94 / 208
八月朔日 莉緒 (5)(青桐相馬 視点)
この八月朔日家に来るのは何年振りだろうか・・・。
祖父の命令でなければ自分は二度とこの家の敷居を跨ぐつもりは無かった。
朝食を頂く前に、朝練の汗を流しにバスルームへ相馬は向かった。
「・・・ついてくる気か?」
「え~、ダメ?」
「女扱いしなくていいのなら、好きにしろ」
「そーま君のケチ!」
バスルームの扉を閉め鍵をかけた。
八月朔日莉緒。母親譲りのストレベリーブロンドの髪を持つ愛らしい男の子と、オレは幼い頃出会った。
その頃、オレは青桐の期待と重圧から少しでも離れたくて、この八月朔日家に弓を習いに来ていた。
八月朔日は代々伝統芸能を生業にし、末端とは言え青桐の分家でもある。
そんな八月朔日家は、春と秋に祭事を行う。
春は演舞、秋は流鏑馬。
今年の演舞は、莉緒の義弟が見事な舞を踊った。
そして、囁かれる。周囲の評価。
あの事件以来、莉緒達は海外へ拠点を移していたのだが今回義弟のお披露目演舞の為、戻ってきたのだが・・・。
はぁ・・・
「翼に会いたい・・・。」
やっと、自分との接触に慣れてきたのに・・・。なのに、いつの間にか翼は、ハルや生物教師に懐いてしまっていた。
修了式の日、翼があの生物教師に声を掛けられた時、下の名で呼んでいた事にもそれに「様」が付いていた事にも酷く苛立った。
あの日、ハルから連絡を貰ってその足で祖父の元へオレは向かった。今回の件を片付ける代わりに条件の一つとして、便宜を図る様にと・・・・
それが、裏目に出たのか・・・。
入学当初も、翼はあの生物教師に興味があったようだったしな・・・。
「クソ!」
だからと言って、あんな事を言うつもりは無かった。
翼を一方的に責めてしまった・・・。
自分でも、あんなに感情がコントロールできなくなるとは思わなかった。
頭から、水を浴び
気持ちを引き締める。
パン!!
相馬は自分の両頬を両手で叩き気合を入れ
風呂場からでた。
外では、リオが壁にもたれながら待っていた。
「遅い~! おなかすいたんだから!!早く朝ごはん食べようょ~」
そう言って、また自分の腕に身体ごと摺り寄ってきた。
女の様に華奢ではあるが、その体は大人の男として少しずつ成長しようと変化している。
それにあらがう様なこの恰好のリオを見る度、自分の未熟さを思い知らされる。
自分がもっと、早く青桐の名を受け入れていれば良かったのだと。
ともだちにシェアしよう!