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明日から夏休み(1)

今日で、生物準備室の掃除も最後。 そして、今日は修了式。明日から、夏休みになる。 結局、相馬とはなんだか変な空気なままだった。 何が変なのかと言われると自分でも良く分からなかった。 体育館から移動する時、翼は後ろから声を掛けられた。 振り向いてほぼ反射的に口にしていた。 「あ、紫苑様!」 「ちょ! 佐々木、人前でそれは止めろ。」 紫苑が慌てて翼の口をふさぐ。 口に手を当てられ、翼も慌てる。 確かに、先生に「様」とか着けてるって、ヤバイ生徒だよな。気を付けよう! しかも、今の紫苑様は普段の黒井先生バージョン。見た目も雰囲気ももっさりとダサい生物教師なのだ・・・。 「で、先生なんですか?」 声のトーンを抑えて、翼も聞き返した。 「ああ、今日の片づけは来なくていいぞ。 大分奇麗になったしな。」 「え・・・そうですか。」 「・・・なんだ、嬉しくないのか?」 「いやぁ・・・。折角、先生とも仲良くなれたので・・・。」 そう言いながら、モジモジしてる翼の姿が、ちょっとかわいいと不覚にも思ってしまったのがいけなかった。 「いつでも、顔出しにくればいいさ。」 「やった!」 ・・・しまった。オレは何言ってんだ・・・・。 翼が嬉しそうに小さくガッツポーズをしてるのを見ると、らしくない事を云ってしまった紫苑自身も少し嬉しくなった。 そんな翼の頭を撫でようと、紫苑が手を挙げたのとほぼ同時に翼の腕が後ろに引かれた。 「うわぁ。」 「翼、教室戻るよ。」 急に腕を引かれて、よろけた翼を胸に抱き留め 教室へ促したのは、相馬だった。 「黒井先生、まだ何か用ですか?」 紫苑に向ける視線が鋭い。 その事に本人は気が付いていなかった。 「・・・いや、もう済んだから大丈夫だよ。」 「では、失礼します。 ほら、翼も行くよ。」 軽く会釈をして、二人は体育館を出て行った。 ・・・ホント、権力者ってムカつくな。 「ちょ、相馬。腕痛いって。どうかしたか?」 体育館を出てからずっと、相馬は翼の腕を掴んだままだった。 そのまま、引きずられるかの様に翼は前を歩く相馬に着いて行くしかなかった。 翼を引きずる様に進む相馬の足は一向に止まる事が無かった。 段々と掴まれている腕が痺れてきて、翼もイライラし始めてしまった。 「ちょ!! 相馬、腕痛い!!」 思いっきり、相馬の手ごと腕を振り払った。 相馬の足も止まった。 「相馬、一体なんなんだよ!?」 掴まれていた腕をさすりながら、翼が相馬に投げかけた。 「紫苑様ってナニ?」 「え・・・? あ・・・。聞いて・・・。」 みるみるうちに翼の顔が赤くなる。 それを見た相馬が苦々しく、言い放った。 「何? 構ってくれば、翼は誰も良い訳?」 「はぁ?!」 一体何を言ってるんだ? 「随分と、ハルにも懐いていたようだし・・・。」 尻軽とでも言っているかの様な顔で、翼を相馬は見た。 その視線、その物言いに翼も相馬の居なかった間に感じた心配や不安が怒りに変わってしまった。 「何その言い方。なんでそんな風に相馬に云われなきゃいけないんだよ!! 意味わかんねーし!!」 そう言って、相馬を押しのけ教室に翼は戻って行ってしまった。 その後ろ姿を見て、自分の言った事に気が付いた相馬は其の場に立ち尽くすしかなかった。 「・・・こんな事言うはずじゃ・・・。」 教室に戻ると、翼はもう席についていた。 自分の言ってしまった事を謝ろうと、翼の席に近寄ろうとしたがタイミング悪く、担任が入ってきてしまった。 そのまま、互いに声を掛ける事も出来ないまま1学期は終わりを迎えた。

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