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新作ゾンビ

「ねー、おにぃ~。一緒に映画でも行かない??」 「ん~。何系?」 「それは、やっぱり夏ですから!! ホラ~だよ!」 そう言って、咲紀が映画の前売り券を見せた。 男子高校生の夏休みなのに、リビングでゴロゴロしている翼に見かねた咲紀が友人と行くつもりで買ってあったチケットだった。 「・・・お前、それ・・・。友達に昨日断られてただろ。」 ソファーに寄り掛かたまま、首だけ向けた翼が指摘すると、図星だったのか一瞬狼狽えたが逆切れされてしまい 結局、映画を観にモールまで行く事になった。 夏休みの序盤という事もあってか、モール内も劇場もそんなに混雑はしていなかった。 咲紀が座席を選んでいる間に、翼はポップコーンを買いに並んでいた。 並んでる翼の後ろから、今は気まずくて会いたくない人物に似た声がした。 「どれにするんだ?」 「ん~、そーま君に任せる~♡」 聞きたくないのに、耳が後ろの会話を拾ってしまう・・・。 あの黒髪の子と一緒に居るのだろう。 ずっき・・・ 胸の奥が痛い。 相馬が、誰と居ようと自分には関係ないのに。 自分の番になり、注文をしている所に咲紀が戻ってきた。 「おにぃ~、私これがいい~。」 咲紀の指刺したのは、前に相馬達と来た時、相馬が買ったセットだった。 商品を待っていると、後ろに並んでいた相馬達と目が合った。 自分の姿を見つけると、相馬は何か言いたそうな顔を一瞬見せた。 相馬が、翼の名前を呼ぼうとしたその時、隣に居た子が様子が変わった相馬の腕を引いた。 「そーま君? 列、動いてるよ!」 「あ、ああ。」 それと同時に、商品を受け取ってきた、咲紀に翼も促された。 「おにぃ~、どうかした?? 中入ろうよ。」 「う、うん。」 映画を観てる間も、さっき見かけた相馬が気になって仕方なかった。 隣に座っている咲紀の顔を盗み見ると、咲紀がこちらを伺う顔で見ていた。 「おにぃ・・・、大丈夫?」 「え・・ああ。 」 「そっか・・・。」 画面の中では、例のゾンビシリーズの新作なのか見覚えのある主人公達が武器を片手に、ゾンビと戦っていた。 「うぇ・・・ちょっと、画面に酔ったかも・・・。トイレ行ってくる。」 「だ、大丈夫??」 咲紀にそう言って、トイレへ席を立った。 その後を、追う様に席を立った男が居たのを視界の端に咲紀はとらえていた。 ・・・、これでおにぃの調子戻らなかったら・・・。 手に持っていたジュースのカップを握る手に力が入ってたのか・・・形が変形していた。 ・・・ふぅ。 洗面台で顔を洗っていたら、背後に人の気配を感じ、顔を上げると自分よりも背の高い男が 後ろに立っていた 「!!」 びっくりして思わず声を出しそうになった翼をそのまま、空いてる個室に引っ張り込んだ。 そのまま、後ろから抱きしめられる様に、翼の身体に腕を廻された。 「・・・び、びっくりした・・・。」 「すまない・・・。翼が席を立ったのが見えたから・・・。」 「いや・・・ホラー映画からのこの流れはマジ心臓止まるからな!」 「それは、困る。」 そう言いつつもこの腕の主は、腕の力を抜くつもりは無いらしい。 「こないだは悪かった。あんな事を言うつもりは無かったんだ・・・。」 「・・・相馬。」 廻された腕に、自分の手を重ねる ふと、目の前にある便器に気が付いた。 !! そ、そうだ・・・ ここ、トイレの個室!! こんな所に、男二人とか変だろ!! 「そ、相馬!! 腕、離して貰えないか??」 ぺちぺちと、重ねてた手で相馬の手の甲を叩く 「・・・もう少し・・・。」 「けど、ここトイレだし・・・。もうすぐ、映画終わるから・・・。」 「・・・許してくれるか?」 「・・・ああ、オレも返事返さなくてごめん。」 廻されていた腕が離れ 背中に感じていた体温も感じられなくなった事に寂しさを翼は感じた。 あ・・・オレ、相馬が居なくて寂しかったんだ。 だから、あの子が相馬にべったりなの見て、嫌だったんだ・・・。 「あ、あの、相馬・・・・」 「・・・何?」 「・・・試合・・・、差し入れ持っていくから。」 個室のドアを開けて出ようとしてた相馬にそう翼は思わず声をかけていた。 「ああ、楽しみしてる。」 そう言って微笑んだ相馬の顔を見て、翼の気持ちも浮上していた。 トイレから出ると、フロアの方で咲紀が待ってるのが見えた。 相馬に別れを告げ、咲紀の元へ急いだ 「おにぃ!! もう気分は大丈夫?」 「ああ、心配かけたな。」 「ううん。おにぃが元気になったなら大丈夫だよ。」 ニコニコと笑いあっている二人の傍を水色のワンピースを着た子がすれ違った。 すれ違いざまに向けられた視線に翼は気が付く事は無かった。 「そーま君。遅かったね。心配したんだよ?」 そう言って、自分の腕に絡みついてくる。 さっきまでこの腕に抱きしめていた感触との違いに、もう相馬は嫌悪感しか湧かなかった。

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