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もっさり

コンコン 「佐々木です。失礼します。」 生物準備室の扉を開けると、窓はカーテンが閉められ薄暗く。室内の空気は少し淀んでいた。生物室特融の薬品の匂いがした。 そんな中に、背の高い白衣を着た男性が立っていた。 その顔には、存在感のある黒縁眼鏡。 黒い髪はぼさぼさで外見に気を使っている様子などは感じられなかった。 けど、翼はその姿が偽りのモノと知って居た。 生物教師の黒井紫苑。ドキメモの攻略対象で、唯一の男性教諭。 あの眼鏡の下には、紫水晶の様な輝きの瞳。 普段は、ボソボソと話し、授業はプリント等を使った内容が多くあまり声を聴いた事の無い生徒が多いのだが、その声は相馬がイケメンボイスなら、この先生はエロボ!! 腰に来るエロさなのだ・・・。 ってか、先生がエロボとか、マジ授業になんないだろ!!って思ったけど、普段がアレだから大丈夫なのか・・・。 「おい。 佐々木、何をボケっとしてるんだ?」 「え!? あ、はい!」 準備室に入るなり、翼はマジマジと先生の事を見てしまったのだった。 そんな翼の視線に、苛立ったのか素で先生も話ていた。 「おい、佐々木。今回のテストはなんだ?」 「あ、はい・・・。」 「折角、見直せと言ってやったのに、無駄にしたな。」 「え・・・あ!」 あの時の先生だったのか・・・。 はぁ・・・ 「まぁ、いい。 今日から三日。ここの片づけをしろ。」 溜息と共に、黒井先生が準備室のカーテンと窓を開けた。 開けた窓からは、夏の香りが風に乗ってしたが・・・。その爽やかさとは真逆の惨状が陽の光の下に浮かび上がった。 「うわぁ・・・。」 「補講にならないだけ、有難く思え。」 そう、苦々しく口にした黒井を翼は驚いた顔で見つめた。 「なんだ? 補講が良かったのか?」 「え・・いや。それは・・・。片づけます!!」 補講になると、夏の試合に取材に行けなくなるので、先生の申し出はとてもありがたかった。 それも、今日からたった三日。 かなり寛容な措置だと翼は思って、びっくりしたのだった。   紫苑様って、結構いい先生なんだな・・・。 机の上の書類を片しながら、準備室の机で作業している先生を盗み見た。 その横顔は、もっさりとした髪に隠され目元は黒縁の眼鏡で覆われていたが、仕草一つ一つが流れる様で思わず片づけていた手が止まってしまった。 やっぱ、勿体ないよなぁ・・・。 ねぇちゃん、一推しの紫苑様とこんな距離で居れるとか・・・。 この三日間、やばすぎる!! 今更ながら、この状況に興奮し始めた翼だったが、そんな翼とは裏腹に眼鏡の下の紫水晶の瞳は冷たい光を向けていた。

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