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妹と兄
おにぃと駅で別れて、寮へ帰った私は今まで書き留めていたノートを読み返した。
この世界は、私が作った世界。
もし、あの『八月朔日』だとすると、おにぃは・・・
自分が、おにぃの妹として気がついた時は嬉しかった。
自分の作った作品をこんな間近で見る事が出来るなんて、作者冥利に尽きる!!って小躍りしたくらいだった。
けれど、おにぃと一緒に育って・・・。私は後悔した。
それは、この世界でのおにぃのポジション。
あの時の私は、結構ハードな作品にハマっていた。誠は知らないであろう、18禁の世界。
その中でも、監禁、凌辱物。スパダリが助けに来る王道物も大好きだけど・・・。
この『八月朔日』はそんな時に発売された、ドキメモ二期に出てきた子。そして私がこの同人ソフト用に改編して作ったキャラ。
そのキャラが、相馬様と居る。
という事は、おにぃの今いるルートは・・・。
溜息をつきながら、ノートを閉じた。
「いっそ、ハーレムルートだったら、良かったのに。」
そう、呟きながら咲紀は携帯でメールを一通送信した。
メールの返信は割とすぐ返ってきた。その事に、咲紀は安心したのか今度は安堵の溜息をついていた。
「・・・咲紀、少し様子が変だったなぁ・・・。そんなに『八月朔日』って有名なのかな?」
そういや、オレ。あいつらの周りの事一切知らないよな・・・? そもそも『八月朔日』なんてキャラクター居たかな??
オレの知って居る、ドキメモでは『八月朔日』なんて子は居なかった。しかも、乙女腐女子ゲームで女の子のメインキャラクター?
そんな事があるのか? 朝比奈とハッピーエンドルート、バットエンドルート、ノーマルエンドルートどれにも、相馬が女の子と結ばれるシナリオは無かったはず。それとも、他ルートのエピソードの一つなのか・・・???
翼は、最近書かなくなっていたノートを鍵の付いた引き出しから取り出した。
そのノートは、誠として覚えている限りのゲームの内容が書かれていた。最近は、記憶が安定したのか急に思い出す事も無くなり、引き出しから出して書く事も無かった。
それでも、軽く三冊分。
「・・・結構書いたんだな・・・。」
朝日奈が、このタイミングでオレに相馬の事を聞いてきた事も関係あるのかも・・・?
期末初日に、朝日奈に云われた事を翼は思い出しながら、一ページづつ記憶を辿りながら最初から読み始めた。
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