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生物の先生
「え?! おにぃ、それ大丈夫なの!???」
「どうだろうなぁ・・・。その一教科は赤点決定だとは思うけど・・・。」
中学の期末も同時期に終わり咲紀と夏休みの事を決める為、駅の喫茶店で待ち合わせをしていた。
そこで、テストの話になり、解答欄を一つずらして書いてしまった事を話した。
「うわぁ・・・、ちなみになんの教科??」
「え? ああ、生物。」
そう、生物。
よりにもよって生物。あの時、見回り担当の先生の教科。しかも、オレは考え事をしていたせいで、あんなに近くに居たのに覚えてないという失態。生物の担当教師は二人いて、黒井紫苑先生は二年目以降の選択教科での生物を担当としている。なので、あんなに近距離に先生を見れる機会はめったに無いのに・・・。
はぁ・・・
勿体ない事をした。
溜息が思わず出てしまい、目の前の咲紀に目を向けると、顔に手をあてて何やら興奮している様だった。
「!!!!!!!! せ、生物・・・ってあの生物?」
指の隙間から、ちらっとこっちを覗いては閉じ、覗いては閉じの繰り返し
やっと聞いたと思ったら、何やら訳の分からない・・・
ん? この感じ・・・わかるような・・・気もする??
なんだか、懐かしさを感じる。こんなやり取り、ねぇちゃんともしたなぁ・・・。
「? あのって言われても、どの生物が他にあるのか解らないけど・・・。あ!もしかして、咲紀の学校にまで知れ渡ってるのか??
あの先生、イケメンだもんな!!」
「そ、そうなの!! あの、紫苑様のイケボで個人授業とかご褒美で・・・・」
咲紀が、堰を切った様に話初めて思わず、呆気に取られてしまった。
「・・・・咲紀?」
其処まであの紫苑様は人気が知れ渡ってるのか・・・。流石、目が合っただけで妊娠してしまうとおねぇに云わしめた男!!
「お、お見苦しい所見せました・・・。 けど、一教科位ならおにぃだし大丈夫じゃないかな?」
「そう、その大丈夫って・・・あの二人にも言われたんだけど何?」
「え!? おにぃ・・・おにぃの学校、成績上位の人はネーム入りタイが貰えるじゃん。」
「あ、ああ!なるほど!! それでか!!」
確かに、ネーム入りのネクタイはステータスだけど、別にネクタイには興味が無かったのですっかり忘れていた。
入学の時に、翼がネーム入りのネクタイを貰ってきたのを見て咲紀が喜んでたのは、そういう事だったんだ。
まぁ、冬服なんて入学したてじゃ3ヶ月も着てないし・・・、すっかりそんな存在忘れてたな。
そもそも、自分が勉強を頑張ろうと思ったのは、相馬と仲良くなりたかったからだしなぁ・・・。
その肝心の相馬は期末中も学校に来る事は無かった。
「おにぃ? どうかした? 暗い顔してるから・・・」
「え? ああ・・・。相馬がさ、学校を休んでいるんだけどさ・・・。」
期末前に有った事を咲紀に話した。静かに話を聞いてた咲紀が、相馬の婚約者として噂されている子の名前を聞いて反応した。
「八月朔日リオ・・・?」
「・・・? 咲紀、知ってる子なのか?」
今度は、咲紀の顔が曇った。
「ううん・・・。なんとなく聞き覚えがあった気がしただけ・・・。」
そう言って、笑顔を見せた咲紀に翼はそれ以上は何も聞かなかった。
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