んだ初日に、青桐家の運転手が弁当を宅配してくれ相馬の様子を教えてくれたが。 ただ、一言 『相馬様の体調などはご心配いりませんので、ご安心ください。』 って・・・ 相馬の体調不良とかじゃないだけマシかとは思ったが、そこから来なくなるとは思わなかった。 それでも、まだ相馬からのメルマガは休んでいる間も着ていた。 だから、体調に関しては心配はしていなかったけど・・・、けど・・・ 黄瀬の問いに、少し考えてから翼は答えた。 「う、うん。まぁ、ペア組む時くらいかな困るの・・・」 「あー、いつも相馬と組んでたんだ。」 朝日奈の問いに、頷く。 「気が付くと、相馬と組んでる事が殆どだったから・・」 「「・・・」」 同情を含んだ目で二人が見つめていた事に翼は気づかなかった。 「あ、そうだ!! 二人とも今日どうする?」 相馬の家で今回勉強会をする予定だったか、その相馬が居ない。 なら、家ででも・・・と思って、翼は提案したが、二人はその提案をやんわりと辞退した。 「オレは相馬も居ないし、勉強会中止でも良いんだけど。」 「んー、僕も別にどっちでもいいけど・・・。相馬が居ないのに翼君の家にお 邪魔するのもねぇ・・・」 二人にそう言われて、今回の勉強会は中止になったので、その日の放課後、翼は駅の本屋に参考書を買いに来ていた。 休んだ初日に、相馬がメールで教えてくれた参考書。 相馬の休みの間も、授業の予習復習はちゃんとやっていたけど、相馬おすすめの参考書も折角なので使ってみる事にした。本屋に在庫が無くて、取り寄せて貰ったら直前になってしまったけど。 本屋から出ると、駅前が騒がしかった。 「・・・? なんだ、あそこ人だかり出来てる??」 普段ならあまり気にならない翼だが、その日はなんとなくその人だかりの方へと向かっていった。翼と同じ様に野次の人達が囁い言葉が、翼の耳に入った。 「あれって、青桐家と八月朔日家の跡取りじゃない?」 「ああ、八月朔日家と婚約したんだっけ・・?」 「・・・婚約?」 思わず、今耳に届いた言葉を繰り返してしまっていた。 その時、黒いスーツの集団に守られる様に歩いてきた人物が翼にも見えた。 それは、この三日学校に来なくなった相馬と、前に見かけた黒髪の子だった。 「・・・相馬。」 そう、思わず口にしていた。 その声が届いたのか・・・、相馬と目が合った。 その瞬間、相馬から視線を逸らされてしまった。そのまま、その集団は翼の前を素通りしていった。その集団の中には、いつも相馬を迎えに来ていた運転手の姿もあったが、相馬と同じように翼に気が付いた様だったが、翼に声を掛ける事も視線を合わせる事も無く通り過ぎていったのだった。 ただ、相馬の隣を歩いていた黒髪の子と翼は目が合った。 合ったと思ったその時、相馬の腕にその子は自分の身体ごと縋りつくように絡ませた。 まるで、それは翼に見せつけるかの様に。 相馬が誰と、腕を組もうが自分には関係ない・・・。そう頭ではわかっていたはずだったのにいざ、目の前へ見せられ胸の奥が締め付けられる様に痛い・・・。 「・・・相馬。」 その日の夜、いつもの様に相馬からメールは無かった。 翼自身も、自分から送る事はしなかった。 その代わりではないが、相馬に教えて貰った参考書片手に、この週末は勉強に時間を費やしていた。 期末初日、いつもの時間・・・相馬と朝勉強していた時間に登校した翼を下駄箱で朝比奈が待っていた。 「翼君、おはよ~!」 「ハル、おはよ。 早いの、珍しいね。」 「翼君待ってたんだよ。」 下駄箱で、上履きに履き替えてる横で朝比奈が笑顔でそういった。 「そっか・・・、待たせた?」 「ううん、いいタイミングだったよ~。」 一緒に、翼のクラスまで歩き出す。 「ねぇ、翼君は相馬の事好き?」 「・・・・・・!?」 歩いていた足を止めてしまう。 朝日奈も一緒に立ち止まり、翼の方を見る。 朝日奈とは身長差がそんなに無い。横を向けばすぐ視線が合った。 「そ、それは・・・。」 まさか、朝日奈は相馬との事をオレに・・・。そしたら、オレは・・・オレは・・・ 朝日奈の顔を真っ直ぐ見つめる翼。その頭の中は色々な感情で混乱していた。 あんなに、朝日奈の恋を応援すると決めたのに・・・。 「あ!! まって、そんな顔しないで・・・!!違うから!僕は違うからね!!!」 「・・・ハル・・・?」 翼の顔色が一瞬で青くなったのを見た、朝日奈が慌てた。 「別に、翼君が相馬の事好きでも僕は応援するから・・・だから・・・」 「・・・ハル?」 真剣な顔の朝比奈を見て、それが揶揄って言った事じゃないと解った。 「だから、相馬を信じて・・・」 「ハル・・・。けど、ハルは相馬の事・・・」 好きじゃないのか? そう、翼の目が訴えていた。 「!? え、僕?! ・・・あぁ・・・。」 その反応に、翼が自分と相馬の事をどう見ていたのか理解した。 「僕は、相馬の幼馴染。 ただ、それだけだよ。」 翼に向け、朝日奈はニッコリと微笑んだ。 「ハル。お、オレ・・・。」 「それは、僕に言わなくていい。」 朝比奈の人差し指が、翼の唇に触れる それ以上は、僕が聞く事じゃない。 「翼君『期末、頑張れよ』って、相馬から伝言。」 そう言って、朝比奈は自分の教室へ戻って行った。 「・・・ハル。」 その後ろ姿を見送り、自分の教室に翼は入っていった。 「ってかさー、何も朝一に言わなくても良かったんじゃね?」 「・・・何、盗み見?」 朝比奈が廊下の角を曲がった所で、黄瀬が待っていた。 「・・・おまえなぁ・・・。まぁ、大丈夫そうで良かったな。」 「だといいけど・・・。」 朝日奈は翼の様子を思い出し溜息をついた。 ・・・はぁ。 相馬、全部終わったら覚えてろよ! 廊下の窓から、朝日奈は晴れた雲の無い空を見上げた。 や、やってしまった・・・。 朝比奈に言われた事が、気にならなかったと言えば嘘になるけど・・・。これは明らかな自分のミスだ!!最後の最後でやらかしてしまった。 「翼君!! ホント、ごめん!!僕が、あんな事言わなければ・・・。」 「ハルの所為じゃないから・・・。」 最後の教科。思わず空席になっている相馬の席を見てしまった。 朝、ハルに言われた言葉。 「相馬を信じて。」その言葉の意味。 相馬が、期末前に欠席するとか・・・。そんなシナリオあったか・・・? オレが思い出せないだけなのか? けど、ハルは何かを知ってる様だった。それなら、やっぱり相馬ルートでは無いシナリオの一部なのか? 「そろそろ時間だぞ~。終わってる奴は見直ししておけよ~」 そう言いながらコンコンと机を見回りの先生に叩かれ、自分の思考が遠くへ行っていた事に気が付き慌てて、答案の確認をする。 「っげ!!」 答案用紙を回収する段階で、翼は自分が解答欄を一つずれて書いていた事に気が付いたのだ。 気が付いた時、時すでに遅し・・・ うなだれる翼と申し訳なさそうな顔の朝比奈。 その二人を慰める様に、黄瀬はポンポンと二人の肩を叩いた。 「けど、その後の教科は大丈夫なんだろ?」 「・・・多分・・・。」 「そしたら、あと二日! 他の教科頑張ろうぜ!」 「リョウ・・・」 こういう時、いつも先に場を和ませてくれるのは黄瀬。 まだ、短い付き合いだけど黄瀬はこういった細かい所で気を使ってくれている。朝比奈も自分の調子が戻ったのか、黄瀬に軽口を言い始めた。 「ってか! リョウはいつも平均位だからいいかも知れないけど、翼君は違うんだからね!」 「ひで~! オレだって頑張ってますよ!」 えっへんと胸を張った黄瀬に思わず、妹のあかねちゃんが重なって見えた。 こういう所、似てるんだろうな。 「そしたら今回は、リョウに負けちゃうかなぁ~」 「あ! 翼、それ馬鹿にしてるだろ?!」 「いやいや・・・馬鹿にはしてないって。」 「そしたら、リョウは翼君より点が悪かったら罰ゲーム~」 「え!?ちょ!! ハル!それは酷くないか?!」 「あはは!! それ良いな!オレより悪かったら、罰ゲームでもするか!」 二人のおかげで気持ちが落ち着いた。 さっきまで、落ち込んでいた気分も浮上し、残りの期間中は問題なく解答を埋める事が出来た。

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